色彩
■ 27.朝比奈邸にて@

「ふふ。兄様ったら、昔から兄様なのね。」
茶羅はおかしそうに笑う。


「青藍は、そういう奴なのだ。それを表に見せることは少ないが。」
「そうね。それに気が付くと、離れられなくなるのよね。ほんと、厄介な人なんだから。」
「あはは。確かにそうだな。」
「ふふ。そうですね。」
五人はそう言って笑う。


「さて、随分長風呂になってしまったな。男性陣が待ちわびていることだろう。様子を見に来る前に出るとするか。」
「えぇ。そうですわね。青藍兄様は、深冬が一人で入っていると思っているでしょうし。」


「そう言えばそうだったわ。見に来てしまったら大変ね。」
五人はそう言ってくすくすと笑いながら、風呂から出たのだった。


それから一か月ほど後。
細々とした儀式を終え、青藍には平穏な日々が戻ってきていた。
その間、安曇の正体や、耳飾りがどこで手に入るのか、などと言った後処理に追われていたのだが。
青藍と深冬は当主とその奥方として、務めを果たしている。


勿論、相変わらず相思相愛で、周りが恥ずかしくなるほどなのだが、少なくとも、六番隊の隊士たちと、十三番隊の隊士たちはそれに慣れ始めていた。
六番隊の隊士たちにおいては、古参の隊士から白哉と咲夜の話を聞いているために、そう言うものなのだと、半ば諦めを含みつつ、彼らを祝福している。


そんな折、青藍と深冬は橙晴と雪乃に呼び出されたのだった。
場所は朝比奈邸である。
秋良も同席している。


『それで改まって何の話かな。まぁ、大体予想は付いているのだけれど。』
背筋を伸ばして青藍に向き合った橙晴と、どことなく恥ずかしげに正座をしている雪乃を前に、青藍は口を開いた。


「兄様・・・いえ、朽木家当主にお話がございます。」
橙晴は真っ直ぐに青藍を見つめて言った。
『聞こう。』
そう言った青藍は当主の顔になった。


その場の雰囲気がぴんと張りつめたようになり、橙晴は気圧される。
雪乃も秋良も深冬もその雰囲気に自然と背筋が伸びる。
これが、朽木家当主と向き合うということなのか・・・。
内心でそう呟きつつ、橙晴は青藍の視線を受け止める。


「私は、雪乃姫を人生の伴侶としたい。朽木家当主に、私と雪乃姫の婚約をお認め頂き、彼女を朽木家に迎えとうございます。」
青藍はそう言った橙晴を見つめる。
その瞳が真っ直ぐで、覚悟をしたことが伺えた。


『・・・秋良殿は、どうお考えだろうか。朝比奈家当主としてお答えいただきたい。』
「この上なく、良縁にございます。私から異議を申し上げることはございません。」
『では、父としては?』
「雪乃が自分で選んだことです。父としても、それを応援致したく思います。」
秋良の答えを聞いて、青藍は一度ゆっくりと瞬きをして、雪乃を見つめる。


『雪乃姫に聞く。この婚約が成立すれば、貴女は朽木家の名を背負うことになる。その覚悟がおありか。』
「はい。その覚悟を決めて、今ここに居ります。」
青藍の問いに、雪乃もまた、真っ直ぐに答えた。


『では・・・認めよう。この朽木家当主が、朽木橙晴と朝比奈雪乃の婚約を認める。』
青藍はそう言って笑みを零す。
「「ありがとうございます。」」
二人はそう言って青藍に頭を下げたのだった。


『ふふ。雪乃の友人として話すよ、橙晴。』
「はい。」
『あまり雪乃を苛めないことだ。君は本当に苛めっ子だからね。』
「あはは。善処します。」
『それから、雪乃には橙晴の兄として話す。』
「えぇ。」


『橙晴は、僕などよりもよっぽどいい奴だから、安心していい。それから、橙晴はいずれ必ず隊長にまで登りつめるだろう。隊長というのは苦悩が多い。一緒に背負ってあげてくれ。橙晴は僕なんかよりも強いけれど、一人にはしないでね。』
「えぇ。解ったわ。」


『秋良殿。』
「何ですか?」
『朝比奈家には雪乃という娘しかおりません。その雪乃も朽木家へと嫁ぎます。朝比奈家はどうなさるおつもりですか?奥方も亡くなられておりますし・・・。』
青藍は心配そうに言う。


「ふふ。青藍様はお優しい。・・・私が亡き後は、朝比奈家は朽木家に差し上げます。朝比奈の名を残すも残さないもご自由に。ただ、家臣と使用人たちを、お願い致します。」
その言葉に青藍は目を丸くする。
『それは・・・本当に、それでいいのですか?』


「はい。橙晴様に朝比奈家へ来ていただこうかとも考えたのですが、橙晴様は、正真正銘、朽木家の方でいらっしゃいます。朝比奈の家臣団も了承しております。それに、雪乃は朽木家の一員となることを選択しました。」
秋良はそう言って微笑む。


「それに・・・。」
『それに?』
「妻が、雪乃が選ぶ相手は間違いなくいい男だから全部任せてしまいなさい、と。私は貴方を選んで間違わなかったから大丈夫だ、と。そこまで言われてしまっては、妻の言葉に逆らう術などございません。」


『ふふ。なるほど。・・・では、秋良殿が亡き後は、朽木家当主である私が責任を持って、この朝比奈家を引き受けます。』
青藍は秋良を見つめて、真っ直ぐに言う。


「はい。よろしくお願いいたします。どうか、朝比奈家に連なる者たちをお守りください。」
そんな青藍に、秋良は頭を下げた。


『はい。貴方が守るものを私も護ります。雪乃姫も、朽木家に迎えるからには、責任を持ってお守りいたします。』
「どうか、よろしくお願いいたします。青藍様には娘を助けて頂いた恩も返せておりません。その上、朝比奈家も雪乃もお任せするのは、心苦しいのですが。」


『構いません。私だけが背負う訳ではありませんから。深冬も、橙晴も居ります。そうですね・・・朝比奈家の仕事は橙晴の領分としましょうか。雪乃も一緒に頼みます。』
「「はい。」」

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