色彩
■ 21.月の宴B

澄んだ笛の音が高く響いて、楽の終わりを知らせる。
その余韻が消えるまで、青藍、咲夜、安曇、それから霊妃は動かない。
空気の振動がなくなり、その場に音がなくなったところで、彼らは漸く動き始めて、見ていた者たちに一礼する。


それに習って、豪紀と実花も深々と頭を下げた。
そんな彼らに拍手が送られる。
白哉たちの表情が満足げであるのを見て取って、舞手たちは悪戯に微笑みあった。
豪紀たち二人も安堵の表情を浮かべている。


舞手たちに、深冬は用意していた茶を持っていく。
彼等はそれを受け取って一気に飲み始める。
見た目以上に体力を消耗するのである。
この、月の宴での舞は。


月の宴。
月に一度、霊王に舞を奉納するのである。
本来ならば、漣家の巫女によって執り行われるのだが、何分霊王のお気に入りは咲夜であるので、咲夜が朽木家に嫁いでからは朽木家で行われることになったのだ。


今日のように、霊妃が自ら舞うこともある。
安曇の一族が霊王宮で舞うこともあるのだが。
最近は、満月の日になると安曇が瀞霊廷に来て咲夜と青藍と共に舞うことも多い。
偶然安曇が居合わせることも少なくはない。
そこに霊王の意思が関係している可能性は高いのだが。


霊王宮で舞う分には、霊王との距離が近いためにそう消耗はしない。
しかし、瀞霊廷から霊王宮に届けるとなると、距離がある分、消耗が激しいのだ。
舞手のために茶や菓子を用意して持っていくのが、最近の深冬の仕事である。
ついでに十五夜の相手も深冬の仕事だ。
茶羅や雪乃が居れば彼女らと共に相手をする。


「・・・ぷはぁ!美味い。いつも悪いな、深冬。」
お茶を飲み終えた咲夜は、そう言って深冬の頭を撫でる。
「いえ。今日も、とても美しい舞でした。咲夜様も、青藍も、父様も。それから、もちろん、霊妃様も。」
深冬がそう言って微笑むと、皆が嬉しそうに微笑む。


『ふふ。僕は毎回大変だけれどね。なんて言ったって、この方々は尸魂界きっての舞の上手だから。付いて行くだけで精一杯だよ。』
青藍は苦笑する。
「そんなことはない。そなたの舞は軽やかで、この年寄りは付いて行くのが大変だ。」


「ほう。安曇も年寄りじゃのう。」
「五月蝿いぞ、婆は黙っておれ。」
安曇はそう言って霊妃を睨む。
「おぉ、怖い、怖い。」


「あはは。そんなことを言いつつも、安曇は余裕じゃないか。」
「いつもはこの倍くらい衣装が重いからな。その上、色々と装飾がある故、もっと体が重いのだ。」
『そうなのですか?安曇様、何時もの格好でも軽々と舞っていらっしゃるのに。』


「そうなのだ・・・。私もいつもこのくらいの衣装がいいぞ・・・。」
安曇は不満そうに言う。
「それは無理じゃな。霊王は美しいものが好きだからのう。そなたを飾るのを楽しみにしているのじゃ。」


「全く、面倒なことだ。大体、舞など、霊妃が舞えばいいのだ。何故私が毎回舞わねばならぬのか・・・。」
「妾はすぐに眠くなるからの。眠っていると霊王の声も聞こえぬのじゃ。」
「なんだ、婆の居眠りのせいか。本当に面倒なことだ。」


「ほんに口が悪い。・・・して、そこに居るのは誰じゃ?」
霊妃は興味津々といった様子で豪紀と実花を見る。
その紅の瞳に見つめられて、二人は固まった。
「・・・ふむ。こちらは加賀美家の当主か。それで、こちらは・・・周防の者だな。道理で舞いやすい訳だ。」
霊妃はそう言いながら二人を観察する。


「・・・ん?何故無反応なのじゃ?」
『この二人は、霊妃様とは初対面ですからね。動くことが出来ないのだと思いますよ。』
首を傾げた霊妃に、青藍は苦笑しつつ言う。
「そうか。忘れていた。妾に恐怖して動けぬのか。」
言いながら霊妃は二人の額に手をかざす。
ほのかな光が漏れて、豪紀と実花は漸く瞬きをした。


「これでよいじゃろ。動けるか?」
霊妃に顔を覗き込まれて、豪紀と実花はぎこちなく頷く。
そして、説明を求めるように青藍たちを見た。


『あーうん。紹介するよ。加賀美君はこの方が何者か解ったと思うけれど。』
「あ、あぁ・・・。この方が、そうなのか・・・?」
『そう。この方は霊妃様。僕らの最大の秘密。この世界の秘密そのもの、と言ってもいいけれど。』


「霊妃、様・・・?」
聞きなれない言葉に実花は首を傾げる。
「妾は霊王の妃じゃよ。もっとも、霊王に妃が居ることを知っておるのはほんの一部じゃがの。今ここに居る者たちと、霊王、それから、青藍の仲間たち。漣家と朽木家の者たちも妾の存在を知っておる。」


『この霊妃様こそが、漣家の力だよ。こう見えて、霊王様に匹敵するお力を持っておられる。まぁ、この姿は仮の姿だけれども。』
「そうじゃの。この姿は妾の右腕だからの。」

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