色彩
■ 28.ガキ

『深冬?』
この瞳。
宝石のように美しく、しかし、そこにあるのは宝石のような硬質な光ではなく。
柔らかく、温かく、優しい。
ある時には強く、厳しい瞳。
またある時には弱々しい光を放つ。


それでも、孤独に押し潰されそうになっても、恐怖にその身が竦んでも、その瞳は凛と前を見つめているのだ。
見上げればいつもそこにある空のように、私を包み込む。
それが、愛しくて。


「・・・私は、空を手に入れたのかもしれないな。青藍は、空みたいだ。」
『それは僕の斬魄刀が雷で、すぐに天気が変わるから?』
複雑そうにそう言った青藍に、深冬は吹き出す。
『笑わないでよ・・・。その辺の自覚はあるんだよ。』
青藍はそう言って唇を尖らせる。


「ふふ。確かに、青藍の言う通りだな。」
言いながら深冬はそんな青藍の頬に手を滑らせる。
青藍はくすぐったそうにしながらもその手に擦り寄る。
「・・・でも、そういう意味で言った訳ではない。」


『じゃあ、何?』
「ふふ。秘密だ。」
深冬はそう言って微笑むと、不満げに突き出た青藍の唇に口付ける。
一瞬で離れたその唇は、ついでに固まったままの青藍の額にも落とされた。
目を丸くしている青藍に、深冬は楽しげに微笑む。


『・・・狡いなぁ、もう。そんなことされたら、僕、何も聞けないじゃないか。』
不満げな言葉を言いつつも、青藍の気配が嬉しげで、自分を抱きしめる腕が緩むことはなくて、深冬はまた笑う。
「狡いのは、お互い様だ。」


『今は深冬の方が狡い!』
「ふふ。そうでもないぞ?青藍の夢にまで私が居るとは、思っていなかったからな。」
『!!!』
嬉しそうに言われて青藍は目を見開く。


『・・・だって、僕、深冬のこと、大好きだもん。誰よりも、愛しているのだから、仕方ないじゃないか。』
「私だって、青藍を、愛している。・・・そう拗ねるな。可愛いだけだぞ。」
『もう何なの・・・。何処でそんな余裕を覚えてきたのさ・・・。』
そう言って青藍は赤くなった顔を隠すために、深冬の頭を自分の肩に寄せたのだった。


そんな二人を陰から見守る者が二人。
二人とも起き出してきて、偶然一緒になったのである。
「深冬は、意外と積極的なのだな・・・。」
ルキアは若干顔を赤くしながら呟く。


「咲夜さんの教育の賜物だろう。」
そんなルキアを横目でチラリと一瞥してから、睦月は静かに言う。
「何故睦月は平気な顔をしてあれを見ていられるのだ・・・?」
いつもと変わらない睦月の横顔に、ルキアは不思議そうに言った。


「俺の方が長く生きているからじゃないか?」
「そういうものか?だが、白哉兄様と咲夜姉さまの二人を、青藍たちは平然と見ているぞ?私は今でも見ていて恥ずかしくなるというのに。」
「お前はそう言う方面においてガキだからな。自覚が足りない。」


「何!?何だそれは!!」
ルキアは抗議するように睦月に詰め寄る。
「他人のやつを見ただけで顔を赤くしているくせに。・・・それじゃあ、自分がそうなった時、大変だぞ。」
睦月はからかうように言った。


「そ、そんなことはない!」
「へぇ?じゃあ、試してみるか?」
言いながら睦月は徐にルキアの頭を引き寄せる。
「へ?」
ルキアが呆気にとられている間に、睦月はルキアの額に唇を落とした。
ちゅ、とご丁寧にリップ音まで付けて、睦月は唇を離す。


「・・・。」
突然のことに頭が付いて行かないらしい。
ルキアは目を見開いたまま固まった。
その顔が徐々に赤くなっていく。
「ほら、な。大変だろ?」
睦月はそれを見て、満足そうに微笑んだ。


「だ、な、え?睦月・・・?」
その微笑にルキアはさらに混乱する。
「鈍いよな、お前。こういうことは上手く躱せっての。無防備すぎてこっちが困る。」
「な、何だ、それは?」


「そんなんじゃすぐに食われるぞ、という話だ。狼は何処にでも居るって、誰かに教わらなかったか?まぁ、いいけどな。」
「な、何か私を馬鹿にしているな!?」
「心配してやってんだろ。」


「嘘だ!目が笑っているぞ!」
「嘘じゃない。・・・最近は減ったが、それなりに見合い話が来る。お前にな。殆ど政略的な申込みだが、時折お前を慕っている奴もいる。もちろん俺が丁重にお断りしているが。」


「そんなこと、知らないぞ、私は。」
「今教えただろ。」
「だって、兄様も咲夜姉さまも何も・・・。」
「待ってんだよ。お前が大切な相手を見つけるのをな。いや、気付く、と言った方が正しいか。」


「気付く・・・?」
「いや、何でもない。やっぱお前はそのままでいい。売れ残ったら俺が貰ってやってもいいぞ?」
「何故そうなるのだ?」


「お前らを見て、家族っていいなぁ、と、俺も思うわけよ。」
「睦月は、もう私たちの家族だろう?」
当たり前のように言われて、睦月は苦笑を漏らす。
やっぱ俺、朽木家からは離れらんねぇな・・・。


「そうか。・・・じゃ、俺は出かけるぞ。全く、人使いが荒い。」
そんなことをぼやきつつ、睦月はルキアの頭を撫でると背を向けて去っていく。
文句を言いながらもその後ろ姿はどこか楽しげで。
ルキアはそれをポカンと見つめたのだった。

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