色彩
■ 7.耳飾り

『深冬、着付けは終わったかい?』
青藍は深冬が居る部屋の外から声を掛ける。
「・・・終わっている。」
『見てもいい?』


「ふふ。入ってきてくれ。動くのは大変なのだ。」
部屋の中から苦笑するような声が聞こえてきて、青藍は笑う。
そして、その部屋の襖をあけた。
入ってきた青藍を見て、女中たちは頭を下げると退室する。


部屋の中央に、深冬が座っていた。
純白の白無垢に身を包まれ、薄く紅を引かれている。
その姿に、青藍はしばし見惚れる。
深冬もまた、入ってきた青藍に見惚れているようだった。


『・・・きれい。』
青藍はポツリと呟く。
『凄く、綺麗だ。』
青藍はそう言って微笑む。
それを見て深冬ははにかむ。


「青藍も、格好いい。いつも以上に。」
『ふふ。ありがとう。』
言いながら青藍は深冬の傍に座ってその手を取る。
そしてその指に口付けた。


「青藍?」
『愛しているよ、深冬。』
「・・・わ、私も、青藍を、愛している。」
『ふふ。真っ赤。』
顔を赤くしながらそう言った深冬に、青藍は楽しげに笑う。


『・・・本当は唇にしたいけど、綺麗にしているから、まだ我慢するよ。後でね。』
青藍の言葉に深冬はさらに赤くなる。
「そ、そういうことは、言わなくていい・・・。」
そして拗ねたように言った。


『あはは。可愛い。・・・あぁ、誰にも見せたくない。皆に見せるの勿体ないなぁ。でも、見せびらかしたい。』
「何を言っているのだ・・・。」
青藍の言葉に深冬は苦笑する。


『もうすぐ安曇様がいらっしゃるよ。その姿をちゃんと見せてあげてね。きっと、楽しみにしているだろうから。』
「あぁ。」


「青藍、深冬。もう入ってもよいか?」
そう言っていると、部屋の外から安曇の声がする。
『もちろん。お入りください。』
青藍が言うと、すぐに襖が開かれた。
安曇は深冬を見ると、襖をあけたままの状態で、動きを止める。


「・・・父様?」
そんな安曇に深冬は首を傾げた。
『あはは。安曇様、見つめすぎです。』
「・・・いや、その、一瞬、美央に、見えたのだ。」
安曇は少し泣きそうに言う。


「私が、母様に?」
「あぁ。そなたの母はたいそう美しかったのだぞ。笑うとその場が華やいだ。・・・そなたも、美しい。流石、私と美央の子だ。」
安曇はそう言って微笑んだ。


「深冬に、これを。私が作ったものだ。青藍が今付けている物と揃いの物だ。」
安曇は耳飾りを深冬に見せる。
「綺麗だ・・・。」
それを見て深冬は呟く。


「ふふ。気に入ったようならば良かった。・・・付けてやろう。」
「はい。」
安曇は深冬の右耳に銀色の耳飾りをつける。
「・・・似合うか?」
「あぁ。」
『流石安曇様です。』


「・・・我が愛し子に祝福を。そなたは冬の色。深い深い、厳しい色だ。だが、昼の空と夜の空がそなたを見守り、温もりを与えるだろう。そなたの愛する者が、そうしてくれる。」
安曇は柔らかに言う。


「はい。ありがとうございます、父様。」
深冬はそう言って花が咲くように微笑んだ。
その笑みが、美央に似ていて、安曇はまた泣きそうになる。
「きっと、美央も、そなたを祝福している。」
「はい。」


「その耳飾りは、私が願をかけてある。ついでに、壊れないように手を入れてある。ずっとつけることが出来るように。まぁ、それは十五夜がやったのだが。争いの中でも、壊れぬ代物だ。青藍のために電気を通さぬようにもしてやったぞ。」


『ありがとうございます。十五夜様にもお礼を言わなければなりませんね。』
「大切につける。」
深冬は安曇を真っ直ぐに見つめて言った。
「あぁ。そうしてくれ。青藍も。」


『ふふ。はい。ずっと付けましょう。大切に。深冬とともに、大切に致します。こんな贈り物を頂けるとは、僕たちは、幸せ者ですね。』
青藍はそう言って微笑む。


「私はこのくらいのことしか出来ぬからな。まぁ、私が自分で作ったものを他の者にあげることは滅多にない。光栄に思え。」
安曇は尊大に言う。


『あはは。えぇ。有難く頂戴いたします。』
「ありがとう、父様。私も、大切に、ずっと、付ける。」
「うむ。では、私はそろそろ戻ろう。良い顔を見せておくれ。」
『「はい。」』

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