色彩
■ 50.けじめ

「深冬、お前、本当にアレでいいのか?」
そんな彼らを横目に、何やら落ち込んだ様子の深冬に豪紀は小さく言った。
「・・・その辺は、青藍が自分で話してくれました。それに、青藍は最初から私に選ばせてくれました。何であれ、青藍のそばに居ることを選んだのは、私です。」
「そうか。」


「はい。全てを知った上で、私は青藍を選びました。だから・・・まぁ、たまに考え直そうかとも思いますが、あれでいいのです。」
深冬は苦笑する。


「安曇様は何と?」
「父様は、自分で決めたのならばそれでいいと。青藍とのことを伝えたら、やっと気が付いたのかと笑われてしまいました。」
「・・・そうか。まぁ、彼奴のことは気に入らないが、悪いやつではないんだよなぁ。」
豪紀はそう言って梨花と実花、雪乃に詰め寄られている青藍を一瞥する。


「ふふ。はい。いつもそれを隠していますが。私は、何度青藍に助けられたか解りません。自分の命を危険に晒してまで、私を助けてくれたこともあります。だから・・・。」
そこまで言って深冬は言葉を切る。


「だから、私も、青藍の助けになりたいのです。青藍は、本当は弱いので、それを守るのが、私の務めです。私はそう決めて、青藍の隣に居ます。これから先も。」
凛と言い放った深冬に、豪紀は内心苦笑する。
これでは、彼奴は深冬を手放すことは出来ないだろう、と内心で呟く。
そして、頭を一撫でしたのだった。


八重はそんな二人の様子を見ていた。
・・・豪紀はあんなに柔らかい表情が出来る子だっただろうか。
深冬は、あんなに笑うことが出来る子だったのか。
それに・・・。
顔が似ているわけではないのに、ちゃんと兄と妹に見える。


私は、長い間、それを壊していたのだ・・・。
自身の嫉妬心に駆られるままに。
そう思いながら、八重は青藍を見る。
あのように、年相応の表情をされているのに、あの方に、私は、加賀美家は救われた。


・・・私も、けじめをつけなければならないわ。
いつまでも逃げていたら駄目ね。
半年後には、深冬は朽木家へと名実ともに嫁いでしまうのだから。
そう考えて八重は覚悟を決める。


「深冬。」
八重は真っ直ぐに深冬を見つめた。
「はい、八重様。」
そんな八重に、深冬もまた真っ直ぐに視線を返した。


何て真っ直ぐな瞳。
全てを見透かすような、透き通った輝く瞳。
こんな瞳をする子だったのね。
・・・初めて見たわ。
きっと、私は、それを無意識に解っていたから、貴女を見ようとはしなかったんだわ。
自分の醜さを認めることが怖くて。


「・・・これまで、貴方を苦しめたこと、本当に、ごめんなさい。謝って済むことではないと、解ってはいるのだけれど、謝ります。ごめんなさい、深冬。」
八重はそう言って深冬に頭を下げた。
その様子に、一同は目を丸くする。


「八重、様・・・?」
あの八重様が、私に頭を下げている。
深冬は慌てて八重に駆け寄って、頭を上げさせた。
「ちが、違うんです。八重様が、謝ることなど、ありません。私、私が、私は・・・。」
上手く言葉が出てこない深冬の背中を、青藍は落ち着かせるように叩いた。


『深冬。ゆっくりでいい。ゆっくり。八重殿は、ちゃんと、聞いてくださるから。』
青藍の声と体温に安心して、深冬は少し冷静になる。
「・・・私は、私のせいで、八重様が苦しんでいることを、知っていました。私の存在が、邪魔だということも、解っていた。」
深冬は泣きそうになりながら言う。


「でも、八重様は、私のせいで、苦しい思いをしても、私を邸の外に放り出すようなことはしませんでした。だから、私は今、ここに居ることが出来て・・・。一人じゃ、なくて。」
「深冬・・・。」
泣きそうになりながらそんなことを言う深冬に八重は目を丸くする。


「私には、家族が、できて。豪紀兄様にも、私の、兄となって貰って。だから・・・だから、八重様、ありがとうございました。」
深冬はそう言って八重に頭を下げる。


その体が小さく震えていて、八重は、きっと彼女は私が怖いのだ、とどこか冷静に考える。
そう考えて、八重は自分の過ちを自覚した。
言いようのない感情が、胸のあたりに重石をつくる。
ぽたり。
気が付くと、八重は泣いていた。


「八重、様?」
それに気が付いた深冬は顔を上げる。
その顔が泣きそうで、八重はさらに涙を流した。


「・・・ごめ、なさい。ごめんなさい、深冬。私は、なんということを、したのでしょう。何度も、貴女に、酷いことを・・・。」
そう言ってふらついた八重の体を豪紀が支える。
八重はそんな豪紀にすがりついた。


「深冬だけじゃないわ。豪紀にも・・・ずっと・・・。」
「母様。それは、もう、いいんです。俺も、父様も、言葉が足りなかった。母様が、深冬をどう思っているか、知っていたのに、深冬について説明することもしなかった。」
「説明?」
豪紀の言葉に八重は首を傾げる。


「・・・朽木青藍。」
それを見て、豪紀は覚悟を決めたように青藍の名を呼ぶ。
『君が良いと思うのならば、それでいい。僕よりも、君の方が八重殿をよく知っているからね。でも、梨花姫と実花姫は席を外してもらおう。今はまだ、君たちが知るべきことではない。』


「それは、覚悟の問題ね?」
梨花は確信を持っていう。
『そうだ。』
「そう。じゃ、私たちはこれで失礼するわ。実花、行くわよ。」
「えぇ。でも、いつか絶対聞かせてもらうわよ。」
『それは君たち次第だ。じゃ、姫様方、お気をつけて。』
青藍に言われて二人は退出していく。

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