色彩
■ 2.箍が外れる

「・・・あぁ、やっぱりこうなったか。最近ずっと忙しかったうえに、ここ数日特に忙しかったからな。・・・ま、疲労だろ。」
邸につくと、睦月が出迎え、呆れたように言いながら青藍を診る。
「すぐに部屋へ。」
睦月に言われて邸の者は青藍を運んでいく。
睦月と深冬もそれに続いた。


「全く、困った奴だ。彼奴、熱が出ると駄目なんだ。」
「駄目?」
「体の調子が悪いと誰でも心細くなるが、青藍は普通以上に駄目になる。普段気を張っている分、箍が外れる。お前、気をつけろよ。」
睦月は少し楽しそうに言う。


「それは、何に気をつければ・・・?」
「はは。さぁな。お前相手ではどうなることやら。」


部屋について、青藍は布団の上に寝かされる。
「青藍、お前、ろくに飯も食べていないな・・・?」
青藍の様子を診ながら、睦月は呆れたように言う。
『お昼を、食べ忘れた、だけだよ・・・。』
熱が上がってきたのか、青藍の顔が赤くなっている。


「嘘つくな。少なくとも今日は何も口にしていないだろう。・・・何か食べろ。これじゃあ、薬も飲ませられない。」
『いらないよ・・・。』
「駄目だ。食べろ。一口でもいいから。」
『やだ。』


「じゃあ、深冬に食べさせてもらえ。」
『うん・・・。』
睦月の言葉を理解しているのかいないのか、青藍は頷く。


「何でそこは素直に頷くんだよ・・・。まぁいい。深冬、俺は粥の準備をしてもらってくる。」
睦月はそう言って立ち上がる。
「粥が出来るまでにこれが寝たらそのまま寝かせておけ。起きたら食べさせて薬を飲ませる。」
「解った。」


「じゃ、それまで看ておいてくれ。俺は薬を作ってくるから。まぁ、何かあったら呼べ。」
「あぁ。」
深冬が頷いたのを見て、睦月は部屋から出ていく。
それを見送って、深冬は青藍に向き直った。
青藍は赤い顔をして、瞳を潤ませている。


暫くそれを見ていたが、青藍は眠る様子がない。
ただぼんやりと空中を見上げている。
時折瞼が重くなるらしいのだが、それでも目を閉じようとはしなかった。


「・・・青藍、眠っていいのだぞ。」
深冬は静かに声を掛ける。
『ん。』
返事ともうめき声とも取れる声を出して、青藍は視線を深冬に移す。


『手。』
青藍は甘えるようにそう言った。
その意図を理解して、深冬は青藍の手を握る。
その手に指を絡ませて、青藍は満足そうな顔をする。


「眠らないのか?」
青藍の様子に、深冬は首を傾げる。
『ねない。』
青藍は小さく首を振る。
「何故だ?」


『こわいから。』
「怖い?何がだ?」
『ゆめ。』
「また碌でもない夢を見たのか。」
『ねつがでるとみる。・・・だから、ねたくない。』
青藍は駄々をこねるように言う。


本当に子どもの様だ。
そんな青藍の姿に、深冬は内心苦笑する。
でも、可愛い。
そう思って小さく笑みを零した。


「大丈夫だ。私が居るから、怖い夢は見ない。」
『ほんと?』
「あぁ。」
『じゃあ、いっしょに、ねてくれる?』
「うん。」


『それじゃあ、こっち。』
「うわぁ!?」
青藍につないだ手を引っ張られて、深冬は布団の上に倒れる。
「青藍、何をするのだ・・・。」
そう言って深冬は起き上がろうとする。
上半身を持ち上げたところで、青藍の手が頭の裏に回される。


『だめ。にがさない。』
青藍はそう言うと深冬の頭を引き寄せ、自分も少し起き上がって深冬の唇に自分のそれを重ねた。
「む!?」
深冬はそれから逃げようとするが、頭を押さえられているために動くことが出来ない。
ジタバタともがいているうちに、青藍は深冬の唇を舐める。


「んん!?」
深冬はそれに驚いて口を開けてしまった。
それを解っていたように、するりと舌が入り込む。
「ん、せい・・・らん。だ、ん・・ねつが、ある・・・のだぞ。」
青藍の舌に翻弄されながらも、深冬は必死で青藍から逃れようとする。


しかし、熱があっても力の差は大きい。
いや、熱があるからこそ、青藍の力の加減が効かなくなっている。
口内を弄る青藍の舌はいつもよりずっと荒々しい。


「んん・・・。」
息が続かなくなってきて、その抵抗は次第に弱くなっていく。
・・・熱い。
これは、青藍の体温なのか、それとも私の体温なのか。
溶けてしまいそうだ・・・。
深冬は青藍に口内を蹂躙されながらどこか冷静にそんなことを考える。

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