色彩
■ 49.ないことはない

「・・・青藍様は、まだ深冬に何もしておられないのですか?何年も一つ屋根の下に居ながら?」
話を聞いていた八重が信じられないという顔をする。


『あはは・・・。』
青藍は苦笑し、深冬は気まずそうに顔を逸らした。
「八重様、直球ですわね。」
「まぁ、確かに気になりますわ。青藍様も深冬様もそう言う雰囲気がないのだもの。」


「深冬はともかく青藍はあれで結構余裕がないのよ?」
『雪乃さーん、余計なことを言わないで下さーい。』
「事実じゃない。色々と駄々漏れだったわよ?まぁ、朽木隊長の発言の方が驚いたけれど。」


『それは、父上が雪乃の義父になってもいいと言っていたこと?それともそれ以外?』
「な!?・・・どっちもよ。朽木隊長、青藍なんかよりずっと狡いんだから。」
『あはは。お父様とでも呼んであげれば?たぶん喜ぶよ。』


「青藍様、話を逸らそうとしているわね?」
梨花はそう言って青藍をじとりと見つめる。
『うん?そんなことないよ?』
「今は白哉様の話ではなくて、青藍様の話をしているのよ?」
『あはは・・・。』


「青藍様、怪しいのよねぇ。この間牡丹さんが言っていたけれど、青藍、誰の誘いにも乗らないのですって。深冬様と婚約する前から。」
実花はそう言って青藍を見つめる。
「あら、護廷隊でだってそうよ?青藍、悉く振っているのだから。青藍が手を出したという話も聞かないし・・・。あ、一昨日睦月さんに押し倒されていたけど。」


『やめてー。余計なこと言わないでー。それにあれは診察だったよ。ね、深冬?』
「そうだな。一応、診察だった。青藍に怪我がないことを確認していたから。」
『そうそう。大体、酔った睦月を支え損ねて転んだだけです。』


「「「「で、実際の所は?」」」」」
梨花、実花、雪乃、八重に詰め寄られて、青藍は苦笑する。
豪紀はそんな青藍に憐みの視線を向けた。


『さて。それを知っていいのは、深冬だけでしょう。皆さんに教えるほど、僕は安くありませんよ?』
青藍はにっこりと微笑む。


『それに、誘いを断っているというのなら、加賀美君だって同じでしょう。ね、加賀美君?』
言われて豪紀は深いため息を吐く。
「・・・俺に振るな。」


『事実じゃないか。僕に姫を押し付けることができるくらいには酒宴でも囲まれているくせに。』
「分が悪いからって俺を巻き込むなよ・・・。」


「・・・青藍から聞き出すのは難しそうね。」
「えぇ。でも、もう一人聞き出せる人が居るわ。」
「そうね。ねぇ、深冬様?」
「・・・。」
言われて深冬は沈黙する。


「あら、ないとは言わないのね。」
「そのようね。」
「・・・。」
深冬は堅く口を閉じたままだ。


「そもそも青藍様の愛の告白はどんなだったのかしら?」
「・・・。」
深冬は黙ったままそっぽを向く。
「・・・ふぅん?ねぇ、青藍様?なんて言ったのか、そのくらい教えてくださらない?」
『ふふ。秘密。』


「青藍が深冬に想いを告げたのは、確か去年の春よね?」
『まぁ、それはそうだね。桜が満開だった。』
「あれ?でも、確か・・・。」
「そうだ・・・。あれがあったわ・・・。」


「「公衆の面前で深冬様に唇を奪われた。」」
「!!??」
梨花と実花の言葉に、深冬は目を見開く。
「あら、深冬ってば、意外と積極的なのねぇ。」
八重が意外そうに言う。


「な、そ、私が、いつ、そんなことをしたのだ!?」
深冬は焦ったように青藍を見る。
『・・・深冬さん、酔っ払いでしたもんね。しかも、記憶に残っていないんだから。皆の前で僕の唇を奪っておいて、全く覚えていないなんて。深冬ったら酷いよねぇ。』
青藍は深冬をからかうようにいう。


「な!?私は何をしたのだ!?」
『さぁてね。僕、本当に酔っぱらいは相手にしないことにしたよ。深冬、酔うの禁止。それから母上の言うことを何でも鵜呑みにするのも禁止。』
「何言っているのよ。冷静を装っていただけで、内心動揺していたくせに。」


『雪乃だって橙晴に唇を奪われたら動揺するでしょ。』
「な!?それとこれとは別の動揺でしょう・・・。」
『同じじゃないの?・・・ふぅん。橙晴、可哀そうに。』
言いながら青藍は雪乃を横目で見つめる。


「な、何よ・・・。」
『別に。雪乃もさっさと覚悟決めたら?朽木家はいつだって歓迎するっていうのに。知ってる?橙晴の片思い、僕らが霊術院に居る時から何だって。長いよねぇ。』
「な、によ、それ・・・。」


『僕はいい加減、橙晴が菩薩にでもなるんじゃないかと思う。橙晴、待てと言えばずっと待っているよ?なんだかんだ言って橙晴は真面目だから、僕みたいな狡いことはしないよ?』


「青藍様は狡しかしておりませんものね。」
「そうそう。そのくせうだうだとしているんだもの。だからへたれと言われるのよ。」
梨花と実花は小さく呟く。


『そこ二人、五月蝿いよ。結果的にずるじゃなくなったのだからいいんだよ。』
「あら、青藍様、開き直ったわ。」
「女の敵ね。」

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