色彩
■ 52.謝罪と許し

『そして、この安曇様ですが、少々特殊なご職業の方でして。まぁ、この衣装と先ほどの現れ方を見れば解るとは思いますが。それ故に、加賀美君は八重殿に深冬の出自をお話しすることを控えていたのです。そして、この方の立場が、一昨日の件を引き起こしたと言っても過言ではありません。』


「別に私は手を抜いていたわけではないのだぞ・・・。」
不満げに安曇は言う。
『えぇ。もちろん、それは解っておりますよ。安曇様が、というより、安曇様のお役目がそうさせたのです。』
「全く、面倒な立場だ。」


「この方の、立場とは?」
『はい。この安曇様は、霊王宮に勤めておられるお方にございます。』
「え・・・?」
青藍の言葉に八重は目を見開く。


『そして、霊王宮に仕える一族の長でもあります。一昨日の襲撃者は、見てわかるとおり、安曇様がまとめる一族の者でございました。そう言う事情故に、あの二人は朽木家で預からせて頂いたのです。』


「一族の者が、重要な儀式の日に迷惑をかけたようで申し訳ない。あの者どもの身柄は、霊王宮にてお預かりした。すでに処遇も決定している。少なくとも今後百年は私の監視下にあるため、あのような騒ぎを起こすことはないだろう。」


『あはは。監視下、ではなく、下僕と言った方が正しいですけどね。お気の毒です。』
「ふん。私の可愛い娘とその婚約者を狙ったのだ。そのくらいで済んだことに感謝してほしいくらいだ。」


『流石安曇様ですよねぇ。・・・そう言う事情故に、深冬の出自は伏せられました。霊王宮との繋がりがあるということが他の貴族に伝わることがあれば、深冬は利用されてしまいますから。そうなれば、僕も手を出さざるを得ません。まぁ、そんなことをすればこの安曇様が容赦なく断罪するのでしょうけれど。』
「当然だ。」


「では・・・何故、深冬はこちらに・・・?」
八重は首を傾げる。
「深冬の母は、流魂街の者だったのだ。美央という。ある事情があって、私は流魂街に降りることがあってな。その時に出会ったのだ。深冬が生まれ、美央が流魂街で育てていたが、美央が死んで深冬は一人になってしまった。父である私が引き取ろうとした。しかし、我が一族は同族での婚姻しか認めておらぬ。つまり、他の者と交わって出来た子は一族には認められぬのだ。その掟によって、深冬を霊王宮に連れて行くことは叶わぬ。面倒な掟があるものだ・・・。」
安曇はそう言ってため息を吐いた。


『その時に出会ったのが加賀美殿で、安曇様が深冬を引き取ることが出来るようになるまで加賀美家が彼女を預かることになったのです。』
「私は深冬を霊王宮に迎えることが出来るようにと、一族の長となり、掟を変えようとした。しかし、それは今でも叶わぬ。だが、青藍という存在が居るために、わざわざ掟を変える必要もなくなった。・・・早く引退したい。引退して、青藍に拾ってもらい、こちらの年寄りのように隠居生活をしたい・・・。」
面倒そうに安曇は言う。


『あはは。まぁ、それは、その内。朽木家は何時でも安曇様をお迎えいたします。それが気の遠くなるほど先のことであったとしても。僕がそのように準備しておきますよ。』
「そうか。それはありがたい。・・・だが、私も早く引退するから、青藍は長生きするのだぞ。そなたが居らねば詰まらぬ。」


『ふふ。はい。では、気長にお待ちいたしましょう。』
「当然、深冬もだ。この父を置いて、先に死ぬようなことはしてくれるな。そんな思いはもうたくさんだからな。」
「はい、父様。」


「・・・安曇様。」
八重は静かに言う。
「私は、貴方の大切な娘に、酷い仕打ちをいたしました。謝って済むものではありませんが、大変申し訳ありません。どんな罰でもお受けいたします。」
深く頭を下げて、八重は言う。
安曇はそれをきょとんと見つめた。


「なぜ謝るのだ?」
「私は、深冬を、邸の中で使用人のように扱っておりました。その上、数々の暴言も吐いた記憶がございます。深冬をどれほど傷つけたことか・・・。」
顔を上げずに八重は言う。
その姿を見て、安曇はふと笑う。


「謝るのは、私の方だ。不本意ながら、私のこの容姿が、そなたに不安をもたらしたらしい。私の無力が、そなたにそんな思いをさせてしまうことになったのだ。それに・・・。」
安曇はそう言って深冬を見つめる。


「深冬は、自分で選んでここに居たのだ。逃げることだって、やろうと思えば出来たはずだ。幼いころから霊力は人並み以上にあった。すぐに霊術院に入学することだって出来ただろう。それをしなかったのは、深冬だ。深冬は、自分で選んでここに残った。この子は、そう言う子なのだよ・・・。」
安曇は八重に言い聞かせるように言った。


「八重といったな。顔を上げなさい。」
言われて八重はゆっくりと顔を上げる。
そんな八重に安曇は微笑んだ。

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