色彩
■ 6.祝言当日

それから一か月があっという間に過ぎ去った。
今日はいよいよ祝言当日である。
隊長格の斬魄刀たちにも警備を頼み、青藍と深冬の傍には、それぞれ睦月と師走が傍に控えている。
現在二人は別々の部屋で着替えさせられているのだった。


彼ら以外の朽木家一同は、続々とやってくる客人への挨拶に追われている。
青藍も着替えさせられながら、次々と起こる小さなアクシデントの処理に追われていた。
しかし、今日は快晴である。
桜が散り、葉桜になった頃。
暑くもなく、寒くもない快適な気候。
祝いの席にはもってこいの良い日和である。


「失礼するぞ。」
青藍の着替えが終わった時、そんな声と共に安曇が姿を見せた。
『安曇様?何故こちらに?』
青藍は首を傾げる。
「席についていると、注目の的なのでな。逃げてきた。」
安曇は苦笑する。
『なるほど。そうでしたか。』


「それから、渡すものがある。」
『渡すもの?』
「あぁ。これを。」
安曇はそう言って箱を取り出す。
手のひらサイズのその箱のふたを開けた。


その中には一組の耳飾り。
どちらも扇形を逆さまにして吊るしたような形のものである。
扇形の下にはさらに長方形の飾りが吊るされている。
しかし、一方は金色でもう一方は銀色。


扇形を二分するように、金色の方には紅色の玉が二つ、銀色の方には空色と藍色の玉が一つずつはめ込まれている。
それを見た女中たちはほう、とため息を吐いた。
青藍もまたその美しさに引きつけられる。


『これは?』
安曇に視線を向けて青藍は問う。
「我が一族では、婚姻の際、親から子へ、耳飾りを贈るのが習わしなのだ。まぁ、私が作ったので、その時に贈られるものとはちと違うが。」


『・・・え。作った!?安曇様が!?』
青藍は目を丸くする。
「そうだ。・・・なんだその顔は。私はそんなに不器用ではないのだぞ。それに、儀式用の装飾品は自分で作るものなのだ。私だってこのくらい作ることが出来る。」
驚きに目を丸くした青藍に、安曇は拗ねたように言う。


『そんな、貴重なものを、僕に・・・?』
「大したことではない。そなたは、こちらだ。」
そう言って安曇は金色の方の耳飾りを手に取る。
揺れる度にきらりと光りを反射して、それがまた美しさを際立たせた。
安曇はそれを青藍の左耳につける。


「ふむ。私の目に狂いはなかったな。よく似合う。そなたは雷の色。そして、深冬の瞳、朝焼けの、暁色の玉。」
安曇は満足そうに言う。


「・・・我が愛し子に祝福を。暗雲が立ち込めても、光を見失うことなく、必ず朝日が昇るように。」
『安曇様・・・。』
柔らかく微笑んだ安曇に、青藍は思わず泣きそうになる。
それを隠すように安曇の肩に額を乗せた。
そんな青藍に、安曇は笑みを零して、その背に腕を回す。


「そなたはもう、私の息子だ。・・・深冬を頼んだぞ。そして、これからも、この年寄りの相手をしてくれ。」
『はい・・・。ありがとう、ございます。』
「こらこら、そう情けない顔で人前に出るつもりか?」
青藍の泣きそうな声に、安曇は困ったように言う。


『僕の顔、見えてないじゃないですか。』
「どうせ泣きそうな顔をしておるのだろう。」
『何でわかるんですか?』
「そんな声をしておいて、何を言っているのだ。」


『・・・ふふ。安曇様は何でもお見通しですねぇ。』
青藍はそう言って一つ深呼吸をすると、安曇から離れる。
そして笑顔を見せた。


「よし。良い顔だ。私は、もう一方を深冬に渡さねばならぬ。まだ、深冬の姿を見ておらぬのだろう?私が先に見ることになってしまうぞ。」
安曇はそう言って悪戯に笑う。


『それは駄目です。いくら安曇様でもそれは譲れません。』
「では、先に行け。私は饅頭を三つほど食べてから行く。」
安曇はそう言って懐から饅頭を取り出した。
『あはは。はい。』
それを見て、青藍は笑うと、深冬の元へ向かったのだった。

[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -