色彩
■ 23.自慢の家族

最後の音が空気に溶けるように消えて、安曇はオカリナを降ろす。
その場にしばらく沈黙が落ちて、皆がくすくすと笑い始めた。


「・・・笑うな。」
安曇はそれを見て拗ねたように言う。
『ふふ。安曇様、楽器はあまりお得意ではないのですね。』
「そのようだな。可愛らしい音だった。」


「でも、優しい音ですわ。」
「えぇ。なんだか、おかしいわ。」
「そうね。つい、笑ってしまうわ。」
「でも、母様がもう一度聞きたがった理由が、解る気がする。」
深冬の言葉に、皆が微笑みながら頷く。


「こんなところに集まって何をしているのだ?」
そこへ白哉が現れる。
「それに、それは・・・。」
白哉は安曇が手にしているオカリナに視線を向ける。


「・・・先ほどの音は、安曇が奏でたのか?」
「・・・そうだ。」
白哉の問いに安曇は拗ねたように答える。
「どこの幼子が吹いているのかと思ったら・・・。」
白哉はそう言って口元を押さえる。
その体が小さく震えていて、安曇は真っ赤になった。


「う、五月蝿いぞ!何を笑っておるのだ!」
「・・・いや、その顔であの音とは予想外だったのだ。」
笑いながら白哉は言う。


「五月蝿い!!笑うな!!!」
安曇はそう言うと白哉の頬をつまむ。
「痛いぞ。」
「下手な自覚はあるのだ!」


「別に下手なことを笑った訳ではない。」
「では、なぜ笑っているのだ!?」
「あまりにも可愛らしい音だったのでな。爺が可愛く思えただけだ。」


「な!?」
白哉の言葉に安曇は唖然とする。
それで緩んだ手から白哉は逃れる。


「あはは!安曇が可愛いとは、白哉は流石だな。」
『ふふ。そうですね。さすが父上です。まぁ、僕も同意しますが。』
「青藍まで・・・。」
『ふふ。大変いいものを聞かせて頂きましたよ、父様。』
拗ねた安曇を宥めるように、青藍は微笑む。


「な!?・・・そんな、風に、呼ばれては・・・悪い気は・・・しないな・・・。」
安曇は複雑そうに呟く。
『あはは。だって、僕は安曇様の息子なのでしょう?昨日、安曇様はそう言ってこの耳飾りをくださいました。』


「それは・・・そうだが・・・青藍は、狡いぞ・・・。」
安曇はそう言って唇を尖らせる。
「今さら気が付いたのか?」
そんな安曇に呆れたように白哉は言う。


「何なのだ・・・。そなたの息子は本当に厄介な奴だ・・・。」
「仕方あるまい。私と咲夜の息子なのだから。」
「あはは。そうだな。」


「なるほど。青藍様はこうやって誑し込んでいくのね・・・。」
「そのようね・・・。」
「全く、青藍兄様は本当に狡いのよね。」
「そうね。こうやって皆が巻き込まれていくのよね。」
それを見ていた梨花、実花、茶羅、雪乃は呟く。


『そこ四人、余計なことは言わないの。』
「あら、事実じゃない。」
『まさか。雪乃も父上にやってみれば?きっと、簡単に落ちるよ。』
青藍は楽しげに言う。


「な!?」
『ねぇ、父上?』
「呼び方など些細なことだ。雪乃は既に朽木家の娘だろう。」
「そうだな。私のことを、お母様と呼ぶ日も近い。」
白哉と咲夜の言葉に雪乃は絶句する。


「なるほど。あれは遺伝なのね。」
「青藍様だけが狡い訳じゃないのね。」
「そうよ。青藍兄様も橙晴も大概だけれど、父上と母上はその上を行くのよ。」
「だから青藍は白哉様と咲夜様には敵わないのだ。」
「面白い家族だな。」
五人は楽しげに言う。


『ふふ。でも、自慢の家族ですよ?』
「そうだな。白哉様と咲夜様とルキアさんと橙晴と茶羅。それから青藍と私と父様。」
『そしてその内、そこに雪乃が入る。それで、睦月と師走も。時々、銀嶺お爺様もやってくる。』


「あぁ。私たちは、幸せだな。」
『うん。幸せだ。』
二人はそう言って微笑みあって、それを見て皆も微笑んだのだった。


その日の夜。
深冬は風呂場の脱衣所で追い詰められていた。
咲夜、茶羅、ルキア、雪乃の四人に。
何故か四人ともわくわくした様子で、深冬を壁際に追い詰めたのだった。


「な、何か・・・?」
深冬は困惑した様子で四人を見る。
あの後、青藍からそれとなく聞き出そうと、四人で四苦八苦しながら話を向けたのだが、青藍が悉くそれを言葉巧みに躱すのである。
ついでに青藍は深冬にべったりと張り付いていて、四人が深冬から聞き出そうとするのを阻止していたのだ。


そして、漸く深冬から聞き出すチャンスが巡ってきたのである。
深冬が一人で風呂場に行ったのを見て取って四人は一緒に入ろうと後を追った。
もちろん、青藍には内緒で。


そして今に至る。
「さぁ、深冬。正直に答えろ。」
「そうよ。正直に答えなさい。」
「沈黙は肯定ととるわよ。」
「私にも聞かせてくれ。」
上から順に、咲夜、茶羅、雪乃、ルキアの言葉である。


「な、何ですか・・・?」
四人に迫られて、深冬は恐る恐る聞く。
「君たちは昨日、夫婦となったよな?」
「はい。祝言は昨日でした。」
「昨日の夜、部屋には居なかったようだけれど、何処に居たのかしら?」


「そ、それは・・・。」
雪乃の言葉に、何を聞きたいのか理解した深冬は顔を赤くする。
「ほう。青藍の部屋に居たのだな?」
ルキアはわくわくと聞く。
「・・・はい。」
深冬は赤い顔のままそっぽを向いて答える。


「その反応は、何かあったのだな?」
それを見て咲夜は楽しげに言う。
「・・・。」
深冬は沈黙する。
「一体、何があったのかしら?」
雪乃はにっこりと微笑む。
「・・・。」
深冬はぴったりと口を閉じて沈黙した。

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