色彩
■ 29.髪紐

「兄様、それは一体、誰の話ですか?」
橙晴は首を傾げる。
『さて、誰でしょう?その顔を見ると、雪乃も知っているようだね。』
「えぇ。本人から聞きましたもの。咲夜さんたちもご存じよ?」


『じゃあ、後は父上か。・・・ふふ。父上、複雑な顔をするんだろうなぁ。反対はしないだろうけど。』
「そうね。苦々しい顔をしながら頷くんだわ。」
「ふふ。想像できます。」
「僕には教えてくれないのですか?」
『まぁ、茶羅をよく見ていれば気が付くさ。』


「茶羅を?」
『ふふ。睦月は気付いているか微妙だけれど、師走は気付いているだろうね。いつも護衛で一緒に居るから。で、師走の想い人もそこに関係している。』
「え?何それ。青藍、そんなことまで知っているの?」
雪乃は目を丸くする。


「確かに、この前、茶羅が師走には想い人が居ると言っていたが・・・。」
『うん。昔からの想い人らしいね。ま、あの人を捕まえるのは大変だろうなぁ。いつも何処に居るのやら。』


「昔から・・・。それにどこに居るのか解らない・・・。それであそこに関係している。」
雪乃はそう言って考え込む。


「・・・私は会ったことの無い人ね?それで、貴方が前に少し話していた人。」
『あぁ、そんなこともあったね。そう。その人だよ。師走は本音を零さないから、手強いのだけれど。』


「貴方、そういう情報は何処から仕入れてくるのよ・・・。」
『ふふふ。それはまぁ、秘密。色々とあるのさ。』
青藍は楽しげに微笑む。


「ほんと、だから青藍って怖いのよ。」
「そうだね。兄様、知らないふりも出来るから厄介なんだよ・・・。」
「青藍だから仕方ないだろう。大半が騙されているからな。」
『深冬、最近本当に容赦ないよね・・・。』
青藍は落ち込んだように言う。


「事実だろう。咲夜様でさえ、青藍に騙されている気がすると言っていたぞ。」
「そうね。私はもう、何度騙されたことやら・・・。」
「僕も。兄様の手の内を読むのは大変だ。」


『そうかなぁ。結構単純だよ。僕は単純なことを繰り返しているだけさ。偽物が沢山あるけれど。』
「それ、複雑っていうのよ。」
雪乃は呆れたように言う。


「まぁ、とりあえず、僕らの祝言は必ず二週間後に挙げてもらいますからね。」
『はいはい。準備いたしましょう。また忙しくなるなぁ。』
「そう言いながらも楽しそうだぞ。」
『ふふ。そりゃあ、可愛い弟と大切な友人の幸せのためだもの。』


「青藍様は本当に家族思いですねぇ。」
『僕にできるのは、こんなことだけですからね。・・・さて。では、この辺でお暇致しましょう。雪乃はどうするの?』
「今日はここに居るわ。」
『了解。では、僕らはこれで失礼します。』
青藍がそう言うと秋良に一礼して朝比奈家を後にしたのだった。


それから一週間ほど後。
六番隊の執務室に安曇がやってきた。
『安曇様。』
「青藍か。・・・橙晴は?」
安曇は橙晴が執務机に居ないのを見ながら言う。


『今ちょっと、隊主室に。すぐに戻ってくると思いますが。』
「そうか。雪乃は呼べるか?」
『えぇ。すぐにお呼び致しましょう。では、お茶でもお持ちしますね。今日も色々な菓子がご用意できますよ。』


「それは全部貰う。」
青藍が悪戯に言うと安曇は子どもの様に目を輝かせていった。
『あはは。はい。ご用意いたします。』


呼ばれた雪乃がやってきて、それからすぐに橙晴が戻ってくる。
「安曇様?雪乃も?」
橙晴は、安曇と雪乃の姿に目を丸くした。
「橙晴。一週間後、雪乃と祝言を挙げるのだろう?」
「えぇ。そうですが・・・。」


「私も十五夜もその日はこちらへ来ることが出来ぬのだ。何分急な話だからな。」
『あはは。まぁ、そうですね。』
「そういう訳で、先に祝いに来た。ほれ、これをやる。祝いの品だ。」
安曇はそう言って箱を二つ取り出した。


その箱を開けると、それぞれに髪紐が入っている。
一方は橙色、もう一方は白銀色。
どちらも美しい光沢を放っている。


「綺麗・・・。」
それを見て、雪乃は呟く。
「そうか。時間がなかったので、こんなものしか作ることが出来なかったのだが、貰ってくれるか?」


「はい。ありがとうございます。」
「こんなに綺麗なものを頂けるなんて・・・。本当に嬉しいですわ。ありがとうございます。」
二人はそう言って安曇に頭を下げた。


「それは良かった。青藍の耳飾りと同じように、十五夜が処理をしてくれている。そう簡単に切れることはない。色は好きな方を選んでつけるといいだろう。・・・そなたら二人の縁が切れることなく、固く結ばれたものであるように。お祝い申し上げる。」
安曇はそう言って微笑む。


「「はい。ありがとうございます。」」
二人も満面の笑みを見せた。


『ふふ。朽木家当主からも、お礼を申し上げます。このような品を頂き、感謝いたします。』
青藍も微笑みながら言う。
「構わぬ。朽木家は私を家族として受け入れてくれたのだ。その家族のために、このくらいのことをするのは当たり前だ。」


『安曇様にそう言っていただけるとは、朽木家一同幸せ者ですね。』
「それはお互い様というものだ。茶羅とルキアの時にも、何か作ってやろう。出来れば、その時は早めに連絡をしてくれるとありがたいが。」
安曇は悪戯っぽく言う。
『あはは。はい。彼女たちの婚約が決まったら、すぐにお知らせいたしましょう。』

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