色彩
■ 27.朝の逢瀬

翌朝。
深冬は誰かに呼ばれた気がして目を覚ました。
朝日が昇ったばかりの、起きるには少し早い時間だ。
私を呼んだのは誰なのだ・・・?
そう思って深冬は起き上がる。
しかし、起き上がっても、咲夜も卯ノ花たちも皆が眠っている。


夢の中で呼ばれたのだろうか・・・?
深冬は首を傾げながらも、布団から抜け出す。
そして、音を立てないように静かに動いて部屋から出た。
・・・とりあえず、部屋に行って着替えて来るか。
深冬は内心で呟いて、自分の部屋へと歩を進める。


部屋の近くまで来た時、縁に座り込み、柱に凭れ掛かって空を見上げている青藍を見つけて、私を呼んだのは青藍だ、となんとなく思った。
その姿はいつも通りに戻っている。
しかし、遠くを見つめているであろうその後ろ姿が、どこか寂しそうな、孤独なような。


それに、寝起きとはいえ、ぼんやりとしすぎている。
これだけ近づいているのに、私の気配に気づかないとは。
着替えることもせず、夜着の上から羽織を着ているだけというのも青藍らしくない。
見たところ、起き出してきたのは随分前のようなのに。
それとも何か考え事でもしているのだろうか。


そう思いながら、深冬は青藍に近付いていく。
手を伸ばせば届くほど近づいても、青藍は気付かない。
どうやら小さくため息を吐いているようだった。


「青藍。」
深冬が声を掛けると、青藍は驚いたように彼女を振り返った。
目を丸くして深冬を見つめてから、柔らかく微笑む。
『おはよう、深冬。』
青藍は言いながら、深冬の腕を引いて自分の膝の上に抱き寄せた。


「お、はよう・・・?」
抱きしめられた深冬は内心首を傾げながらも青藍の背に手を回す。
気配がいつもと同じになった。
先ほどの青藍は、見間違いだろうか?
そう考えながらも、深冬は青藍の腕の中に居ることに安心して、青藍にすり寄った。


『・・・ふふ。』
すると、青藍のどことなく嬉しげな笑い声が聞こえてきて、深冬は青藍を見上げた。
「何を笑っているのだ?」
問われた青藍は、首を傾げた深冬に視線を向けて、くすくすと笑う。
「?」
笑い続ける青藍に、深冬は不思議そうな視線を向ける。


青藍はそれにさらに目を細めて、その額に唇を落とした。
そんな青藍の行動に、深冬はさらに首を傾げる。
それに気が付いているのかいないのか、青藍は次々と深冬の顔に口付けを落とす。
それがくすぐったくて、恥ずかしくて、深冬は小さく身を捩る。
青藍はそれに笑って、深冬の顎を捕まえると、今度は唇に自分のそれを落とし、ちゅ、とわざわざ音を立てて唇を離した。


「な、何なのだ!?」
深冬は赤くなりながら、青藍に問う。
『あはは。キス、したくなっちゃって。・・・顔が赤いよ、深冬。可愛いなぁ。』
青藍は笑いながら深冬を再び抱きしめた。
「青藍のせいだ・・・。」
言われて深冬は拗ねたように呟く。


『ごめんね?嬉しくて、つい。』
そんな深冬を宥めるように、その銀色の髪を梳くように撫でる。
時折その髪に口付けを落としながら。
「嬉しい?」
『うん。・・・深冬に会いたいなぁ、と思ったら、会えたから。』
青藍は楽しげに言う。


なるほど。
やはり私を呼んだのは青藍か。
深冬は内心で呟く。
彼の声が自分に聞こえたのが嬉しくて、やっぱり恥ずかしくて、深冬は緩む表情をどうにか抑えようと苦心する。


「・・・昨日の夜、会ったではないか。」
自分の心情を隠すように、深冬は素っ気なく言った。
『そうなのだけれどねぇ。朝、最初に顔を見たいのは、最初に声を聞きたいのは、深冬なのさ。それに、深冬が笑っている夢を見たのに、起きたら居ないのだもの。』


拗ねたように言われて、深冬は可笑しくなる。
夢に見るほど、私を想ってくれているのか。
だから、私が居ないだけで、あんなに寂しげな背中をしていたというのか。


「・・・ふふ。」
『あ、何笑っているの。僕は真面目に言っているのに。』
笑う深冬に青藍は不満げに言う。
「ふふ。朝、私が居なくて、寂しかったのか。」
深冬は笑いながら、からかうように言って、あやすように青藍の背を撫でる。


『・・・僕のこと子供っぽいと思っているでしょ。』
そんな深冬に青藍は唇を尖らせた。
「そんなことはない。」
『本当に?』
疑うように聞かれて、深冬は苦笑する。


「本当だ。」
『じゃあ、どうして笑っているのさ・・・。』
どうやら納得していないらしい。


「・・・青藍が、可愛くて、嬉しいからだ。」
『そんなことないもん。』
不満げな声に深冬はさらに笑う。
「頬を膨らませながら言っても、可愛いだけだぞ。」
『何で顔が見えていないのに解るのさ?』
「青藍のことだからだ。」


『何それ。深冬、狡い。』
そう拗ねたように言いながらも、深冬を抱きしめる腕が強くなる。
それに笑いながら、深冬は思う。
きっと、青藍の声が聞こえたのは、私も青藍に会いたかったから。
一番安心するのは、この温もりで、この声で。
そして、それから・・・。
そこまで考えて、深冬は顔を上げて青藍の頬に手を伸ばす。

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