色彩
■ 5.借りは返した

『・・・苦い。』
粥を食べて・・・途中、駄々をこねて深冬に食べさせてもらって、薬を飲んだ青藍は、そう呟いて布団に倒れこむ。
「いつものことだろ。いい加減慣れろ。」
そんな青藍を睦月は呆れたように見つめる。


『慣れない苦さなんだよ・・・。』
「五月蝿いぞ。大人しく寝ろ。まだ隈が残っている。」
そう言いながら睦月は青藍に布団をきちんと掛け直す。


「で、深冬は白無垢が届いたから、最終確認に行って来い。その間、青藍の傍には俺が付いている。」
「解った。」
「それから今日は青藍と寝ろ。」


『「!!??」』
「何だよその反応は。青藍は熱を出すと中々眠らないんだよ。寝ても魘される。だが、さっきは良く寝ていたようだからな。」
睦月は何でも無いように言う。


『いや、睦月、それは・・・どうなの?』
「何だよ、お前、熱でてんのに深冬を襲うのか?」
『「・・・。」』
睦月の言葉に二人は固まる。


「・・・なるほど。すでに襲いかけたのか。」
二人を見て睦月は納得したように言う。
『いや、それは、だね・・・。』


「へぇ。違うと言えないのか。」
「な!?ちが、違うぞ!!」
深冬は赤くなりながら慌てて否定する。
「まぁ、何でもいい。とりあえず、これ、医者命令。」
「そ、そんな・・・。」
睦月に軽く言われて深冬は困ったように言う。


「残念ながらこの馬鹿は熱で寝込んでいる暇がない。今日よく眠って明日には動いて貰わないと色々と支障が出る。今日だって、白哉さんが文句を言いながら面倒事を片付けた。そうしないと間に合わない。俺も色々とやることがあるしな。」
「・・・わかった。」


「よし。青藍、襲うなよ。熱で箍が外れた状態が最初とか最低だからな。」
『う・・・。はい。』
「じゃ、深冬、お前は行って来い。」
睦月に言われて深冬は部屋から出ていく。


「・・・で、眠る前にお前の耳に入れておく。明日の朝お前と顔を合わせられるか解らないからな。」
深冬が遠ざかって行ったことを確認して、睦月は青藍に向き直る。
『何?』


「阿近から例の結界が完成したという連絡があった。明日技術開発局に行って来い。全くお前、無茶な注文したよな・・・。その注文に応える阿近も阿近だが。」
睦月が呆れたように言う。
『あはは・・・。自覚はあるよ。でも、ないよりはずっといい。』


「まぁ、そうだな。当日は流石にお前も自分では動けないからな。深冬なんか歩くだけで精いっぱいだろう。せっかくの祝言を台無しにされても困る。それに、当日は霊王宮の二人も来るんだろ?」
『うん。何かあってあの二人に暴れられては困るからね。手は尽くすよ。』
「ま、皆が手を尽くす。とりあえず、今は眠れ。俺がここに居てやるから。」
『うん・・・。ありがと・・・。』


翌日。
よく眠って回復した青藍は阿近の元を訪れていた。
『阿近さん。』
「・・・あぁ、お前か。こっちだ。」
阿近は青藍を認めると、すぐに案内する。
青藍はそれに付いて行った。


「まぁ、入れ。」
『はい。失礼します。』
連れてこられたのは阿近の研究室である。
謎の物体が所々にあるのは昔から変わらない。
机や椅子の色が所々変色していて、室内には薬品のにおいが漂っていた。
その机の中央に、箱が四つ置いてあるのだった。


『これですか?』
「あぁ。」
阿近は頷くと、その箱の内一つを開ける。


中からは何の生物とも言い難い形のものが出てくる。
それを取り出して机の上に置いた。
阿近がその生物らしき物体に触れると、目だと思われる部分が開かれた。
うぞうぞとそれが動き出す。
他の三つもそうやって起動させた。
それらを青藍の四方に配置する。


「これで良し。青藍、歩いてみろ。」
言われて青藍は数歩歩く。
すると、それに合わせるように四つの物体も動いた。


「動きは問題ないな。次はこれだ。このスイッチを押してみろ。」
そう言って阿近は青藍にスイッチを渡す。
青藍はそのボタンを押した。
それと同時に、四方で光の柱ができ、そこから青藍を囲むように結界が張られる。
青藍はその様子を興味深げに眺めた。
結界が青藍を囲むと、四つの生き物と共に透明になり、青藍の周りには何も無いように見える。


『霊圧まで消しているんですね。』
青藍は感心したようにいう。
「あぁ。祝言の邪魔にならないようにな。で、次はこれだ。投げるぞ。逃げるなよ。」
阿近はポケットから何かが入った瓶を取り出して青藍に向かって投げた。
それは一直線に青藍へと向かっていき、青藍の周りにある結界にぶつかる。
しかし、跳ね返ることもなく、結界に吸い込まれるようにその瓶が消えたのだった。


「・・・お前、本当に逃げないのな。詰まらん奴だ。」
瓶を投げつけられても微動だにしなかった青藍に、阿近は面白くなさそうに言う。
『あはは。阿近さんの腕を信頼していますからね。』
「ま、いい。お望みどおり、移動式の吸収する結界だ。といっても、人は吸収できないけどな。人が相手の場合は、弾き返す。」


『えぇ。十分です。』
「とりあえず、技術開発局内にある一通りの薬品で試して問題はなかった。媚薬の類にも対応している。その他、物体は吸収するように設定しておいた。普通に走るくらいの速さならこいつらでも付いて行くことが出来る。」


『流石です。これなら、僕らにも、周りに居る方々にも被害は出ないでしょう。まぁ、襲撃者が来たら、睦月と師走が片付けてくれますし。』
見えない結界に触れながら、青藍は満足そうに言う。
「そうか。じゃ、これで借りは返したぞ。」


『ふふ。はい。いやぁ、お披露目で出歩くときに、どうしようか悩んでいたので助かりました。当日は流石に僕が自分で動くわけにもいきませんから。深冬なんかきっと歩くだけで精一杯でしょうし。急なお願いを聞いていただいてありがとうございます。』


「別にいい。お前が当主になった時に投げつけられた薬品が危険物なのを知っているからな。あんなもん投げる方も投げる方だが、投げられるお前もお前だよな。」
阿近は呆れたように言う。


『何もしていないはずなのですがねぇ。どうも、僕はそう言う運命にあるようです。』
「ちなみにあれも吸収するから安心しろ。」
『あはは。ありがとうございます。』


「で、開発費をお前に請求しようと思ったが、ご祝儀として半額にしてやる。」
『えぇ、そこはタダにしてくださいよ。』
「別に金を払えとは言わねぇよ。残りの半額は睦月と師走の貸し出しでいい。局長が彼奴らを虚圏に連れて行きたいそうだ。虚の毒を解析するのに、一週間ほど借りることになりそうなんだが。」


『なるほど。』
言われて青藍は考え込む。
『・・・まぁ、いいでしょう。でも、貸し出せるのは、祝言が終わって一か月後ってところですね。細々とした儀式がありますから。』


「それでいい。じゃ、それ、持ち帰れよ。リモコンをもう一度押せば結界が解ける。これ、取扱説明書な。」
『えぇ。ありがとうございます。』

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