色彩
■ 10.今を楽しむ

『あ、父上。やっと安曇様を連れてきたのですね。待ちくたびれました。』
「爺が拗ねて居ったのだ。」
白哉は面倒そうに言った。
『あはは。ご機嫌取りをしてきたのですか。お疲れ様です。』
そんな白哉に青藍は笑う。


「本当だ。爺がへそを曲げると敵わぬ。」
白哉はそう言うと大きなため息を吐いた。
「別に私は拗ねてなどおらぬ!」


「一人にされて寂しくして居ったのだろうが。寂しいなら寂しいとこちらへ来ればいいものを。厚かましいのが爺の専売特許だろう。余計なことをぐだぐだと考えおって。安曇の爺は本当に阿呆だ。それでは十五夜以上だぞ。」


「な!?この私が十五夜よりも阿呆だというのか!?」
「そう言っている。」
『・・・ふふ。相変わらず仲のよろしいことで。』


「「仲良くなどない。」」
『あはは。・・・安曇様。これから、僕らは邸の中へと下がります。本来ならば、両家の者以外はこの行列に参加することは叶わないのですが、安曇様は深冬のお父様でいらっしゃいます。加賀美家の了承も得ております故、我らと共に、参りましょう。』
青藍はそう言って微笑む。


「だが・・・。」
『本当は出てくるときも安曇様とご一緒したかったのですが、流石にそれは清家に却下されましてね。でも、帰りならばよいと、許可を貰ってきました。深冬とともに、歩いてくださいませんか。』


「ほ、本当か?」
『はい。仕方がないので、深冬の隣は譲ってあげましょう。転ばないように支えてあげてください。』
青藍は悪戯に笑う。
「青藍・・・。」
思いもよらぬ言葉に、安曇は泣きそうになった。


『安曇様、本当は一緒に歩きたかったのでしょう?少々目立ちますが、まぁ、安曇様が深冬の父親だとばれても、大したことではありません。安曇様が霊王宮の方であることが知られても、深冬はもう朽木家当主の妻。朽木家が全力でお守りいたします。』
青藍の言葉に、皆が頷いた。


『十五夜様と雪乃も巻き込みますし、歩きながら死神の面々も巻き込むつもりです。ですので、安曇様も安心して巻き込まれてください。』
そう言った青藍の微笑みに、安曇の目からは涙が流れる。
それを隠すように安曇は青藍に抱き着いた。


「あ、ありがとう、青藍。私は、なんと、幸せなのだろう。」
『ふふ。一人で遠くから見ているなど、お寂しいでしょうから、皆で歩きましょうね。』
「・・・あぁ。」
『さぁ、良い顔をして、深冬の所へ行ってあげてください。待っています。』
そう言われて、安曇は頷き、涙を拭いて、花が咲くように微笑み、その笑みに青藍が頷くと、深冬の元へ向かったのだった。


行列は、青藍を先頭にゆっくりと歩き出す。
途中、青藍は卯ノ花を、橙晴は雪乃を、茶羅は京楽を、咲夜は浮竹を、ルキアは白刃と黒刃を、白哉は仕方なく十五夜を、その列に招き入れた。
雪乃は逃げようとしたが、橙晴ががっちりと捕まえている。


卯ノ花、京楽、浮竹は、困ったような顔をしたが、結局楽しそうに後ろからついてくる。
十五夜は、白哉をからかいながら歩を進める。
白哉は鬱陶しそうに十五夜を躱して咲夜の手を取り歩き出す。
拗ねた十五夜は銀嶺に絡み始めて面倒そうな顔をされている。


白刃と黒刃は楽しげに前後ろに行ったり来たり。
ちなみに天音と元柳斎、蓮、玲奈、キリト、侑李、京、薫、千景、それから恋次たち死神は遠くに居たので青藍は手を振るにとどめた。


さらにその後ろに加賀美家の面々が続く。
八重に言われて、豪紀は仕方なく梨花と実花を引き入れた。
二人に引っ張られて、青藍の元へ連れて行かれ、大きなため息を吐いている。
かくいう八重は、それを見て微笑みながら自らの夫に手を重ねていた。


そして、安曇は。
深冬の手を取り、ゆっくりと彼らを見ながら歩を進める。


「これが、深冬の仲間なのだな。」
「はい。大切な、家族です。」
「ふふ。そうだな。大切な、家族だ。」
二人はそう言って笑いあう。


その姿に二人の関係を勘ぐるものもあったが、その辺の対応に追われるのは後の話だ。
それから、深冬と青藍の耳飾りがどこで手に入るのか、と、多くの者が興味を持って朽木家に押し掛けるのも。


いつか、これがなくなっても、また、探せばいい。
安曇は内心で呟く。
白哉の言う通り、きっと、彼等ならば、何度でも、廻り合うだろう。
もちろん、美央にも。
そう思って、安曇は今を楽しむことにしたのだった。

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