色彩
■ 19.月の宴@

『・・・ふふ。「草薙」の「睦月」は手強い。』
笑った青藍を見て、睦月は少し力を抜く。
「朽木家当主には言われたくないね。毎度のことながら、その変わり身の早さには感服する。このように育った理由が知りたいね。」


『私は朽木家当主だよ。その私を教育したのは君だろう。睦月こそ、隠し事の上手さには感服するよ。君は本音をよく隠すからね。』
「朽木家当主が隠していることを教えてくれるのなら、話してやってもいいぞ?」
『あはは!流石に、一族の頂点に立つ者は、一筋縄ではいかないねぇ。』


「たまには逆らうものが居ないと、朽木家当主は飽きるだろう?飽きて世界を玩具にされては困る。」
『相変わらず私は信用がないね。・・・それでは近くに居てもらうしかない。』
「お互い様だろ。近くで監視していないと本当に何をするか解ったもんじゃない。」
『あはは。ま、このくらいじゃないと、私の楽しみがなくなるからね。今後も頼んだよ、「草薙」の「睦月」。』


「仰せのままに、朽木家当主様。・・・さて、茶番はこれくらいにするぞ、青藍。皆がお待ちかねだ。今日は卯ノ花さんまで来ている。浮竹さんと京楽さんはいつものことだが。」
『それは責任重大だなぁ。』
言いながらも青藍は微笑む。


「ついでに十五夜様もいらっしゃる。白哉さんが嫌な顔をしていた。ものすごく。」
『それこそいつものことでしょ。・・・仕方がない。帰りますかね。お待たせするとここまで来てしまいそうだ。睦月、ここのお勘定、朽木家から出しておいて。』
「はいはい。」


『さて、深冬。ちょっと一仕事してもらうよ。私の妻として、皆をもてなしなさい。』
「はい、青藍様。心を込めて皆さまのお相手を務めさせて頂きます。」
『深冬も切り替えが早くなって来たよね。ま、あの方々が相手だから、いつも通りでいいよ。さぁ、安曇様に、加賀美君、実花姫も参りましょうか。・・・次の同窓会は満月じゃない日に頼む。満月の日は色々とやることがあるものだから、ゆっくりできないんだ。今日も眠れるかどうか・・・。』


「その時は俺が寝かしつけてやるさ。」
睦月は楽しげに言う。
『睦月の寝かしつけるは、意識を落とす、なのだけれどね・・・。』
青藍の言葉に皆が思わず睦月を見つめるが、本人は気にしないらしい。


「五月蝿い。体を休められるのだからいいだろう。お前は普段から阿呆なのに、睡眠不足が重なるとさらに阿呆になる。使えない当主なんかいらないぞ、俺は。」
『酷いなぁ。それなら僕に休みをくれ。』
「それは貴族連中に言え。それか死神を辞めればいい。」
『えぇ・・・。そんな無茶な。』


「じゃ、諦めるんだな。・・・いいから早く帰るぞ。これ以上待たせたら本当にここまで来る。そしたら、俺は一人で邸に帰って寝るからな。」
『それは駄目だ!・・・じゃ、またね。時間が空いていればまた出席しよう。では、僕らはこれで失礼するよ。』


月が中天に差し掛かるころ。
朽木邸の中庭で、青藍、咲夜、安曇の三人が、笛の音と遊ぶように舞を舞っていた。
楽しげな、自然な舞である。


豪紀と実花は、その場に居た面々に緊張した様子で笛を奏で始めたのだが、そんな舞手たちの様子に緊張は解けたらしい。
徐々に無駄な力の入らない、のびのびとした音色になり、それがさらにその場に楽しげな雰囲気をもたらす。


青藍の金色の髪が翻ったと思えば、一つに結われた咲夜の漆黒の髪が撥ねる。
安曇の銀色の髪が月の光を優しく反射し、虹色に輝く。
見ている者を魅了する光景だ。
その雰囲気に釣られたように、響鬼に霊妃が宿る。
そして、興が乗ったのか、霊妃もまた、舞い始めた。


「・・・眼福、とはこのことだねぇ。」
舞を見ながら京楽はそう呟いて酒を呑む。
「そうだな。俺は幻想でも見せられているのかと思うよ。」
浮竹はため息を吐くように言う。
「ふふ。確かにそうですね。桃源郷にでも居る気分になります。」
卯ノ花はそれに同意した。


十五夜と深冬は彼らに目を奪われているようで、話しが耳に入って居ないらしい。
白哉もまた、頷くだけで、咲夜たちから目を離さない。
その瞳がどこか少年のように輝いていて、卯ノ花は小さく笑った。


「何笑ってんですか、卯ノ花さん。」
それに気付いた睦月は不思議そうに言う。
「ふふ。いえ、朽木隊長の瞳が少年のようだったので、つい。・・・本当に、表情が豊かになりましたねぇ。」


「・・・。」
楽しげに言われて、白哉は卯ノ花に拗ねたような視線を向ける。
「はは。確かにそうだ。幼い頃はもっと表情豊かだったが、一時期の白哉は酷かったからなぁ。」
浮竹は困ったように笑う。
「・・・五月蝿い。」
そんな浮竹に白哉は拗ねたように呟いた。

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