色彩
■ 2.賭けは程々に

「・・・とりあえずそれで納得してあげるわ。でも、そうね。人を探してくれるのなら、一つ頼みたいことがありますの。」
梨花は楽しげに言う。
『何でしょう?』


「弥彦様をお探ししてもらえないかしら。あの方、いつも所在不明で、連絡が取れませんの。時折、十五夜様があの方を探して周防家にいらっしゃるのだけれど、正直、霊王宮の偉い方を周防家でもてなすには限界があります。霊王宮の方は色々と規格外で私などの手には負えませんわ。」
梨花は困ったように言う。


「はは。それは確かに。私からもお願いしたい。」
慶一は苦笑する。
『なるほど。母の身内がご迷惑をお掛けしているようで、申し訳ございません。お引き受けいたしましょう。天音様にもお伝えしておきます。』


「そう。それは良かった。十五夜様が来られると、私の仕事が三倍くらいに膨れ上がりますの。使用人にあの方をお任せすることは出来ませんから。お父様は恐れ多いからと、すぐに逃げ出してしまうし。何が恐れ多いのかしら。面倒なだけよ、絶対。」
梨花は横目で慶一を見ながら、呆れたように言う。


十五夜様、一体、周防家でどのような振る舞いをしていらっしゃるのか・・・。
青藍は内心で苦笑する。
『それは、お気遣い頂きありがとうございます。十五夜様に関して何かあれば、朽木家にご相談ください。』


「そうですわね。遠慮なくそうさせて頂きますわ。それと・・・。」
『それと?』
「この笛、お返しいたしますわ。」
梨花が袖から取り出したのは、翡翠で作られた美しい笛である。


「この間お父様が青藍様から頂いた、「翠蝉」です。この笛は青藍様が持っておられるべきだわ。私たちには本当の音を聞かせてくれないの。」
『そんなことがあるのですか?』
青藍は目を丸くして首を傾げる。


「あるのよ。私たちではこれを奏でることが出来ない。出来るのは音を鳴らすことだけ。・・・本当に良い品だわ。だからこそ、吹き手を選ぶ。私の手元に置いておきたいくらいだけれど、物は使わなければ朽ちていく。だから、お返しいたします。翠蝉は貴方を選んでおりますわ。そうでしょう、お父様?」


「そうだね。悔しいけれど、私ではその笛を生かすことが出来なかった。青藍君の音色を聞かせてもらうことだけで我慢するよ。」
『そういうことなら、お預かりいたします。では、代わりの物を・・・。』
「その必要はございません。そもそも下らない賭けにその様な名器を簡単に差し出さないで頂けます?お父様もお父様よ。こういうものを簡単に受け取るのはお止め下さい。」


「はは・・・。つい、ね・・・。」
「一目見ただけで名器だと解るのは、私だってそうだわ。でも、周防家には周防家の笛がありますのよ?周防家の当主がよそ見をしてどうするのよ。」
梨花は呆れたように言う。


『ふふ。梨花姫は確りしておいでのようだ。私どももお遊びは程々にいたしましょう、慶一殿。また梨花姫に叱られてしまいますから。』
青藍は苦笑する。
「そうだね。でも、賭けはやめないよ?青藍君との賭け事は中々面白いからね。」
『私も止めるつもりはございませんよ。慶一殿との賭け事は中々有意義ですしね。』


「呆れた人たちだわ。どうせ碌な賭けじゃないのね。そういうの、高みの見物っていうのよ?」
『梨花姫も時折参加されているのですから、お互い様にございましょう。』
「私はお二人のように意地の悪い賭けには手を出しませんわ。」


「こんにちは。琥珀庵で、す・・・?」
そこへ燿が姿を見せた。
燿はそこに居る貴族の面々を見て、営業用の笑顔に切り替えた。
しかし、そこに慶一と梨花が居ることに気が付いて動きを止める。
その姿に彼と周防家の繋がりを知る者は内心苦笑した。


「燿さん?どうされたの?」
そんな燿の後ろから茶羅が顔を出した。
『茶羅。』
「あら、皆様お揃いで何か悪巧みかしら?」
貴族の面々を見つけて、茶羅は悪戯に言う。


「まさか。護廷隊の見学をしているだけですよ、茶羅姫。」
「そうです。茶羅姫のお顔まで拝見できるとは今日は運がいいですなぁ。」
男性陣がそう言って茶羅に近付く。
「そうでしたの。・・・秋良様に慶一様も御機嫌よう。お久しぶりですわね。」
茶羅は寄ってきた男性陣をするりと躱して、二人に軽く頭を下げる。


「茶羅様。お元気そうで何よりでございます。」
「やぁ、茶羅姫。いつ見ても君は美しいね。君のように光り輝く宝石は、私を惹きつけて止まないよ。時が経つごとにその輝きが増すのだから。」
「慶一様ったらお上手ね。あと数百年生まれるのが早かったら、慶一様を選んでいましたわ。」
そう言って茶羅は悪戯に微笑む。


「それは残念だったなぁ。私も数百年生まれるのが遅かったら、茶羅姫を選んでいたよ。」
「あら、それは嬉しい。」
二人はそう言って微笑みあう。
それを見た燿は、どことなく苦しげである。
青藍はそれに気が付いて、彼も色々と悩んでいるのだと、小さく同情した。

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