色彩
■ 22.月の宴C

「右腕・・・?」
豪紀は首を傾げる。
『右腕を人型にしているんだ。今の霊妃様はその人型にした右腕を憑代にして降りてこられている。母上に降りることもあるよ。漣の血筋の女性にしか降りることは出来ないけれど。とはいっても茶羅にも降りることは出来ないらしい。』


「最近は咲夜に降りることは減ったがの。白哉が文句を言うのじゃ・・・。咲夜と同じ姿であるというのに、咲夜がいいとごねる。この妾に早く帰って眠れと言うのじゃ。」
霊妃は詰まらなさそうに言う。


「あはは。それは申し訳ありません。」
そんな霊妃に咲夜は苦笑する。
「良い。あれは、妾を咲夜の一部だと言った。それ故、妾ごとすべてを引き受けると。全く、懐の大きい男じゃ。良い男を選んだの、咲夜。」


「はい。私には勿体ないくらいなのですが、私は白哉でないと駄目なのです。」
困ったように言った咲夜に、霊妃は笑う。
「白哉もそなたでないと駄目なのじゃ。あの男は咲夜しか目に入らぬらしい。舞っている間もずっと咲夜を見ていた。妾など眼中にもないのだ。」
霊妃は楽しげだ。


『ふふ。そうですね。父上の一番はいつだって母上なのですから。』
「咲夜の一番も常に白哉だ。呆れるぐらい相思相愛の夫婦だ。」
「でも、素敵な夫婦だ。」
『うん。そうだね。』


「それにしても、そなたが加賀美家の者か。なるほどのう。」
霊妃は興味を持った様子で豪紀を見つめる。
『どういうことです?』
「初代によく似ているのじゃ。あれも妾を大層恐れた。訳もなく恐れ、近づくことを躊躇った。聡い男であったのう。」
懐かしむように、霊妃は言う。


「初代を、ご存じなのですか・・・?」
「あれはなぁ、妾が見えたのよ。妾が漣の巫女に降りずとも、妾の存在に気が付いた。珍しい男だったのう。妾を恐れるくせに、時折、妾を紙に描いていた。変な男であった。」


「初代の絵・・・。確かにそんなものが加賀美家には伝わっておりますが、しかし、あの絵と霊妃様は似ておられません。描かれていたのは、少女、のような・・・。」
霊妃の言葉に豪紀は首を傾げる。


「ほほ。言うたじゃろう。今の妾の姿は右腕を人型にしたものじゃ。本来の妾の姿ではない。もっとも、咲夜には本来の姿も見えているのじゃろうが。」
「えぇ、まぁ。深冬を見たときは本当に驚いたものです。霊妃様が神殿から出てきたのかと思ったくらいですから。」
咲夜は苦笑する。


『僕も霊妃様の本来の姿を見たときには驚きました。一瞬深冬に霊妃様が降りているのかと思いましたから。』
「ほほほ。妾の姿はあのまま変わることがない。霊王に嫁いだ時のままの姿で成長が止まった。今では深冬の方が大きいからのう。」


「そんなに似ておりますか?」
言われて深冬は問う。
「そうじゃの。この瞳の形などそっくりじゃ。」
「深冬の方が数倍可愛いがな。」


「相変わらずの親ばか具合じゃのう。この安曇の爺には妾の可愛さが解らぬのじゃ。」
霊妃はやれやれと首を振る。
「見た目に惑わされるでないぞ。こう見えても私などより数十倍長く生きておるからな。このような者を悪魔と言うのだ。青藍など比ではない。」


『あはは。安曇様、それ、どういうことですか?僕が悪魔だと言いたいので?』
青藍はにっこりと問う。
「そうではない。霊妃と比べたら青藍など小悪魔でしかないと言っておるのだ。」
『何にしろ、僕、貶されていますよね・・・?』


「ほほ。安曇とて、悪魔と呼ばれる類じゃろう。そなたが世界から「消した」者がどれほど居ることやら・・・。」
消した・・・?
霊妃の言葉にその場に居る者たちが恐ろしいものを見るような視線を安曇に向ける。


「なんだその目は。必要に応じて消しただけだ。たまに、消さねばならぬ厄介な魂魄が居るのだ。世界に綻びをもたらすものが。」
『それらしく言っておりますが、安曇様、魂魄を消すことが出来るのですね・・・。』
「世の理を調整するのが私の役目だからな。」


『それは解っておりますが・・・決して私情ではないので?』
青藍は疑わしげに安曇を見る。
そんな青藍の問いに、霊妃は楽しげにころころと笑い声を上げる。
「当たり前だ。私とて、好き勝手にやれば消される立場なのだぞ。そこに居る婆など、世界を消して作り直すことすら出来るのだからな。」
「それが妾の役目よ。」

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