色彩
■ 16.紅い印

・・・想像以上だった。
幸せすぎて苦しいくらいだった。
愛する人と肌を合わせることが、こんなにも幸福なことだなんて。
情事後の気怠さの中で、二人は同じことを思う。


二人とも落ち着いたところで夜着を着直して、布団に潜り込んでいるのだった。
青藍は深冬を抱きしめて、その頭に顔を埋める。


「くすぐったいぞ、青藍。」
『んー。いい匂い。』
青藍はそう言って鼻をすんすんさせる。
「な!?や、やめろ。嗅ぐな。」
『やだね。深冬の全部は僕のものなんだから。』


「そ、れは、そうだが・・・。」
『ふふ。それで、僕の全部は君のものだよ。』
「それは・・・本当か?」
『もちろん。僕は君のものだ。何なら君の物っていう印をつける?』
「印?」


首を傾げた深冬に、青藍は先ほど自己の所有印を付けた場所に触れる。
『さっき、ここに付けたでしょ?ここと、ここと、ここにも。これと同じものを、僕に付けていいよ。』


「ど、どうやるのだ・・・?」
『こうやって、吸い付く。』
青藍は深冬の腕を取ると、袖を捲ってその二の腕をちろりと舐めるとそこに吸い付いた。
深冬はそれに小さく悲鳴を上げて、青藍を見る。


『ほら、これ。僕の、ここに、付けて?』
青藍は袷を緩めて、着物を着れば隠れるであろう、鎖骨の下を指さす。
深冬はおずおずとそこに口づけて、小さく吸い付いた。
「つかない・・・。」
『もっと強く吸っても大丈夫だよ。遠慮しなくていい。』
青藍に言われて、深冬はもう一度吸い付いた。


『ん・・・。』
今度はくっきりと赤い花が咲いて、深冬は満足そうにそこを撫でる。
『ついた?』
「ついた。」
『うん。これで僕は君のものだ。』
青藍は嬉しそうに言う。
「ふふ。そうか。」


『そうだよ。・・・ねぇ、深冬。明日は、二人でどこかに行こうか。本当は旅行に行けたらよかったんだけど、連休は取れなくて。その代り、明日は深冬の行きたいところへ行こう。どこか行きたいところはある?』
「行きたいところ・・・。」
聞かれて深冬は考える。


『どこか、ある?』
「あ、ある。」
『どこ?』
「・・・この前、父様に、母様が居た場所を教えてもらったのだ。母様に繋がるものはないかもしれないのだが、一緒に行ってくれるか?」
深冬はそう言って青藍を見上げる。


『ふふ。もちろん。君のお母様にも報告しなくちゃね。』
「・・・ありがとう。」
青藍が頷いて、深冬は泣きそうになる。
それを隠すように、青藍の胸元に顔を押し付けた。
青藍はそれに気が付いているのか、深冬を抱きしめる。


『・・・そろそろ、寝ようか。』
深冬をあやすように抱きしめながら、青藍はいう。
心地よい微睡が二人を眠りへと誘っている。
「うん。」
深冬はそれに頷いて、青藍にぴったりとくっついた。


『ふは。かわい。・・・おやすみ、深冬。』
「おやすみ、青藍・・・。」
深冬はそう言うと、すう、と眠りの中に入って行った。
そんな深冬に笑みを零して、青藍はその頭に口付けを落とす。
『愛しているよ、深冬・・・。』
そう呟くように言って、彼も眠りに引きずり込まれていったのだった。

[ prev / next ]
top
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -