色彩
■ 23.月の宴D

『ふむ。では、無間に囚われている者たちですら、世界に綻びをもたらす魂魄ではないということですね?あの者たちは世界にとって脅威にはなり得ない。貴方方が消していないということは、そういうことなのでしょう?』
「ほほ。流石に聡いの。その通りじゃ。」
霊妃は楽しげに言う。


『魂魄を消すか消さないかの判断は何でなさるのですか?』
「妾と霊王の力が及ぶかどうか。少なくとも、無間に居る者たちには妾の力が及ぶのじゃ。」
『・・・それは、無間が地下だからですか?』
青藍の問いに霊妃は目を丸くする。


「何故そう思うのじゃ?」
『霊王様のおられる霊王宮は地上にあり、霊妃様のおられる神殿は地下にある。霊妃様と霊王様は対の力だとおっしゃいました。そしてその力は拮抗するものです。霊王様が地上を治め、霊妃様が地下を治めると解釈するのは自然なことではありませんか?』


「ふふ。なるほどな。面白い答えじゃの。」
霊妃は楽しげに笑う。
『・・・半分正解で半分不正解、と言ったところですか。』
そんな霊妃を見て青藍は言う。


「青藍、好奇心は猫をも殺すと、いつも言っておるだろう。」
青藍を窘めるように安曇はそう言った。
『あはは。すみません。』
「全く、油断も隙もない・・・。霊妃も喋り過ぎだぞ・・・。」
安曇はそう言ってため息を吐く。


「ほほ。青藍相手だとどうも話し過ぎる。・・・さて、そろそろ帰るかの。こちらにばかりいると、霊王がへそを曲げるのじゃ。話し相手が居らぬ故、余程暇なのじゃろうな。全く、面倒な男じゃ。十五夜、妾を漣家へ連れていけ。」
霊妃はそう言って十五夜に飛びつく。


「何故僕が・・・。勝手に帰ることが出来るでしょうに・・・。僕だって皆と酒を酌み交わしたいのですが。」
不満げにしながらも無下にはできないのか、十五夜は霊妃を抱え上げる。
「今漣家へと行けば、弥彦が捕まるぞ。」


「本当にございますか?では、お連れ致しましょう。」
霊妃の言葉に十五夜は表情を変える。
「僕らはこれで失礼するよ。青藍、咲夜。今日もいいものを見せてもらった。」
「ふふ。ありがとうございます、大叔父様。」
『お褒め頂き、光栄にございます。』


「深冬もいつも僕の相手をしてくれてありがとう。安曇の娘だなんて勿体ないね。」
「五月蝿いぞ、十五夜。」
「本当のことだろう。それから・・・加賀美家当主、加賀美豪紀。」
「はい?」
唐突に話しかけられて豪紀は目を丸くする。


「その周防の姫と笛を大事にすることだ。今宵の笛の音、美しかった。いずれまた聞くこともあるだろうね。楽しみにしておくよ。」
「勿体ないお言葉にございます。」
豪紀はそう言って一礼する。


「硬いなぁ。いい加減、僕らに慣れたまえよ。これから先も朽木家と関わるのだから。」
予言のような言い方に豪紀は首を傾げる。
「解らずとも良い。・・・白哉!また来るからね!」
「二度と来るなと毎回言っているのだがな・・・。」
白哉は面倒臭そうに言う。


「嫌だね。駄目だと言われても勝手来るもーん。それで咲夜たちと遊ぶのだから。うかうかしていると、僕が咲夜たちを霊王宮に連れ去るからね!」
「勝手にしろ。皆自分からここへ帰ってくる。あれらの居場所は此処なのだから。」
「あーあ。君はいつも可愛くないよねぇ。ま、いいや。じゃあ、皆、またね。」
十五夜はそう言い残して姿を消したのだった。


『・・・ふふ。なるほど。加賀美君、大物を釣り上げたねぇ。』
十五夜を見送って青藍は笑い出す。
「は?」
「そのようだな。珍しく大叔父様は上機嫌だ。」
「あの爺の相手は大変だぞ、加賀美の倅。あれは糞爺だからな。」
咲夜と安曇も楽しげに言う。


「?」
豪紀はそんな二人に首を傾げた。
「どういうことですか?」
『ふふふ。十五夜様、君のこと気に入ったみたいだよ。』
「は?何故?」
青藍の言葉に豪紀はさらに首を傾げる。


『あはは。笛の音さ。あれでもあの方は色々なものを感じ取ることが出来るのだよ。無駄に長生きしているから。楽の音に移る人柄、感情、意思、過去、未来。他にも色々とね。それを見たうえで、君を認めたらしい。』
「何故?」
楽しげに言う青藍に、豪紀は納得していない様子だ。


『さてね。僕にも解らないが、聞いても答えてはくれないだろうなぁ。』
「とりあえず、大叔父様は君の敵にはならないだろうということだ。強い味方を手に入れたようだな、加賀美。」
「倅は苦労するな。まぁ、私も、深冬を守ってくれている分くらいはそなたの味方をしてやろう。」
『あら、安曇様までですか。』

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