色彩
■ 31.気長に攻略

「それ、は、つまり・・・。」
「どうやら俺もあの男の影響を受けたらしい。政略結婚なんて馬鹿らしいと思うようになった。より多くの者を幸福にするために、自分が犠牲になってどうするのかと。幸福を知らぬ者が幸福をもたらすことなどできはしない。」


・・・私は、この言葉を自分に都合がいい意味で受け取っていいのだろうか。
実花はそう思って、問うように豪紀に視線を向ける。
それに気が付いたのかこちらに視線を向けた彼の瞳は柔らかく、愛しげに、自分を見ていることに気が付く。


私は何故、この瞳に気が付かなかったのだろう。
そう思うと同時に、嬉しさに涙が溢れた。
その涙が実花の頬を濡らす。


「泣くな。・・・困るだろう。」
豪紀は困ったようにそう言って、実花の頬に手を伸ばし、涙を拭う。
「・・・わた、私は、私の、我が儘だと・・・思って、おりましたのに。」
その手が温かくて、実花の瞳からはさらに涙が零れる。


「最初は、戸惑ったがな。突然周防家から見合いの申し出があったから。俺の母様を気に入ったという話だったが、本当にそれだけなのかと、何か意図があるのではないかと、疑ったのも事実だ。まぁ、杞憂だったらしいな。」
「い、一体、いつから・・・?」


「興味を持ったのは、深冬が目を輝かせて、お前を大切な友人だと言った時だ。それからお前がどういう奴なのか考えるようになった。お前の観察もした。見れば見るほどお姫様だが、お前は他の姫と違って、女であることを言い訳にしない。それが、好ましいと思った。だが、決め手はお前の笛だ。」


「笛?」
実花は首を傾げる。
「そうだ。お前の笛の音が俺の波長に合ったというか・・・。上手く言えないが、それに気付いた時に、お前だと思った。だが、お前が何を考えて俺のそばに居るのか解らなくてな。昨日のお前の言葉を聞いて、お前が俺のそばに居る覚悟を決めていることを知って、可能性に賭けてみようかと。」


「な、によ、それ。それでさっきの言葉なの?私を試したのね?」
実花は不満げに言う。
「お前だって俺を試しただろう。お前の難儀な才能に対して俺がどういうのか、あの場で試した。」
「それは・・・。」
「別にいい。お前の反応を見る限り、どうやら俺は賭けに勝ったようだからな。」
「そんなの狡いわ・・・。」


「俺はお前が思っているほど、実直な男ではないぞ。そうでなければ当主など務まらない。あの曲者ばかりの当主たちと付き合うことなど出来ないからな。」
小さく口角を上げながら言った豪紀に、実花は内心でやられた、と呟く。
私も、知らないうちに、捕えられていたのだわ。
掌の上で踊らされていた・・・。


「・・・男の人って狡いのね。」
「これでもまだまだ敵わない相手が腐るほどいるがな。」
「お父様とか?」
「あぁ。慶一殿は手強いな。まぁ、その辺も気長に攻略していくつもりだ。」


「ふふ。攻略できるかしら。」
「やってやるさ。お前が居れば、それも出来るだろう。・・・一緒に、歩いてくれるか?」
「えぇ。もちろん。私はそのために貴方の傍に来たのよ。」
「そうか。」


『・・・あれ、君たち、こんなところに居たのか。』
二人が暫く話していると、青藍が姿を見せた。
「青藍様。おはようございます。」
『お早う。』
返事を返しながら、青藍は二人をまじまじと見つめる。


「何か?」
そんな青藍に実花は首を傾げる。
『・・・もしかして、僕、邪魔をしてしまったかな。』
「「!?」」
青藍の言葉に二人は目を見開く。


『なぁんだ。もう少しかかると思ったのになぁ。賭けに負けちゃった。慶一殿に朽木家の名器をひとつ持って行かれてしまうなぁ。僕のお気に入りだったのに。』
青藍は詰まらなさそうに言う。
「賭け!?それもお父様と!?何よそれ!?」
実花が叫ぶように言う。


『あはは。君たちが何時くっつくのか賭けていたのさ。僕の予想では、加賀美君が動くのはもう少し後だと思ったのに。やっぱり、昨日の実花姫を見たら、動いちゃうか。』
「いや、待て。何故解る?」
豪紀は恐る恐る聞く。


『君はそういう奴だからね。実花姫が加賀美君を試すようなことをしていたから、それを利用して君が実花姫を試すのだろうと思ったのさ。』
「何故そこまで読まれているのか・・・。」
豪紀はそう言ってため息を吐く。


『ふふ。それは秘密。・・・ま、良かったね、実花姫。でも、加賀美君って、不器用だけれど意外と策士だから気を付けた方がいいよ。』
「そんなの・・・さっき気付いたわよ・・・。この人、結構狡いのね・・・。」
『あはは!そうなんだ。君も苦労するようだね。』
青藍は楽しげに笑う。


「そりゃあ、青藍様と付き合えるわけよねぇ。」
「それはお前もだろ。」
『あら、仲良し。でも、そろそろ朝餉の時間だ。深冬が実花姫に似合いそうな着物を選んでいるよ。加賀美君の死覇装はそのままあげる。二人とも着替えておいで。』


「あぁ。礼を言う。」
『構わないさ。じゃ、僕は春水殿を起こしてくるよ。中々起きてこないのだから。』
困ったようにそう言って青藍は去っていく。
それを見て二人は笑って、動き出したのだった。



2016.11.09 月舞編 完
〜彩雲編に続く〜

月舞編、この長さで時間は殆ど経過していません。
結構削ったのですが、それでも長いですね・・・。
前途多難な青藍の休息・・・とまではいかないですが、比較的平和なお話でした。
ちなみに睦月はルキアに思いを伝える気はありませんが、時々彼女で遊ぶことも忘れません。
次回は、彩雲編。
月舞編で平和に過ごした青藍が可哀想な目に遭います。
ここまでお付き合いいただき、有難うございました!


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