色彩
■ 7.同窓会E

「うわ、青藍、それは本当に脅しだよ・・・。」
「こいつ、怖いな・・・。」
「青藍、躊躇いなくそうしそうだもんね・・・。」


『あはは。ま、いいじゃないの。それでも深冬は笑っているもの。たまに泣くし、怒るけど、それでも最後は笑ってくれる。』
青藍はそう言って柔らかく微笑む。
その微笑に皆の視線が釘付けになるが、それも気にならないらしい。


『あの子は僕に助けられてばかりだというけれど、それは違うんだ。本当に助けられているのは、僕の方。深冬が居るから、僕は朽木家の当主となったんだ。あの子が、僕に夜明けを連れてきてくれる。だから僕は、どんな道でも歩いていける。』
穏やかに、愛しそうに、青藍は言う。


『僕のこの手は決して綺麗なものばかりを掴んでいるわけではないのに、深冬は迷わずその手を握ってくれる。僕が背負うものの大きさを知りながら、共に背負ってくれる。その上、僕自身のことも支えてくれている。もう僕は、深冬が居ないと立ち上がることすら出来ないかもしれない。』


「・・・はぁ。お前はそういう奴だよな。深冬が居ないとダメ人間になる。」
豪紀は呆れたように言う。
『あはは。そうかも。』
「深冬は、何故お前みたいな奴を選んだんだろうな・・・。わざわざ険しい道を選ぶ必要なんてないのに。」
困ったように、心配そうに言った豪紀を見て、青藍は苦笑する。


『そうだねぇ。僕も不思議だよ。でもそれが、深冬の強さだよね。あらゆる覚悟をして、僕の隣に居る。だから僕は、あの子を連れていくよ。どんな道でもあの子と共に切り開いてみせる。絶望すら、希望に変えて見せよう。・・・もう、本当に手放せなくなっちゃった。どうしようか?』
青藍は困ったように笑う。


「・・・手放すな。深冬から、離れたり、突然いなくなったりするな。あれを、一人にしてやるな。感情を見せない彼奴を見るのは、もうたくさんだ。お前が彼奴を必要とするように、彼奴にはお前が必要なんだ。悔しいが、彼奴を守ることが出来るのは、お前だけだ。」
豪紀の言葉に青藍は目を丸くする。


『・・・うん。約束するよ。あの子が笑っていられるように、僕は手を尽くす。僕の全てで守り抜くと誓おう。』
「・・・そうか。」
真っ直ぐにそう言った青藍に、豪紀は苦笑しながら頷く。


『その代わり、君も、深冬を家族だと言ったこと、忘れないでね。何があろうと、君は、深冬の兄なのだから。』
「解っている。」
『そ。それならいい。』


そんな会話をして、箸を進め始めた二人に、周りは唖然としていた。
「・・・俺、この二人が何で仲良くなったのか、解ったわ。」
「僕もだよ。深冬さんのことになると、何だかんだ言いつつも結託するんだね。」
「それに、意外と共通点も多いみたいだ。」
「そうね。二人とも当主で、兄で、表面に出すことはないけれど、情に厚いのよね。」


そんなことを言う四人を余所に、二人はゆるゆると酒を呑み始める。
二人の間には霊術院時代のように気を張り合っている気配が無い。
何より豪紀が力を抜いていることに、周囲の者たちは驚いた。


「加賀美の奴、本当に変わったよなぁ。」
「院生時代のあれは何だったのかな・・・。」
「凄く力が入っていたのにね。青藍のお蔭かな?」
「そうでしょうね。加賀美家も色々とあったのよ。青藍がそれを変えたの。見かけによらず、お節介なんだから。」


『・・・ふぅ。さてと、加賀美君。君、笛を嗜むくらいはするよね?』
「あー、まぁな。最近、慶一殿からの指導がきつい。」
豪紀は面倒そうに言う。
『あはは。まぁ、周防家だから仕方ないね。君の婚約者は実花姫だもの。』


「別に俺が笛を吹く必要はないはずなんだがな・・・。」
『ふふ。慶一殿は誰にでも指導するわけじゃない。君にはある程度才能があるとみているのだろう。』
「そうだとしても、食えない人だから面倒なんだよ・・・。」


『慶一殿だから仕方ないよね。だって、あの実花姫の父親だよ?並みの人物じゃないね。まぁ、それはいいとして。先に逝った同期たちのために舞でも舞おうかと思うのだけれど。丁度こんな格好もしているし。』


「・・・はぁ。解った。俺が笛を吹けばいいんだろ。」
『流石加賀美君。では、その懐にしまってある、慶一殿から貰った笛を吹いておくれ。』
「何故それを知っているのか・・・。」
言いながら、豪紀は懐から笛を取り出す。
漆塗りで、金の鳳凰が描かれたものである。
笛の名は「鴻鵠」という。


『流石周防家の笛だ。絵付けはかの有名な采湧のものだね。・・・少し、音を聞かせてくれ。』
青藍に言われて、豪紀は音を確かめるように軽く吹く。
するすると、透き通った音が奏でられた。


「美しい音色ね・・・。」
雪乃がため息を吐くように言う。
『想像以上だ。僕などより、よっぽど上手いね。・・・さて、では、始めようか。』
言いながら青藍は座敷に設けられていた舞台へ上る。
青藍の準備が出来たのを見て取って、豪紀は笛を吹き始めた。

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