色彩
■ 8.同窓会F

ひらり。
青藍が袖を翻すたびに、それを見ている同期たちは先に逝った者たちを思い出した。
彼らの無念を感じ取って涙を流す者もいる。
しかし、次第に舞と笛の音が彼らに光を見せる。


その光が死んでいった者たちのようで。
その光は柔らかく、温かいもので。
青藍と豪紀がそれを悼んでいることを感じて。
二人の心に触れた気がして、周りの者は彼らもまた、死の前には、自分たちと同じく無力なのだと知った。


それでも、彼らは前を向いて、凛と立ち続ける。
その身にどれ程の重圧があるのか、解るものは居なかったが、彼らはそれをすべて引き受けて、今この場に居るのだと悟る。
その覚悟を感じて、自分たちも強くなろうと、舞を見ていた者たちは決めたのだった。


最後の音が消えていく。
それを感じて、青藍も動きを止めた。
一瞬の沈黙のうち、二人に拍手が送られる。


『・・・僕も加賀美君も、色々な立場があって、こんなことしか出来ないのだけれど、でも、彼らの死を無駄にすることはしない。それだけは覚えていてくれ。傍から見れば、非道とも取れる行いをすることもあるだろう。だが、僕らはそれを引き受ける覚悟をしてそうしている。死神としても、当主としても。』
青藍はそこで言葉を切る。


『でもね、誰かが死ねば悲しいし、傷つけば苦しい。それは、君たちと同じだ。』
「俺たちも、一人では無力だしな。」
『そうだね。でも、僕らは、当主として、席官として、立ち止まる訳にはいかない。それだけの責任が、僕らにはある。』


「そうね。貴方たちには責任がある。とても大きな責任が。でも、それを貴方たちだけに背負わせることはしないわよ。」
雪乃は凛と言い放つ。


「私だって席官の端くれだし、貴族の一員なの。そして何より、私は覚悟を決めて朽木家へと嫁いだのよ。朽木という名を背負う覚悟を決めて今ここに居るの。そして、橙晴はいずれ、隊長へと上り詰める。それがどういうことなのか、解って共にあると決めたわ。明るいことばかりではないことを、理解して、それでも、私はそれを引き受ける。当然、貴方たちにだって、手を貸すわよ。私は、朽木雪乃なの。」


『ふふ。流石雪乃だ。その覚悟を決めてくれたこと、朽木家当主としても、僕個人としても、お礼申し上げる。』
青藍はそう言って一礼する。
「お礼なんかいらないわよ。」


「朝比奈は、そういう奴だよなぁ。」
はっきりといった雪乃に、豪紀は苦笑する。
「あら、私との婚約を解消するようなことになって、今頃後悔しているのかしら?」
「まさか。ただ、俺は、お前を見縊っていたらしい。」
「今頃気が付いたの?ほんと馬鹿なんだから。」


「そうだな。・・・悪かった。色々と。」
豪紀はそう言って軽く頭を下げる。
「何のことかしら。そんな大昔のことなんて、もう忘れたわよ。まぁ、悪いと思っているのなら、今後も青藍に巻き込まれることね。青藍、好きなだけこき使ってやりなさい。」


『あはは。そうだね。加賀美君には色々と協力してもらわなくちゃ。なんて言ったって、僕らのお義兄さんだからね。朽木家皆で君を振り回してあげるよ。』
「それは勘弁してくれ・・・。」


「そう考えると、私たち三人って、血の繋がらない兄弟なのね。」
雪乃は今気が付いたというように言う。
『確かに。実際の所は別として、精神的には誰が一番上?』


「朝比奈だろ。」
『あはは!じゃあ、一番下は?』
「青藍に決まっているじゃない。それで加賀美君は色々と苦労する真ん中ね。ご愁傷様。」


「それは考えるのも嫌だな。」
豪紀は苦々しい顔をする。
「仕方がないわね。ま、せいぜい実花さまに振り回されることよ。」
『すでに振り回されているからその辺は大丈夫だよ。ね、加賀美君?』
「五月蝿い。黙れ。」


「お前ら、流石だよなぁ。」
「というより、青藍って、やっぱり凄いよねぇ。」
「雪乃も懐が広いよね。」
豪紀をからかう二人を見て、三人は苦笑する。
「ま、加賀美も馬鹿の仲間入りって事でしょ。」


『え、京、馬鹿って雪乃のこと?』
「青藍に決まっているじゃない。まだ馬鹿だという自覚がないのかしら?本物の馬鹿ね。」
「馬鹿だから仕方ないだろ。」
『二人とも酷い!・・・そこ三人も何笑っているの!言っておくけど、君たちだって馬鹿の仲間だからね!?解っているの!?』


「馬鹿にならないと、青藍の傍になんて居られないんだよ。」
「そうそう。俺たちはお前のために馬鹿になってやっているんだよ。」
「あはは。そうだね。青藍、本当に馬鹿だもんね。僕たちがレベルを下げて合わせてあげないと。これが朽木家の当主だもの、笑うしかないよね。」
頷き合う彼らに、青藍は唇を尖らせた。

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