色彩
■ 30.受け取られた覚悟

「・・・要するに、すべて見抜かれていた、ということか。」
彼らの偉大さに、豪紀はため息を吐く。
そして俺は。
その機会を与えてくれた彼らの背を追いかけてみたくなったのだ。


だから、俺は今ここに居る。
当主として、席官として。
あの男が朽木隊長を追いかけるように。
あの背を追わずには、居られないのだ。
どんなに追いかけても届く気はしないのに。


深冬のことがきっかけで、彼らと関わる機会が増えた。
関わるたびに厄介なことになる。
俺自身、厄介な奴になりかけているらしい。
だが、それでも彼らが受け入れてくれた。


それが嬉しく、誇らしい。
彼らの守るものに、少しでも触れられるようになって、成長したと自分で思うことが出来るのだ。
彼らに受け入れられたからには、俺は俺の役目を果たそう。


厄介な者しか居ない故、厄介事しか起きないが、それもそれで、いいだろう。
いつもいつも振り回されて、気付かぬうちに巻き込まれているのだ。
たまにはこちらも振り回してやろう。
それが出来るほどに、強くあろうと、そして彼らの信頼を得ようと、豪紀は小さく誓ったのだった。


「あら、豪紀様。お早いのね。」
そんなことを考えていた豪紀の元に、実花が姿を現した。
「そっちこそ。」
「そうでもないわ。女性陣は起き始めているもの。深冬様なんか、私が起きたときにはもう布団に居なかったわ。随分早く起きたみたい。布団が冷たかったもの。」


「そうか。朽木青藍も起きていた。」
「そうなのね。それじゃあ、探しに行ったら邪魔になるわね。・・・お隣、よろしいかしら?」
「あぁ。構わん。」


そう言われて、実花は隣に腰を下ろす。
豪紀は未だ夜着一枚である実花を見て、自分の羽織を彼女に掛ける。
「・・・ありがとうございます。」
こういうことを当たり前のようにやるあたり、女性の扱いに慣れているのよねぇ。
肩に掛けられた羽織の温かさを感じながら、実花は横目でチラリと豪紀を見る。


その横顔が酷く力を抜いているようで、少し可笑しくなる。
まだ、寝起きでぼんやりとしているのかしら。
そう思って小さく笑みを零すと、その気配に気が付いたのか、豪紀が実花に視線を向ける。


「・・・どうした?」
相変わらずの仏頂面なのだが、その声は意外と柔らかい。
最近は、特に。
だからこの人、モテるのよ。
それなのに、自覚がないのよね。
実花は内心でため息を吐く。


「ちょっと、可笑しくなっただけです。豪紀様は面倒見が良すぎると思いまして。」
「何だそれは。」
「あら、自覚がないのね。だから青藍様にいいように巻き込まれるのだわ。」
実花は呆れたように言う。
「・・・反論材料がないな。」


「そうでしょうね。たまには手を抜くことをお勧めするわ。そうしないと青藍様に振り回されるだけですわよ。」
「たまにはこちらが振り回すことが出来るように、どうにかしようと考えていたところだ。」


「そうですの?それは楽しそうね。私も協力しようかしら。」
豪紀の言葉に実花は悪戯っぽく言う。
「それもいいな。だが、今のところ、彼奴の弱点は深冬しか思いつかない。」
「そうねぇ。それに、青藍様は深冬様が弱点だけれど、青藍様の最大の強みは深冬様なのよね。」


「そうなんだよな。深冬に手を出せば加賀美家が危険に晒されるから、気長に彼奴の弱点を探っていこうと思う。」
豪紀のその言葉に、実花は意外そうな表情をする。
その言葉の意味する所を理解したからだ。


「・・・青藍様たちと、長く付き合う覚悟を決めたのね?」
実花のその言葉に、豪紀は小さく笑って空を見上げた。
「そうだな。ああ言われてしまっては、そうするしかないだろう。それに、世界の秘密を知ってしまった。そのせいで俺にも役目が出来てしまったからな。仕方ない。」
諦めるような言葉とは裏腹に、その瞳はどこか楽しげだ。


「その上、お前が覚悟を決めている。昨日、あの場でお前の難儀な才能を話したのは、そういうことだろう?」
言いながら横目でチラリと見つめられて、実花は思わず目をそらす。
「気付いていらしたのね・・・。」


「俺だけじゃない。あの場に居た全員が気付いているだろう。そして、お前の才能を秘密にすると言った。あれには、覚悟を受け取ったという意味が含まれている。」
「咲夜様がそれに気が付いてああいったことは解ったのだけれど。・・・私もまだまだね。」
実花はそう言って苦笑する。


「でも、良かったわ。本当は、少し、怖かったの。自分が他の人と違うということは、自分を解ってもらえないってことでしょう?」
「そうでもない。違うからこそ、解り合えることもある。解らないことは怖いが、人と違うことは悪いことではないと、俺は思う。朽木青藍を見ていると、本当にそう思う。」
豪紀の言葉に、実花は胸が軽くなった気がした。


「・・・そうね。豪紀様の言う通りですわ。」
「恐れるな。お前に覚悟があるように、俺にだって覚悟がある。・・・お前は俺の妻となるのだろう。妻一人受け止められなくて、当主など務まるものか。」
その言葉に実花は目を丸くする。

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