色彩
■ 22.オカリナ

『・・・まぁ、いいや。安曇様、まだこちらに居たのですね。良かった。』
「あぁ。雑用係が居るからな。仕事は押し付けてきてやった。」
『なるほど。彼らはこういう時に使われるのですね。』
青藍は楽しげに言う。


「そうだな。こういうときぐらいしか、使えぬが。・・・その耳飾り、ちゃんとつけてくれているのだな。」
安曇は嬉しそうに微笑む。


「私はちゃんとつけると言ったぞ。」
『僕だって大切にすると言いましたよ?』
「はは。そうだったな。有難いことだ。」
不満げに言った二人に、安曇は苦笑する。


『それで、安曇様にいいものを持ってきました。ね、深冬?』
「あぁ。きっと、驚くと思う。」
二人はそう言って微笑みあう。
「いいもの?」


『はい。・・・深冬、渡して差し上げて。』
青藍に言われて、深冬は袖の中から布に包まれたものを取り出す。
「これを。」
深冬に差し出されたものを受け取って、安曇は首を傾げた。


「開けてみるといい。」
深冬に微笑みながら言われて、安曇は丁寧に布を広げていった。
そして、出てきたものを見て、目を見開く。
慌てたようにそれを裏返して、そこに刻まれている文字を見た。


「これは・・・。一体、どこで・・・?」
『ふふ。先ほど、美央さまにご挨拶に行ってまいりました。』
「美央に?」
『はい。その時に、ある方に頂いたものです。』


「私たちのことを覚えている人に会ったのだ。それで、その人が、それをずっと持っていてくれたらしい。丁寧に手入れもしてある。」
深冬は嬉しそうに言う。


「その人は、母様が亡くなってから、突然いなくなった私の身をずっと案じてくれていたのだ。昔は医師をやっていて、私を取り上げたらしい。この髪と瞳だから、よく覚えていた。私たちは、ちゃんと三人であそこに居たのだ。それを知ることが出来て、本当に良かった。」
深冬の笑みに安曇は思わず涙を流す。


「あぁ。私は、よく覚えている。これは、私が、絵をつけたのだ。美央が好きな、桜を、描いたのだ・・・。」
「では、それは・・・。」
安曇の言葉に咲夜は目を丸くした。


「・・・美央の、持ち物だ。もう、なくなっていると、思っていたが・・・。」
『安曇様に渡してくれと頼まれました。きっと、大切なものなのでしょう?』
「あぁ。こんな形で私の元に帰ってくるとは・・・。何と、幸せなのだろう。青藍、深冬。本当にありがとう。」
安曇はそう言って二人の手を握る。


『ふふ。僕らもとても驚きました。こういう縁があるものなのですねぇ。こうやって人と人は繋がっていくのですね。それできっと、これから先も繋いでいくのでしょう。』
青藍は微笑む。


「・・・ふふ。青藍、やっぱり父様は泣いたな。」
『ふふ。そうだね。予想通りだ。』
涙を流す安曇を見て、二人は楽しげに微笑む。


「・・・五月蝿いぞ。これを見て泣かずにおれるものか。これがなければ、私と美央は結ばれなかったのだぞ。そういう、品なのだ。」
安曇は涙を拭いて、拗ねたように言った。
『思い出の品という訳ですね。』


「そうだ。私がこれを吹いていたら、美央が通りかかって、それを楽しげに聞いたのだ。吹き終わると、美央は私に菓子を渡して、また聞かせてもらえるか、と・・・。」
「父様、私も父様のオカリナを聞きたい。聞かせてくれるか?」


「・・・あぁ。決して上手くはないのだが。」
「それでも、聞きたい。」
「そうか。」
安曇は頷いて微笑むと、そのオカリナに指を当てた。
音を確かめるように吹いて、それから奏で始める。


素朴な音が旋律を紡いでいく。
安曇が言ったとおり、指の動きがたどたどしくて、上手い訳ではない。
しかし、その音が優しくて、何だか可愛らしい音で。
それを奏でているのが、この綺麗な男だというのだから、少しおかしいのだが、皆が静かにそれに耳を傾けた。


・・・やっぱり、父様だった。
あの夢の中でオカリナを奏でていたのは、間違いなくこの人だ。
聞きながら、深冬は内心で呟く。
温かくて、優しくて、包み込んでくれるような、幸せな音。
何だか幸せで、涙が溢れてくる。
涙が零れてしまいそうで、深冬は青藍の手を握りしめた。

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