色彩
■ 53.退屈しない人生

「・・・深冬が世話になった。お蔭で、私は深冬に、父と呼んでもらうことが出来た。そなたが本気で深冬を見捨てていたのならば、このように深冬と向き合うことも出来なかったのだ。恐らく、言葉を交わすこともなかった。」
言いながら安曇は愛しげに深冬を撫でる。


「深冬がこの不甲斐ない私を父と呼んでくれることは、私にとって一番の幸せなのだ。その幸せをそなたは私に届けてくれたのだ。・・・礼を言うぞ、八重。」
「安曇、様・・・。」
微笑みながら言った安曇に、八重は涙を流す。


「ほらほら、そう泣くな。せっかくの綺麗な顔がもったいないではないか。」
安曇は困ったように言いながら、その涙を拭う。
「ほんとうに、もうしわけ、ございません・・・。」
「謝る必要はないと言っておろうに・・・。」
何度も謝罪を口にする八重に、安曇は困った顔をした。


「・・・父様に、私が言いたかったことを、すべて言われてしまった。」
深冬は困ったように呟く。
『ふは。親子だねぇ。』
青藍はそう言って深冬の頭を撫でる。
「そうだな。」
嬉しそうに微笑んだ深冬に、青藍も思わず微笑む。
頭を撫でていた手を深冬の頬に滑らせると、深冬はその手にすり寄った。


『ふふ。さぁ、深冬。君も八重殿の涙を拭ってあげるといい。もう、八重殿が怖くないだろう?大丈夫だ。安曇様と同じように、してあげるといい。』
「うん!」
青藍の言葉に頷いて、深冬は八重の元へ向かった。


「・・・青藍。」
それを見て、雪乃が青藍に近付いてくる。
『ん?』


「貴方、何処まで計算なの?」
雪乃は疑わしげに青藍を見る。
『あはは!僕、そんなに信用ない?』
「ないわよ。」


『はっきり言うよね。まぁ、安曇様が誑し込んでくれるだろうなぁ、とは、思ったけど。あの人、基本的に狡いから。父上並みだよ。』
青藍は楽しげに言った。
『ま、安曇様を女性だと思っていたのには驚いたけれど。』
「確かに、その辺の女性よりは美しいものね。」


『ふふ。うん。でも、祝言の前にこうなってよかったよ。あの襲撃者に、感謝しなければならないね。こういう機会を作ってくれたのだから。』
「まさか、それまで計算に入っていた訳じゃ、ないわよね?」
雪乃は恐る恐る聞く。


『まさか。加賀美家に僕を狙うといった脅迫状が送られたことを知ったのは、儀式の直前だ。そこからいろいろ考えて、僕だけでなく深冬が狙われる可能性に辿り着いたけど。辿り着いたと思ったらすぐに首元に刃を突きつけられていたし。霊王宮の方が相手だと、警備があろうがなかろうが関係ないと思い知らされたよ。』
青藍は苦笑する。


「霊王宮の方からも狙われるなんて、貴方、本当にどこに行っても平穏には暮らせないのね。」
雪乃は呆れたように言った。
『あはは。そうだね。ま、人生退屈しないから、いいんじゃない?』


「あのねぇ。貴方、そう言う楽観的なことを言う割に、何かあると夜眠れなくなったりするのよ?意外と神経弱いんだから、自重しなさい。」
『はぁい。』
叱るように言う雪乃に、青藍は適当な返事をする。


「ちゃんと聞いているの?」
『聞いているさ。自重するよ。・・・たぶん。』
「・・・全く、いつもそうなんだから。自重できないなら、せめて深冬に頼るぐらいはしなさいよ。貴方、おねだりは上手なくせに、甘えるのが下手くそなのよ。あの子は・・・深冬は貴方が寄りかかったって、ちゃんと支えてくれるわよ。簡単に潰れたりしないわ。」
『うん。そうだね。次からはそうするよ。』



2016.10.20 当主編 完
〜祝言編に続く〜

朽木家の当主となった青藍。
これまで以上に注目を浴びるようになり、彼を狙う者も絶えません。
また、当主となったことで彼の孤独は深まります。
そんな青藍とは反対に、白哉さんは肩の力が抜けているのでしょうね。
力が抜けたことでさらに手強くなっていく白哉さんに、青藍を始めとした彼を目標にしている人たちは振り回されていくことでしょう。
頑張れ、青藍。

ここまでお読みくださった皆様に感謝致します。
ありがとうございました!


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