色彩
■ 1.熱

『僕、忙しすぎて、死ぬ・・・。』
死神業、当主業に加え、一月後に迫った祝言の準備にも追われている青藍は疲れ切っていた。
その上、隊士の殉職、貴族同士の諍い、貴族と流魂街の民との衝突、それから豪紀と実花の婚約発表等々・・・通常以上に様々なことが青藍に降りかかってきた。
青藍は今、それらの対応に追われているのである。


昨日も、眠れなかった・・・。
青藍は死にそうになりながらも三席としての仕事を終え、机にへばりつく。
ここ三日程は碌に眠っていないのだった。
そんな青藍を見かねて、白哉は最近青藍に任務を与えていない。
お蔭でその分、橙晴が任務であちらこちらに行っているのだが。


・・・もう、頭が回らない。
このまま机と一体化してしまいそうだ。
いつもならばそんな青藍を橙晴が窘めるのだが、その橙晴は今日も任務に出かけている。
それ故、青藍に注意できる者は、いま、この執務室には居ないのである。
隊士たちも隊士たちでぐったりした青藍を無理に起こすこともしないのだ。


・・・もう一度起き上がることが出来る気がしない。
睡眠不足によると思われる頭痛もする。
体も、怠い。
そう言えば、ご飯も食べていない。
でも、食べる気力すらない。


あぁでも、食べないと睦月特製栄養ドリンクが待っている・・・。
それは嫌だ。
だけど、動きたくない。
体が重い。
眠い。


「青藍?」
机にへばりついて微動だにしなくなった青藍に、声を掛けるものが居る。
青藍はその声のする方に顔だけ向けた。
『みふゆ・・・。』
何時の間にこんなに近くに来たのだろう。
青藍はそんなことを考える。


「・・・大丈夫か?酷い顔だ。」
深冬は心配そうにそんな青藍の顔を覗き込む。
『ん。・・・深冬、今日、邸に白無垢が届いて、最終的な調整をするから、邸に、帰ってね。』


「うん。解った。」
結局白無垢は、深冬の意見を交えつつ青藍が見繕った。
途中、安曇の希望も取り入れた。
きっと、あれはすごく深冬に似合うだろう。
青藍はぼんやりと考える。


「それは解ったが、青藍は、今日も邸に帰らないのか?」
『うん・・・。帰れたら帰るよ。あぁ、でも、深冬の白無垢姿は、祝言まで楽しみにしておくよ。』
青藍は弱々しく笑う。
深冬はそんな青藍を見つめる。


「・・・青藍。寒くないか?」
深冬に言われて、青藍は気付く。
『・・・寒い。』
そう言った青藍の額に手を当てる。
「・・・やっぱり熱がある。」
深冬は眉を顰めながら言う。


『んー?そんなことはないよ?』
青藍は、ぐったりした様子でいう。
「・・・はぁ。」
自覚のない様子の青藍に、深冬は盛大なため息を吐いた。


「仕事は・・・終わっているようだな。この状態で仕事をするとは、本当に馬鹿だ。今日は邸に帰るぞ。いいな?」
手を青藍の頬に滑らせて、言い聞かせるように言う。


『熱なんかないもん。それに、ぼくには、やるべきことが・・・。』
青藍は駄々をこねるようにそう言った。
「・・・少し待っていろ。白哉様にお話ししてくる。」
深冬はそう言って青藍の頬から手を離した。


『やだ。』
青藍はそう言って深冬の手を掴む。
そしてふらふらと机から上半身を持ち上げる。
「こら、青藍。手を放せ。」
深冬はその手を放そうとするが、意外に青藍の力が強く、その手から逃れることが出来ない。


「うわ!?・・・何をするのだ。」
突然その手を引かれて、深冬は青藍の胸に飛び込んでしまう。
青藍はそんな深冬を抱きしめた。
『ぼくは、放さないっていったもん。』
子どもの様にそう言って青藍は深冬に甘えるようにすり寄る。


「こら、青藍。やめ、やめろ!それはまた別の話だ・・・青藍?・・・び、白哉様!!!」
そしてそのまま力なく深冬に凭れ掛かってきた青藍に、深冬は叫び声を上げたのだった。


「何を騒いでおるのだ、深冬・・・青藍?」
深冬の声が聞こえたのか、白哉が隊主室から出てくる。
そして、青藍を見て動きを止めた。
それから一つ、溜め息を吐く。


「漸く限界が来たか。朝から酷い顔をしていると思っていたが、言ったところで言うことを聞くとも思えなかった故、そのままにしておいたのだ。・・・しかし、そのような状態で倒れるとは。」
白哉は深冬を抱きしめたままの青藍を見て呆れたように言う。


「白哉様、青藍は熱があります。」
「そうか。すぐに邸に運ばせよう。そなたは傍についていてやるといい。浮竹には私から言っておこう。」
「はい。ありがとうございます。」

[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -