色彩
■ 20.月の宴A

「感情を押し殺して、痛々しいほどでしたからね。私などでは、どうすることも出来ませんでした。ですが、今はもう、その必要がなくなったようですね。朽木隊長には、咲夜さんや青藍、橙晴、茶羅。そして、ルキアさんがいますから。他にもたくさんの仲間がいるようですし。」
卯ノ花は安心したように微笑む。


「良かったですねぇ、白哉さん。卯ノ花さんのお墨付きですよ。」
睦月は楽しげに言う。
「五月蝿いぞ、睦月。だが・・・そうだな。私は、救われたのだ。恋次に、ルキアに、黒崎一護に。そして、咲夜に。青藍に、橙晴、茶羅に。」
舞を見ながら白哉はそう零す。


「あの時・・・ルキアの処刑が決まった時、私は、逃げてしまいたかった。朽木家の当主からも、隊長という責任からも。すべて捨てて、何も見ずに逃げたかった・・・。あの時のことを思い出すだけで、心が重くなる。私は、ルキアも緋真も裏切ったのだから。」


「白哉兄様・・・。」
自嘲するように言った白哉に、ルキアはそんなことはないと首を横に振る。
それをみて、白哉は瞳を柔らかくした。


「逃げようとする私を押しとどめたのは、咲夜だった・・・。私は、咲夜が生きていることを知っていた。私が当主になって最初にやったことは咲夜の捜索だった。見つける度に逃げられたが、それでも、咲夜が存在していることに安堵した。丁度あの時、咲夜を見つけたという報告が上がってきてな。そして、唐突に、幼い頃の約束を思い出したのだ。」


「約束って?」
「父との約束だ。」
「蒼純殿?」
浮竹は意外そうに言う。


「あぁ。父は、幼い私に、朽木家は咲夜の帰る場所だと、だから、咲夜が帰ってくるのを待っているようにと、約束させたのだ。」
「へぇ。そんな約束をねぇ。」
「らしいと言えばらしいが。」


「それを思い出して、逃げるわけにはいかぬと思った。紙一重の所で、私を繋げたのは、父であり、咲夜だったのだ。それ故、私は今、こうしてここに居ることが出来る。掟と、緋真との約束の間で苦しんだことも事実だが、踏みとどまることが出来て、本当に良かったと、今は思う。」
白哉はそう言って微笑んだ。


「ルキアが妹となり、咲夜が妻となった。子に恵まれ、仲間にも恵まれた。皆事情のあるものばかりで心配は尽きぬが、それでも、私は今、前を向くことが出来ている。」
静かに、だが、凛と前を見つめて、白哉は言った。
「・・・そうですか。本当に、強くなりましたね。」
卯ノ花は感慨深いと言った様子で言う。


「そうだねぇ。でも、強くなったのはルキアちゃんも一緒だよね。」
「そう、でしょうか?」
京楽の言葉にルキアは首を傾げる。


「はは。そうだな。昔のお前は、俺と海燕、それから仙太郎と清音以外の隊士とは関わらなかったからな。白哉の前では緊張しっぱなしで萎縮していた。それが今では、血の繋がった兄妹のようだ。副隊長として、隊を纏めるために、不器用なりに一生懸命、色々な隊士とも関わるようになった。隊士たちもそんなお前の姿を見て、力を尽くしてくれる。」
浮竹は嬉しそうに言う。


「それは・・・それはきっと、皆のお蔭なのです。兄様は私を拾ってくださいました。恋次は私が離した手をもう一度掴みに来て、一護が私を救ってくれました。あれが、私を強くさせました。」
ルキアの言葉に、皆が感慨深くなる。


「・・・海燕殿のことも、心の整理を付けることが出来ました。海燕殿のお心は、今も私がお預かりしております。迷ったり、悩んだりした時に、いつも背中を押してくれるのです。海燕殿はいつも私に勇気をくれます。」
「そうだな。俺はたまに、海燕が隊舎に居る気がするよ。」


「私もそう思います。・・・そして、咲夜姉さまが、私を見守ってくれました。青藍たちの成長が、私の力となりました。睦月はいつも、私の異変に気が付いてくれました。」
「それが俺の仕事だからな。」
「あはは。睦月君ったら、素直じゃないねぇ。」


「浮竹隊長は、不器用な私を気長に見守ってくださいました。卯ノ花隊長や京楽隊長、他にも、多くの人に私は助けられています。どれほど礼を尽くしても足りません。本当にありがとうございます。」
ルキアはそう言って頭を下げる。


「あはは。礼を言われるほどのことじゃあないさ。僕らはね、見守るのが仕事なんだよ。こんなに長く隊長をやっているとね、色々なことがある。それで、一番辛いのはね、若くて才能のある者が、儚く散っていくことなんだ。僕、それだけは、いつも、目を反らしたくなる。」
京楽はそう言って目を伏せる。


「そうだなぁ。俺もそれだけは慣れない。だから、つい、手を出してしまうんだよなぁ。」
困ったように笑いながら、浮竹は言う。
「そうそう。困った若者を見ると、手を貸したくなっちゃうんだよねぇ。」

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