■ 14.緊張
「・・・ほかにも説明したことがあるがな。」
白哉がぼそりと呟く。
『父上。余計なことは言わないでください。』
それが耳に届いたのか、青藍は白哉に鋭い視線を向ける。
「事実だろう。」
「そうだな。白哉と一緒に私も聞いたから、よく覚えている。まぁ、白哉も人のことは言えぬだろう。」
「喧しい。余計なことを言うな、安曇。」
「確かに青藍も青藍だが、白哉も白哉だよな。」
「あはは。そうだねぇ。僕ら、皆吃驚したもの。」
「一番びっくりしたのは私だ!知らないうちに叔母上と銀嶺お爺様に話をつけていたのだぞ?大体、結婚を申し込まれたのは、婚約発表の後だ。」
「そうだったか?」
「そうだ!そうやって外堀から埋めていくのは、朽木家のやり方なのか?青藍と白哉だけでなく、橙晴もなのだぞ?」
「それは・・・ねぇ?兄様?」
『うん。あれですよね、父上?』
「そうだな。」
『「「欲しいものに手を伸ばして何が悪い。」」』
三人は合わせたように言う。
『ですよね。』
「そうそう。」
「・・・開き直ったなぁ。」
「開き直りましたわね。」
そんな三人に、浮竹と茶羅はポツリと呟く。
『大体、欲しいものが出来たら手を伸ばせと僕らに教えたのは母上ですからね?』
「何!?私はそんなことを言ったか!?」
「はっきりといいました。まぁ、父上からも同じようなことは言われましたけど。」
「・・・すまんな、雪乃。青藍はともかく、橙晴のあれは、どうやら私のせいらしい。」
「謝らないでください・・・。何となく、落ち込みます。」
『あはは!雪乃、母上の巻き添えを食らっているのか。可愛そうに。』
「雪乃は、兄様の巻き添えになることが一番多いですけどね。お蔭で僕、放って置かれるのですが。」
笑う青藍に、橙晴は不満げに言う。
『それが嫌なら、僕の代わりに雪乃にげんこつされてみる?凄く痛いけど。というか、雪乃、何で僕だけ殴るの?橙晴だって僕に負けず劣らずだよ?』
「それでも橙晴より、青藍の方が阿呆だ。」
『ちょっと、深冬、酷くない?』
「事実でしょう。」
「で、雪乃ちゃん、一体どうなわけ?橙晴。」
京楽は興味津々である。
「べ、つに、どうも何もありませんわ。」
「ふふ。雪乃も、素直になることですよ。」
「卯ノ花隊長・・・。」
楽しげに言われて、雪乃は困り顔になる。
『ふぅん?橙晴、もう少しって所?』
「そうですねぇ。まぁ、ここから先が大変ではありますが。」
『あはは。じゃあ僕は深冬と楽しく見物しているよ。ね、深冬?』
「ふふ。そうだな。」
青藍と深冬は微笑みあう。
「あーあ。兄様ったら、余裕ですよねぇ。良いなぁ。」
羨ましそうに言った橙晴に皆が笑う。
そんなこんなで宴の時間は過ぎていったのだった。
そして、夜。
深冬は湯浴みを済ませて、青藍の部屋へと向かっていた。
その体が小さく震えているのは、緊張のせいである。
わ、私はどうすればいいのだろう・・・。
深冬はこれまで青藍の部屋に昼間しか入ったことはない。
いや、この間青藍が風邪を引いた時に共に寝たがあれは例外である。
その上、青藍と共に入るか、青藍に呼ばれていくかのどちらかしかなかった。
基本的に互いの部屋には行かず、空いている他の部屋に居ることが多いのである。
恐らく青藍が互いの部屋に二人きりになることを避けていたのだろうが。
そのため、青藍付きの佐奈に伴われていると言っても、夜、自分から、青藍の部屋に行くというのは、大きな意味があると深冬は感じていた。
私が青藍の部屋に行くというのは、私から青藍を求める行為に等しい。
それは・・・恥ずかしくないか・・・。
そうこう考えている間に青藍の部屋の前に着いてしまうのだった。
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