色彩
■ 25.月の宴F

「では、それもこの場の秘密と言うことにしておこう。」
楽しげに言った咲夜に、皆が頷く。
実花はそれを意外そうに見回した。
「それだけですか?私が怖くないのですか?」


「あはは。その程度のことを怖がる私たちではないよ、実花。私たちはね、霊妃と言う存在を知っている。その力を知っている。その力が霊王と拮抗することも。その力は、未来を見通したり、過去を見せたりすることだって出来るのだ。青藍など、私の過去を覗いたからな。」
咲夜は実花に言い聞かせるように言う。


『覗いたわけではないのですが・・・。霊妃様に必要だから見ておけと言われたので。』
「まぁ、とりあえず、そういう力が身近にあるから、実花のその能力を恐れたりはしないさ。加賀美もそれを理由に君から離れたりはしない。そうだろう、加賀美?」
咲夜に問われて豪紀は当然のように頷く。


「えぇ。もちろん、利用することもしませんよ。」
「ふふふ。君は昔から聡い。だが、時々道を見失う。院生時代がそうだったな。あの時、君が青藍に絡んだのは、次期当主と言う重圧に潰されていたからだ。だから、一度そこから離れるために、青藍に手を出した。あの程度では青藍が潰れないことも見抜いていた。だから君は、青藍を選んだのだ。」
言われて豪紀は目を丸くする。


「図星のようだな。やり方はともかく、その選択は正しかったな。だから今、君は、ここに居るものたちに受け入れられているのだ。白哉でさえ、君を許している。なぁ、白哉?」
「さぁな。」
問われた白哉はそう言って盃を乾す。


「素直じゃないなぁ。まぁ、そこも白哉の可愛いところだ。・・・ふむ。見えすぎるものと見失うものか。君たちが夫婦となるのは必然かも知れないな。」
咲夜は一人で納得したように頷く。
「加賀美豪紀。君はまだ私が怖いか?」
そう問われた豪紀は、咲夜をまじまじと見つめる。


「・・・昔ほど、怖くはありません。昔はもっと恐ろしいと思っていました。貴方の前に立つと、大きな捕食者に狙われているような気分でしたから。」
「あはは!なるほど。それは正しい表現だ。」
「俺は、貴方の子どもたちも、深冬や安曇様も恐ろしかった。今となっては何故恐ろしいと思ったのか解らないのですが。」
豪紀はそう言って首を傾げる。


『それは、生存本能と言うものだよ。』
そんな豪紀に青藍は楽しげに言う。
「生存本能?」


『そうだ。君がさっき言ったように、僕らは捕食者だ。大きすぎる龍だ。食われる側の者ではない。元来、生物には死への恐怖がその遺伝子に刻み込まれている。それが反射となって体を動かすこともある。君の遺伝子はその恐怖を捉えて、僕らを敵だとみなしたんだ。それは正しい。』


「青藍の言う通りだ。それが正しい反応だ。だが、白哉に青藍、橙晴に茶羅は私や霊妃を恐れることがない。彼らの遺伝子は私たちを敵だと判断しなかった。血縁者だから、と考えることも出来るが、それでは十五夜様や叔母上が私を恐れる理由が説明できない。銀嶺お爺様や蒼純様だって私を恐れたしな。」


『前に、君に言ったことがあるだろう。「僕らは化け物だ」と。それはそう言うことなんだ。僕らは霊妃様にすら恐怖しない。さっきの君や実花姫のように霊妃様を前にして動けなくなるなんてことがない。敬意は払うが、恐怖はしないんだ。』
青藍は困ったように言う。


「そうなのか・・・。では、何故俺は今、怖くないのだろう?」
「慣れたからだろう。」
安曇はあっさりと言う。
「慣れ・・・?」
「そうだ。近寄りすぎて感覚が鈍っておるのだ。青藍に巻き込まれた結果だな。」


「それは・・・複雑ですね・・・。」
『あはは!ま、いいじゃない。君も化け物になりつつあるのさ。だから実花姫の変な才能もあっさりと受け入れることが出来る。その上、利用しないと言い切れる。』
「そうだな。君が関わっているのは、皆厄介なものなのだ。朽木家一同、厄介ものばかりだ。その周りに居る者たちもな。浮竹や京楽、烈さんでさえ、厄介なのだ。」


「あはは。咲ちゃん、聞こえているよ。」
「漣に厄介だと言われるのは心外だぞ。」
咲夜の言葉に京楽と浮竹は笑いながら言う。
卯ノ花は楽しげに微笑むだけだ。


「浮竹など、その身の内にあるものは、私と同じくらい厄介なものだろうに。」
「ははは・・・。それは否定できないな・・・。」
「ちなみに睦月はかなり厄介だ。あの男、尋常でないからな。色々と。」
咲夜はひそひそと言う。


「聞こえてるぞ、咲夜さん。尋常じゃないのはそっちだろ。」
「ほらな?それから蓮や雪乃たちだって、割と普通じゃないのだ。この青藍と普通に付き合っているあたり、どう考えても並みの奴らじゃない。」
『母上、それ、僕に失礼ですよ。』

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