色彩
■ 9.幸せをくれてやる

「・・・安曇。」
一人で祝言の様子を眺めていた安曇の元に、白哉が姿を見せた。
「白哉。客人の相手は良いのか?」
「そなたとて、一応客人だろう。・・・私は疲れた。」
白哉はそう言って先ほどまで十五夜が座っていた席に座る。
ちなみに十五夜は青藍の元へ向かったのだが。


「何だ、サボりか。」
「五月蝿いぞ。爺が寂しそうにしていたから来てやったのだ。」
白哉は言いながら安曇をチラリと横目で見る。
「寂しいのは当たり前だろう。最愛の娘が、嫁に行くのだぞ。」


「残念だったな。深冬は今日から私の娘だ。」
「白哉は、狡いのう。この後は、雪乃がそなたの娘となるのであろう?」
「そうだな。いい加減、橙晴を困らせるのも飽きたからな。」
白哉は楽しげに言う。


「・・・礼を言うぞ、白哉。」
唐突にそう言った安曇に、白哉は目を丸くする。
そして、笑みを零した。
「殊勝な爺は、可愛げがある。」
白哉はからかうような口調だ。


「喧しい。人が礼を言っているのに茶化すな。」
安曇は拗ねたように言う。
白哉はそれを見て笑った。
「礼などいらぬ。私は何もしておらぬ。礼を言いたいのなら、青藍にいうことだ。」
「ふふ。私に邸の部屋を与えたのはそなたであろう。」


「私は、青藍の願いを聞いただけだ。あれは、親と離れる寂しさを知っている。私も咲夜も常に邸に居られるわけではない。青藍が護廷隊に来た時でさえ、そう顔を合わせることも出来なかったのだ。幼い頃から寂しい思いをさせたことだろう。あれは拗ねることがあっても決して寂しいとは言わなかったがな。」
白哉は青藍を見つめながら言う。


「もちろん、私も幼い頃は同じようなものだった。母を早くに亡くし、祖父と父は死神の務めを果たしていた。その代り、私には咲夜が居たが。」
白哉は小さく笑う。


「私たちが怪我をすれば、怖い思いもさせただろう。私が入院でもすると、あれはずっと私の病室に居たのだ。何をするでもなく、ただ、不安げにそこに居た。青藍は、明日が必ずやってくるわけではないと、解っているのだ。そなたは霊王宮に居る故、そう命を落とす危険も無かろう。だが、深冬は死神なのだ。それ故、そなたら親子には出来るだけのことをしたいのだろう。」


「・・・そうか。良い子だ。」
「あぁ。私と咲夜の息子だからな。」
白哉は自慢げに言う。
「ふふ。青藍だけではない。そなたもだ。良い子だのう、白哉。」
安曇はそう言って白哉の頭を撫でる。


「・・・鬱陶しいぞ、糞爺。」
白哉はその手を叩き落とす。
「痛いではないか。・・・何故、咲夜がそなたを選んだのか。何故、そなたは咲夜も霊妃も恐れぬのか。私は疑問だったが。」
安曇は笑みを零す。


「そなたは良い男だ。この私に向かって糞爺などということを除けば。」
「事実ではないか。毎度毎度人の口の中に甘味を入れおって。いい加減、やめろ。楽しんでいるのは解っているのだぞ。」
「あはは。気付いたか。」


「当たり前だ。自分が痛い目に遭うのに、この私で遊ぶとは・・・そなた、本当に呆けておるのか?それとも本当の阿呆か?」
白哉は疑わしげに安曇を見る。


「失礼な奴だ。・・・霊王宮に住まう者の一生は長いのだ。長い上にその責任が重い。世界そのものに関わるのだからな。多少遊ばねば、やっていられぬ。」
安曇は苦笑する。


「そなたらとはこうして関わっているが、本来ならば交わることは殆どない。交わったとしても、我らは取り残される。そなたも、青藍も、深冬も・・・きっと、私より先にこの世界から消えていくだろう。」
安曇はそう言って俯く。


「・・・そなたは本当に阿呆なのだな。」
そんな安曇に白哉は呆れたように言う。
「何?私は真剣に言っているのだぞ!」


「やはり阿呆だ。世界の理を知らぬそなたではあるまい。魂魄は世界を回っている。私たちがこの世界で死んでも、現世に生まれ、死に、再びこの尸魂界へと戻ってくるのだ。私たちと再び会いたいのなら、そなたが探せばよい。何度でも。」


「・・・簡単に言ってくれる。」
安曇は苦笑する。
「簡単なことだからな。ここまで関わったのだから、それなりに縁があるのだろう。そなたの一生が長いのならば、それも出来よう。」
「だが、それはそなたらであって、そなたらではない・・・。」


「爺の悩みは鬱陶しいな。・・・では、今のうちに好きなだけ私たちと関わっておけ。この先、私たちが居なくなろうと、忘れぬほどに。」
白哉の瞳は真っ直ぐに前を見つめている。


「私とて、それを解らずにそなたを受け入れたわけではないのだ。どんなに願っても、別れは必ず来るものだ。緋真が、そうだったように。置いて行かれる方は辛い。辛いが、それだけではなかった。私は今、幸せだ、と胸を張って言うことが出来るからな。」
「・・・私も、幸せだ。」


「では、その幸せを大事にすればいいのだ。たとえ一瞬でも、どんなに儚い幸せでも、幸せには違いないのだから。時間を気にするのならば、そんな鬱陶しいことを考えていないで、今を楽しめばいいのだ。」


「・・・そうだな。若造に諭されるとは私もまだまだだなぁ。」
「解ったのならば、着いて来い。寂しい爺に、幸せをくれてやる。」
白哉はそう言って立ち上がると安曇に構うことなく歩を進める。
安曇は慌てて立ち上がってその背を追いかけた。

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