色彩
■ 17.黒琥

『・・・あはは!二人とも、流石だ。朽木家当主を相手にしても怯まないなんて。』
「突然朽木家当主になるのは狡くてよ。雰囲気が別人じゃない。」
『ごめんね、実花姫。ま、このくらいにしておくよ。皆が驚いているからね。』
「お前のせいだろうが。」


『ふふ。・・・とりあえず、実花姫には覚悟があるようだから、僕らの仲間入りをしてもらおうか。当然、口外は禁止。梨花姫と慶一殿にも秘密にしておいてね。』
「えぇ・・・。それは構いませんけれど・・・一体、何の話ですの?」
実花は首を傾げる。


『今宵、朽木邸に来れば解るよ。まぁ、知ってしまったら、君は逃げることが出来なくなるのだけれど。でも、どうせ加賀美君も逃げられないからなぁ。知っていても知らなくても実花姫は巻き添えを食らうのだけれど。それが嫌なら、うちへ来て笛の音を奏でてくれないか。加賀美君と二人で。侑李たちはきっと呼んでも来ないだろうから。』
「「「僕(俺)らは遠慮する。」」」


『あはは。だよねぇ。という訳だから、来てもらえるとありがたい。』
「それじゃあ仕方ないわね。行ってあげるわよ。」
「・・・はぁ。断っても連れて行くんだろ。」
豪紀は疲れたように言う。
『あはは。まぁ、そうだね。』


「では、豪紀様と実花さまの分の席もご用意いたしましょう。」
「でも私、今日は笛を持ち合わせていないの。一度周防の家に帰ってもいいかしら?」
『ふふ。その必要はございませんよ、姫君。我が朽木家には、名器と呼ばれる笛がいくつもありますから。弥彦様が王族より賜った品もございます故、お使いになられては如何です?』


「朽木家の当主は莫迦なのかしら。あの笛を吹けるのは弥彦様だけよ。私が息を吹き込んだところで、うんともすんとも言わないわよ。」
『・・・え?僕、吹いたことあるよ?』
「ほう。青藍はあの「黒琥」が吹けるのか。」
安曇は感心したように言う。


『そうですけど・・・。母上も吹いていましたよ?』
「咲夜も?・・・ふむ。あれは吹き手を選ぶのだがなぁ。私がそう作ったはずなのだが。」
『あれも安曇様が!?楽器も造ることが出来るのですか?楽を奏でるのはあまりお得意ではないでしょうに。いや、あの可愛らしい音色、僕は好きですけど。』


「五月蝿いぞ、青藍。・・・王族に頼まれて仕方なく作ったのだ。全く、無茶な注文をしてくれる。笛に魂魄を入れろなどと、頭がおかしいのかと思うたわ。」
安曇はやれやれと首を振る。


『あー、なるほど。だから弥彦様は「黒琥」を朽木家に置いているのか・・・。「朽木家には私より相応しい吹き手が居る」とか言っていたくせに・・・。本当に老獪だ・・・。』
青藍はそう言ってため息を吐く。
「どういうことだ?」
そんな青藍に深冬は首を傾げる。


『笛の名手である弥彦様は霊王様のお気に入りなのだけれどね・・・。あの方は基本的に所在不明だから、黒琥を持たせて居場所を掴もうとしたのだろう。魂魄が入っているのなら、その気配を辿ることが出来る。それに、その魂魄は、普通の魂魄ではないのでしょう?』


「その通りだ。私は無駄だと言ったのだがな。私の予想通り、弥彦はそれに気が付いて黒琥を持ち歩いてはおらぬ。」
『弥彦様は朽木家の情報網をもってしても中々捕まりませんからねぇ。尸魂界の情報を操作できるようなお方ですので。』
青藍は苦笑する。


「あれを捕まえられるのは天音くらいだろう。弥彦も弥彦だ。昼寝をするぐらいには馴染んでいるのに、中々寄り付かぬのだから。若造の癖に飄々としおって。」
「それは・・・申し訳ありません・・・。私から謝罪を申し上げます。」
実花もまた苦笑する。
「私は構わぬ。弥彦の被害を受けるのはあの糞爺だからな。愉快だ。」
安曇は楽しげに言う。


「父様、本音が出ているぞ・・・。」
『あはは・・・。あの弥彦様を若造というあたり、流石というか、なんというか・・・。』
「安曇様も大概だよな・・・。」
『うん・・・。心強い味方だけれど。』
「敵に回したくない方だ。」
『あは。僕もそう思うよ。』


「あの安曇様の娘なのですから、深冬様が青藍様の傍に居るのも納得です。青藍様は本当に良い方を迎えられましたねぇ。」
睦月がしみじみという。
『ふふ。感謝、しないとなぁ。』
「そうですね。お礼を申し上げますよ、安曇様。」


「礼などいらぬ。お互い様だからな。・・・で、睦月。そなたは何故そのような仮面を被っておるのだ?ここに居るのは死神なのだろう?隠す必要があるのか?」
安曇は不思議そうに言う。
「主に敬意を払って何が悪いのですか?」
睦月はにっこりという。


「その貼り付けた笑みで言われても説得力がない。胡散臭い笑みだ。」
『あはは。これでも、この睦月は貴族からも評判がいいのですが。』
「これが・・・?貴族の者は皆、余程目が悪いらしい。」
『安曇様、辛辣ですねぇ。』

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