色彩
■ 悩み、叫び、笑う 後編

「母上は、知っていたのですね・・・。」
橙晴は拗ねたように呟く。


「ふふ。咲夜さんだけではありませんよ。ルキアさんだってそのように話していました。皆が、貴方の努力を知っています。貴方の力を認めています。貴方を、きちんと見ています。貴方を置いていくことなど、誰もしません。貴方は、私たちの、大切な、橙晴です。」
「はい・・・。」
橙晴は頷いて、卯ノ花に擦り寄る。


「そして、雪乃もまた、貴方を見ています。貴方がそばに居ることが当たり前になっています。今はまだ、それに気付いてはいませんが、いずれ、それに気付くことでしょう。貴方のその苦しみに、最初に気付いたのは、雪乃なのでしょう?」
問われて橙晴は、驚いたように顔を上げる。
卯ノ花はその顔を見て微笑んだ。


「・・・烈先生は、何でもお見通しなのですね。」
「ふふ。橙晴のことを見ていますからね。生まれたときから、ずっと。」
「そうなんです。だから、僕は、雪乃が好きなのです。僕の苦しみに気が付いて、それから、そんな訳ないでしょって、僕を叱って、そんなに心配なら私が見ていてあげる、って、笑うんです。その笑顔が、眩しかった。」
橙晴はそう言って微笑む。


「雪乃は、そういう子ですよ、橙晴。」
「そうですね。だから僕は、雪乃が大好きです。」
「えぇ。私も雪乃が大好きです。少し、臆病な面もありますが、そこは、もう少し、待ってあげてください。」
「はい。」


「橙晴ならば、大丈夫でしょう。」
「ふふ。烈先生にそう言われると、何だか自信を持つことが出来ます。」
「それは良かったです。」


「・・・馬っ鹿じゃないの!」
微笑みあう二人に、そんな声が聞こえてきた。
雪乃の反撃が始まったようである。


「私は、そんな理由で、青藍のそばに居るわけじゃないのよ!青藍はね、普段へらへらしているけど、その実、すっごく厳しいんだから!・・・何?橙晴だってそうよ!あの兄弟ったら、本当に女性には手厳しいのよ!青藍は笑顔で告白を断るような奴だし、橙晴はあっさり、すっぱりと容赦なく断るの!見た目に騙されると痛い目に遭うんだから。その上、あの二人に関わると、貴方たちみたいなのに絡まれて面倒臭いったらありゃしないわ。」
青藍と橙晴への暴言に、相手の三人は気圧される。


「大体ね、あの二人に近付くことも出来ない人が、振り向いて貰えるわけないじゃない。だからと言って近づいてくる人たち全部を受け入れるほど寛容じゃないわ。青藍も橙晴も、自分の目で見て、自分で選ぶの。だから、あの二人は、凄いのよ!」
「あら、今度は褒めましたねぇ。」
卯ノ花は楽しげにつぶやく。


「青藍と橙晴の好み?そんなの、こんなことしない人に決まっているじゃない!好きな食べ物?教えたところで貴方方が持って行っても手を付けることすらしないわよ!まず、あの二人の信頼を得ることがなければ、それすらしてもらえないの!どうしてそれが解らないのかしら!!」
雪乃は忌々しげに叫ぶ。


「彼等への贈り物がどうなっているか知っている?知らないわよね。だから、贈り続けるのだわ。・・・彼らにどんな贈り物をしても、良くてせいぜい使用人に下賜されるだけよ。酷い物なんて燃やされるわ。睦月さんの検査に引っかかったものは技術開発局行きよ!青藍は危険物が多いから自分で開けて処理するけれど、橙晴は自分で開けることすらしないのよ。それなのに、その贈り物の中に茶羅がお菓子を忍ばせると、それは間違いなく手に取るの。どういう嗅覚をしているのか、訳が分からないわ!茶羅も茶羅で橙晴が淹れたお茶がどれだか絶対に外さないのよ?双子の神秘にしたって限度があるわ・・・。」
そこまで一気に言い切って、雪乃は息を切らせる。


「・・・話が逸れたわ。余計なことまで言ったわね。・・・つまり、私が言いたいのは、私に当たる時間があるのなら、その時間を有効に使いなさいってこと。時間は有限なのよ。私だって暇じゃないの。席官だから。ついでに、青藍や橙晴たちに振り回されているの。お蔭で私はとっても忙しいのよ。さっきも橙晴が六番隊の常備薬の補充を申請してきたし。だから、私、もう行くわ!!・・・あ、あと貴女、八番隊よね?この書類、峰藤先輩・・・十一席に渡しておいて!八番隊士の治療歴っていえば解るから!」
そう言いながら持っていた書類を押し付ける。


「よし。これで仕事をひとつ消化したわ。・・・私と青藍の仲を疑う前に、私と橙晴の仲を疑う前に、やるべきことがあるはずよ!私に喧嘩を売るなら、それからにしなさい!それが出来たら相手をしてあげるわよ!じゃあね!」
雪乃はそう言い放って、すたすたとその場を離れていく。
三人組は唖然とするしかない。
その様子に、橙晴と卯ノ花は笑いを堪えた。


「・・・っふ。だから、雪乃は、目が離せないんだよなぁ。」
橙晴は楽しげに言う。
「本当に、貴方たちのことを、よく見ているようですね。」
卯ノ花も静かに笑いながら言う。


「はい。何だか、余計なことまで見られているようですが。」
「流石雪乃です。心強い十五席ですね。四番隊自慢の席官なのですよ。どんな患者であろうと、雪乃はああやって黙らせてしまうのです。」
「ふふ。あれでは、隊長格だって、敵いませんね。」
「えぇ。最近では、あの更木隊長が大人しく言うことを聞くようになったのですよ。」
卯ノ花は内緒話をするように悪戯に言った。


「それはそれは。それじゃあ、僕が雪乃に敵わないのは、仕方ないですねぇ。」
「ふふ。そうですね。私も敵いません。」
二人はそんな会話をしながら、暫くの間、くすくすと楽しげに笑い続けたのだった。



2016.11.10
青藍が深冬と婚約する前の話。
雪乃の噂の相手として自分の名前が挙がらなくて少し弱った橙晴でした。
その立場から青藍が注目されがちですが、周りの大人たちは橙晴のことも大切に思っていて、彼の成長を見守っています。
雪乃はいつもこんな感じで絡んでくる相手を撃退しています。


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