色彩
■ 13.睦月と師走

「そもそも、あの草薙の兄弟は一体何者なんだ?草薙先生も、草薙師走も普通の奴じゃないだろう。」
『ふふ。睦月を拾ったのは母上で、師走を拾ったのは父上と僕かな。彼らは優秀な医者だよ。お蔭で僕は体を貫かれても傷一つ残っていない。・・・死ぬ思いはしたけどね。』


「確かにあれは気の毒だったな・・・。雪乃様も楽しんでいた・・・。」
深冬は遠い目をする。
『うん・・・。治療の方が痛いってどういうことなのか・・・。』
苦い薬と痛い塗り薬を思い出しそうになって、青藍は軽く頭を振る。


『ま、それはいいとして。本業は医者。副業は朽木家の護衛・・・という所かな。睦月に関して言えば、霊術院の教師でもあるね。』
「だが、出自が不明だ。草薙先生について調べても何も出てこなかった。そもそも、あの人の戸籍が出来たのは朽木家付きの医者になってからだ。それ以前の記録は全くない。それなのに霊術院で教師をやっているなど、どういうことか解らない。」


『ふぅん?加賀美君、睦月のことを調べたんだ。』
「・・・まぁな。」
意味深な視線を向ける青藍に、豪紀は気まずそうに答える。
『ふふ。ほんと、妹思いのいいお兄さんだよねぇ。』
青藍はニヤニヤという。


「・・・。」
そんな青藍を豪紀は忌々しげに見つめる。
「どういうことだ?」
深冬は首を傾げるが、青藍はそんな深冬の頭を撫でるだけだ。
「・・・それはいい。それで、草薙師走も同じようなものなんだろ?」


『そうだねぇ。ま、睦月も師走も訳アリなのさ。睦月が霊術院の医師になったのは、前任の医師に拾われたから。戸籍がなかったわけじゃない。もともとあった戸籍を草薙睦月と草薙師走に直しただけさ。睦月は睦月であって睦月でないから。もちろん、師走も師走であって師走ではない。彼らの名前は役割みたいなものだからね。それでも睦月は睦月だし、師走は師走なのだけれど。だからこそあの二人は今、睦月と師走なんだよ。』


「お前、煙に巻こうとしているだろう。」
豪紀は不満げに言う。
『ふふ。事実だよ。まぁ、でも、教えてあげよう。「草薙」というのは、尸魂界を放浪する一族だった。今はもう、生き残りはほとんどいない。』


「草薙・・・医者・・・。」
青藍の言葉に、実花は考え込む。
『おや、実花姫は心当たりがあるのかな?』
「えぇ・・・。昔、何かの書物にその名が載っていたような・・・。」
そこまで言って実花は思い出したように目を見開く。


「思い出したわ・・・。草薙の一族は医術に長けた一族なのよ。曾お爺様がお体を悪くした時に、突然草薙と名乗る医師がやってきて、それを治したらしいの。その記録を見たのだわ。「緑の髪と瞳を持つ者。医術の腕は比類ない。だが、草薙と名乗るだけでそれ以上は何も語らなかった。」と、記してあったわ。」


『ふむ。まぁ、そういうことだよ。腕のいい医師が揃った一族だ。それなのに中々姿を見せないから、幻の一族とも言われているけれどね。睦月はその中でも一番腕がいい。それ故、睦月は「睦月」なのさ。』
「睦月・・・。一月ね。一番目の月。ということは、師走さんは十二番目?」
実花は首を傾げる。


『うーん・・・。師走は特殊だからなぁ。能力は一番目に匹敵する。でも、師走の母親と睦月の母親は違うらしい。だから、師走は十二番目。』
「師走さんのお母様の方が、身分が低いってこと?」
『身分・・・というよりは、まぁ、血統の問題さ。何処に行っても血筋だの何だのと、面倒なことだけれど。』
「そうだな・・・。」
青藍の言葉に深冬は同意する。


「でも、それならどうして睦月さんと師走さんは草薙の一族に居ないの?一番目が居ないというのは一族にとって不都合なはずだよ?」
キリトは首を傾げる。
『そうだねぇ。色々あって、女性不信になった睦月が一族から逃げ出したのさ。』


「「「え?そんな理由!?」」」
『まぁ、あれだけ医術の才があって、「睦月」で、その上あの顔だから、仕方ないのかもしれないけれど。睦月は今でも女性が得意じゃないしね。師走は一族に縛られるのは面倒だし、血筋によってそう重宝されるわけでもなかったから混乱に乗じて行方を晦ましたらしいけど。』


「混乱って何だ?」
『よくある話さ。一族内で、血で血を洗う争いが起こった。尸魂界を放浪する一族ではあるけれど、草薙の一族というのは、貴族と関わることがあるんだ。実花姫が話してくれたようにね。一族の長になるというのは、それなりに価値があることらしい。』


「なるほどねぇ。それなのに、一番の睦月さんが逃げ出したから、色々と問題が起こったわけだ。どうせ誰が長になるかで揉めたんでしょ。」
京は呆れたように言う。

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