色彩
■ 8.広がる微笑み

『・・・時間だ。行こうか、深冬。』
「あぁ。」
いよいよ、花婿と花嫁の出番である。
邸の中から、中庭に設けられた会場まで朽木家、加賀美家の面々で行列をつくる。
彼らの四隅には阿近特製の結界が張られている。


『皆さん、行きますよー。転んだりしないでくださいね。』
青藍は後ろを向いて悪戯に言う。
「誰が転ぶか。」
「そうだ。」


「そんなことを言って、兄様が転ぶんじゃありません?」
「あはは。それは面白いね。」
「それは駄目だろう・・・。」
「一番危ないのは深冬だ。」
そんな言葉が後ろから帰ってきて、青藍は笑う。


『あはは。確かに。じゃ、深冬は僕の隣ね。』
青藍はそう言って深冬の手を引いて前に連れてくる。
「え?でも・・・。」
深冬は戸惑いながらも手を引かれるままにゆっくりと歩く。


『慣例なんて気にしない。』
「それは・・・いいのか?」
『うん。だって、これから先、君が歩くのは、僕の後ろじゃないもの。君は、僕の隣を歩くんだ。僕と一緒に。だから、いいの!』
「ふふ。そうか。それなら、いいか。」
楽しげに言う青藍に、深冬は笑う。


『そうそう。・・・と、言うことで、皆さん、その辺は目を瞑ってくださいねー。清家からのお叱りは僕が後で受けますので。』
そんな二人に、後ろからは笑いながら仕方がないか、という声が聞こえてきた。


『それから、何か投げられても、結界が張ってあるので驚かないでください。素知らぬ顔で歩いてくださいね。』
「こんな時まで、大変だなぁ、青藍。」
咲夜が苦笑する。


『ふふ。皆様にまでご迷惑をお掛けします。まぁ、でも、阿近さんの結界なので、安心してください。・・・睦月、師走。君たちは適当について来てね。護衛よろしく。』
青藍が言うと二人の声が何処からか聞こえてくる。


「了解。青藍、転ぶなよー。」
「青藍が転ぶと深冬御嬢さんが巻き添え喰らうからな。」
『あはは。はーい。気をつけまーす。・・・じゃ、行こう。』
それに笑って、青藍は出発の指示を出した。


渡殿を通り、中庭へと降りる。
真っ直ぐに敷かれた緋毛氈の両脇には貴族、死神が入り乱れて青藍たちを待ち構えていた。
少し離れた一段高いところには、十五夜と安曇の姿がある。


二人の姿を見て、青藍と深冬は耳飾りを指さして微笑む。
それに返事をするように二人も微笑んだ。
その後も、浮竹、京楽、元柳斎、卯ノ花、冬獅郎等々・・・。
知り合いの顔を見つけては二人で笑みを向ける。


もちろん、雪乃や蓮、侑李、京、キリトもその場に居る。
その他慶一や秋良など当主の面々も。
途中、何か投げられているが、阿近の作った結界が問題なく作動している。
始めは何か投げられると身構えていた面々も次第に気にしなくなる。
それを外側から見ている者たちは一部首を傾げていたが。
襲撃者もちらほらいるが、その辺は睦月と師走が秘密裏に捕えているのだった。


祝言の儀が粛々と進められて、二人は夫婦となった。
その後は、宴へと会場が切り替わっていく。
皆が口々に二人の姿を褒めそやした。
一部、微笑みあう二人を見て、この結婚が政略的でないことに気が付き、内心でため息を吐いた貴族たちもいるのだが。


これまで二人の関係を傍観していた死神諸君は、ここに来るまで長かった、と、安堵のため息を吐く。
その一方で、二人を羨ましげに見つめる者も少なからずいた。
それはそれとして、その場に居た全員が、二人を祝福する。
二人の笑みが会場に花を咲かせ、会場内を幸せな雰囲気で包み込む。
何時しか、皆が微笑んでいるのだった。


安曇はそれを静かに見つめていた。
・・・美央。
見ているだろうか。
私たちの娘の晴れの日を。
三人でいた時間は、酷く短い。
私がこれまで生きた時間からすれば、一瞬のことだった。


私は一瞬でそなたを失った気がしていた。
ただ一人、置いて行かれたと、思った・・・。
しかし、私は、このような日を迎えることが出来て、幸せだ。
そなたと祝言を挙げることは出来なかったが、深冬が、私たちの夢を、叶えてくれた。
そなたはずっと、私と、深冬の中に生きている。
私も深冬も、一人ではなかったのだ・・・。


ありがとう、青藍。
礼を言うのは、私の方なのだ、青藍。
耳飾りなど、本当に大したことはないのだ。
そなたが深冬の正体に気付くことがなければ、私は深冬に会うつもりはなかった。
掟を変えることが出来たら会いに行こうと、そう決めていたからだ。


だが、それは言い訳で、本当は、私は怖かったのだ。
深冬はきっと私のことを覚えていないし、私は美央を思い出すのが辛かった。
私の立場が知られれば、深冬を危険な目に遭わせることも解っていた。
しかしそなたは、私の立場を知りながらも、私に笑顔を向け、私を受け入れてくれた。
そなたの背負うものを私は知っているのに、そなたに助けられたのだ。


深冬が私を父と呼んでくれたことは、私にとって奇跡だった。
私と深冬を親子にしてくれたのは、そなただ。
礼を言うぞ、青藍。
安曇はそんなことを思いながら二人をみて微笑む。

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