色彩
■ 30.抜かりはない

「では青藍、しばし深冬を借りるぞ。」
『えぇ。今日はどちらに?』
「琥珀庵だ。二人でバケツプリンとやらを食してくる。とても大きなプリンだそうだ。」
安曇は自慢げに言った。


『安曇様、ぶれませんよねぇ。』
「ふふ。本当に甘味好きですわね。」
「すでにそれだけ食べたのに・・・。」
菓子の包みが山になっていることを見て、橙晴は呆れたように言う。


『お気をつけて、いってらっしゃいませ。仕事が終わったらお迎えに上がります。』
「そうか。では行ってくる。」
安曇は楽しげに微笑んで去っていく。
その後ろ姿がわくわくしているようで、三人はおかしそうに笑った。


『・・・ふふ。安曇様は安曇様だなぁ。』
後姿を見送って、青藍は呟く。
「そうですね。あの方、お菓子が絡むと子どもの様なんですよねぇ。」
「でも、深冬が絡むと鬼にもなるのよねぇ。」


『あはは。それだけ大切なのさ。深冬だけじゃなくて、朽木家皆を大切に思ってくれているようだ。』
青藍は嬉しげに言う。
「えぇ。そして、僕らも安曇様が大切です。」


「家族ですものね。」
『そうだね。・・・あーあ。雪乃が義理の妹になるとはなぁ。最初から考えると、想像つかないねぇ。』
青藍はしみじみという。


「あら、私だってそうよ。こんなに朽木家と関わることになるとは、思っていなかったわ。霊術院に入る前まで、貴方たちの顔すら知らなかったのだから。」
『あはは。僕も橙晴もあまり顔を出さなかったからね。橙晴なんて、素顔のまま霊術院に居たのに、六回生になるまで気付かれないくらいだし。』
青藍はおかしそうに言う。


「青藍だって、瞳の色しか変えていなかったじゃない。」
『僕は瞳の色が一番目立つからね。この名前だし。だからそれだけで良かったのさ。』
「僕は、茶羅が表に出てくれましたからね。僕はそれを陰から支えるのが役目でした。」
「この双子、本気を出したら恐ろしいわよね・・・。」


『あはは。確かに。・・・それで、この髪紐はどうするの?』
「「僕(私)、橙色(白銀色)がいい。」」
二人はそれぞれに指差す。
『息ピッタリだよねぇ。安曇様お手製の有難い品だから、大切にね。まぁ、十五夜様のお蔭で、そう簡単に壊れる代物じゃないけど。』


「もちろん。・・・あ、でも、雪乃の色打掛は橙色にしたんだ。だから、その時は、雪乃はこっちね。」
「貴方、そんなものまで用意していたの・・・。」
「当たり前じゃないか。一生に一度の晴れ舞台だからね。抜かりはありません。ついでにその時僕の羽織袴は白です。」


『さすが橙晴だ。楽しみにしておくよ。さて、そろそろ仕事に戻らなければね。』
「えぇ。祝言の日までにやることが山積みですからね。」
『そうなんだよねぇ。ま、今日から睦月と師走が帰ってくるから、何とかなるでしょ。』


それからさらに一週間後。
橙晴と雪乃の祝言の日である。
粛々と進められ、二人は夫婦となる。
そして酒宴が始まった。


青藍たちの時ほど盛大ではないが、他の貴族から見れば、盛大の部類に入るだろう。
また、急な日程であったために他の当主は殆どが次期当主に代理で来させている。
そのため、この前よりは幾分和やかな祝言であった。
豪紀は自分で来ていたが、彼も当主になって日が浅い上に、雪乃と青藍の同期であり、死神であるため、そう緊張感はない。


死神の面々もそれに乗じて騒ぎ出す。
それを見て青藍は苦笑したが、楽しげなので放って置くことにした。
白哉も咲夜も茶羅もルキアも、皆が微笑み二人を祝福する。
青藍と深冬も楽しげに二人を見つめた。


それから、気安い面々だけ残って、朽木邸の広間で宴が始まる。
蓮、侑李、京、キリトもまた朽木邸に残った。
女性死神協会の面々は当然のようにそこに残っているのだが。


当然、浮竹や京楽に卯ノ花も祝いに来ている。
それから、青藍が巻き込んだために豪紀も。
豪紀は嫌な顔をしながらも、彼らと共に酒を呑む。
そこへお色直しを済ませた二人がやってきたのだった。


雪乃の橙色の色打掛は鮮やかなもので、その場に花が咲いたようだった。
安曇から贈られた橙色の髪紐で髪を結い、橙色の花を模った髪飾りを付けている。
その美しさに皆がため息を吐く。


『さすが橙晴。雪乃がいつも以上に美人だ。』
青藍が席に着いた二人をからかうように言う。
「当たり前じゃないですか。この僕が雪乃のために作ったのですから。」


『皆、見惚れて声も出ないみたいだよ。橙晴、敵が増えるねぇ。』
「何を言っているのですか。雪乃は僕のものです。皆さんも、見過ぎです!」
橙晴に言われて、皆が笑いながら雪乃から一旦視線を外した。

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