色彩
■ 18.睦月の本音

「青藍も何故普通にしていられるのだ?私は気色悪くて背中がぞわぞわする。」
『ふふ。いい加減慣れますよ。睦月は僕が生まれたときからそばに居るのですから。・・・睦月。いつも通りでいいよ。安曇様はいつも通りがいいらしい。』
「ですが・・・。」
『皆も知っているさ。知らない人も、まぁ、驚くだけだろう。』


「・・・はぁ。はいはい。解りましたよ。これでいいですか。」
素に戻った睦月は仏頂面で面倒そうに言う。
「うむ。それで良い。良い子だ。」
そんな睦月に構わず、安曇は満足そうに彼の頭を撫でた。
「・・・やめてください。鬱陶しい。」
その手から逃れるように睦月は頭を振る。


「この私がせっかく褒めてやっているというのに。素直じゃないやつだ。それとも・・・ルキアに撫でてもらった方が良かったか?」
睦月にしか聞こえないように、安曇は悪戯に言う。
「何のことだか、解りませんねぇ。」
睦月は楽しげな安曇から視線を逸らす。


「ふふ。私の目は誤魔化せぬ。まだまだ若いのう。」
「・・・青藍。」
『なに、どうしたの?』
「この年寄りになんか言ったか?」
睦月はじとりと青藍に視線を向ける。


『何も?安曇様が鋭いだけだよ。僕と深冬も遊ばれたから、君も遊ばれるといい。まぁでも、安曇様はちゃんと相談にも乗ってくれるから、相談してみれば?』
「・・・。」
青藍の言葉に、睦月は無言で安曇を見つめる。


「相談に乗ってやろうか?悩める若者は、年寄りの遊び相手にぴったりだからな。」
そんな睦月をからかうように、安曇は楽しげに言う。
「・・・機会があれば。」
「ははは!気が長すぎるのも、考え物だのう。」


「五月蝿いですよ。俺は、老い先短い爺じゃないですから。時間はたっぷりとあるんです。」
「ほう?そなたに時間があっても向こうに時間がないかもしれぬぞ?」
「そ、れは・・・解っていますよ。俺は、死神じゃありませんからね。」
睦月は拗ねたように言う。


「何もせずに後悔するのと、何かをやって後悔するのと。どちらがいいかは、そなたも理解しているだろうに。我らがどれほど不安定な存在か、医者である睦月が一番よく知っているのではないか?」


「甞めないでください。俺はね、もう、決めたんですよ。そばに居るって。だから、何があっても俺が治すに決まっています。老衰以外で死なせることはしません。俺にはそれが出来る。だからこそ、俺は、今ここに居るんです。」


「ほう?」
「正直なところ、俺がここに居る理由が俺自身の選択なのか、霊王のような大きな力に導かれているのかは、解りませんけどね。」
「その辺は安心しろ。「睦月」の意思は、睦月の意思だ。」


「なら、俺は好きにします。全てはあるべき場所に帰る。命もまた然り。だが、理不尽に消される命もある。俺は、理不尽が嫌いだ。だから、俺は、目の前であまりにも理不尽なことが起これば、俺の力の全てを使うことを厭わない。」
「それを私が止めるとしても?あの婆とて、黙って見ていることはしないと思うが。」


「貴方方を欺いてでも、手を尽くしますよ、俺は。」
真っ直ぐに視線を返す睦月を、安曇はまじまじと見つめる。
「・・・面白い男だ。あの婆が気に入るのも解る。」
『ふふ。睦月が珍しく本音だ。でも「それ」は僕には適用しないでくれ。』


「嫌だね。」
『即答なんだ・・・。』
青藍は呆れた顔をする。
「当たり前だろう。俺が大人しく命令を聞くと思ったら大間違いだ。」


『ふぅん?・・・この朽木青藍は、朽木家の当主だ。それでも私の命令に逆らうか。』
当主の顔になった青藍に、睦月は一瞬たじろいだが、それでも真っ直ぐに青藍を見返す。
「俺は、朽木家当主という立場に仕えているわけではない。」


『それでも、今、君を守っているのは、私だ。そして、私は、君の主だ。私のためであろうと「それ」を勝手に使うことは認めない。分を弁えなさい、草薙睦月。』
青藍に見つめられて、睦月は一度瞼を閉じる。
そして、一呼吸すると、瞼を開けた。


「分を弁えなさい、ねぇ?・・・間違えるなよ、朽木家当主。俺は、「草薙の睦月」だ。一族を見捨てた頭領だとしてもな。「睦月」がいつでも命令に従うとは考えないことだ。」
青藍をひたと見つめて、睦月は挑むようにいう。


『では、私の加護もいらないと?』
「本来ならば必要ない。本当に隠したいのならば、俺たちが消えればいいだけの話だ。それをしないのは「それ」を何故草薙が受け継いできたのか考えればすぐに解る。」
『・・・「それ」が必要なものだと?』


「そうだ。「それ」は少なくとも草薙にとって必要なものだ。そして恐らく、世界にとっても。現に霊王は我らを存在させている。それを守るのが我らの役目だ。それ故、我ら一族は何があろうと受け継いできた。今、「それ」を使うかどうかの決定権は、俺にある。つまり、「それ」をどうやって守り、どうやって使うかは俺の自由だ。今の「睦月」は俺なのだから。」

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