色彩
■ 1.護廷隊への見学者

「さて、皆様。こちらが六番隊にございます。」
仕事をしていた青藍の耳に、そんな声が聞こえてきた。
また霊術院の見学かな?
青藍はそう考えて、書類から顔を上げる。


そしてすぐに後悔した。
同じく顔を上げた橙晴も後悔したような顔をする。
案内されているのは貴族の者たちだったからだ。
その中には秋良や慶一、梨花も居る。
彼等は顔を上げた青藍たちに気が付くと、一直線に二人の元へやってきた。


「いやはや、青藍様のお姿を見ることが出来るとは。」
「橙晴様も居られるのですね。」
「ご機嫌麗しゅう、青藍様、橙晴様。」



・・・面倒臭いなぁ。
青藍は内心でそう呟きながらも、笑みを浮かべる。
雰囲気が変わった青藍を見て、隊士たちは青藍から目を反らした。
一部、笑いを堪えて居る者もある。


君たち、後で覚えて居なさい・・・。
青藍は彼らに軽く視線をやって、目でそう語る。
すると彼らはそそくさと仕事を進め始めた。
それを一瞥して青藍は視線を元に戻す。


『これはこれは、皆様方。本日は、護廷隊の見学に?』
「えぇ。死神の皆様との交流も兼ねておりますが。」
『そうでしたか。どうぞごゆっくり、ご見学くださいませ。』


「秋良殿までご見学とは珍しいですね。」
橙晴はそう言って秋良の元へ逃げる。
それに気付いた青藍が笑みはそのままに不満げな視線を向けるも、橙晴は素知らぬ顔だ。


「今日はわが娘の働きぶりを見るのを楽しみにして参りました。先ほど四番隊を見学させて頂いたのですが、大変驚かされました。」
「なるほど。どんな怪我人が運ばれてきても雪乃はひるまずに手当てをいたしますからね。かくいう私も、何度かお世話になっているのですが。」


「雪乃も公私ともに橙晴様のお力になることが出来て幸せなことでしょう。」
秋良はにっこりと微笑む。
「幸せなのは私の方ですよ、秋良殿。雪乃のような女性が私の妻なのですから。雪乃ほど心強い相手は居りません。」
「ふふ。そう言っていただけると、私も嬉しゅうございます。」


狡いぞ、橙晴。
青藍は楽しげな二人を横目で見つつ、内心呟く。
「青藍様は何を着てもお似合いになりますのね。何と凛々しいお姿でしょう。」
「死覇装を着ていても青藍様の内面から湧き出る神々しさは衰えませんわ。」
『ありがとうございます。』
女性陣に詰め寄られて、青藍は辟易する。
それでも笑みを崩すことなく礼を述べた。


「青藍様、相変わらず大人気ですわね。」
梨花が呆れたように言う。
『梨花姫ほどではございませんよ。梨花姫から良いお返事を頂けないと嘆く男性は数えきれないほど居りますからね。慶一殿もお困りなのでは?』
そう言って青藍は慶一に視線を向ける。


「そうでもないさ。娘が離れていくのは父親としては切ないからね。実花は祝言の日取りまで決まってしまった。行き遅れるのも心配だけれど、手元に居てくれた方が私としては嬉しくもある。」
慶一はそう言って苦笑する。


「あら、お父様は私が行き遅れると思っていらっしゃるのね。失礼だこと。私だってお誘いぐらいございますわ。」
「その誘いを悉く断っているのは、誰だったかな・・・。」
「今は当主になるために学ぶことが山ほどありますもの。色恋にうつつを抜かしている暇などありませんわ。」


『ははは。なるほど。これでは、慶一殿が心配なさるのも頷けます。』
「困った娘さ。青藍君、いい人、知らない?君の友人なんかはどうかな?」
慶一は悪戯っぽく聞く。


『ふふ。生憎、私の友人たちには既にお相手がございまして。ですが、ご所望ならばお探しいたしましょう。見つかるお相手が貴族とは限りませんけれど。』
青藍もまた悪戯っぽく返した。
「うーん・・・。それは複雑?」


『では、お探しするのは難しいかもしれませんね。並みの貴族では周防家の次期当主たる梨花姫のお相手は務まりませんので。力は尽くしますが。』
「ちょっと、青藍様?青藍様まで私が行き遅れるとお思いなのね?失礼な方だわ。」
『これは、失礼いたしました。梨花姫には梨花姫に相応しい方が必ず現れますよ。私が保障いたします。』


「心にもないことをおっしゃらないでくださるかしら。青藍様は口が上手すぎるくらいですもの。信用なりませんわ。」
『これは手厳しいですねぇ。ですが、これは本音ですよ、梨花姫。』
そう言って青藍は微笑む。

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