色彩
■ 上司 後編

「そんで、玲奈ちゃんもかいな・・・。最近特に綺麗になったなァ、思てんけど、なんやねん、結婚て・・・。」
「いや、まだ結婚と決まったわけでは・・・。」
「青藍が言うんやったら、ほぼ確実やん。そんで、お前は実花ちゃんと婚約やろ?」
「それもまだ決まったわけでは・・・。」
「満更でもないくせによう言うわ。オレの女神は何処に居るねん・・・。梨花ちゃんでも紹介してくれへん?」


気の多い人だ。
内心で呆れながらも、隊長が義理の兄になるのは御免だと口を開く。
「梨花姫は、手強いと思いますよ。次期当主として、勉強中ですし。それに・・・。」
「なんや、梨花ちゃんまで相手が居るとか言うんやないやろうな?」
「いや、相手は居ないはずですが・・・隊長、慶一殿の息子になることを考えられますか?」


周防慶一。
梨花と実花の父で、現周防家当主。
次期当主を決めるという名目で、青藍を巻き込み、梨花を次期当主に仕立て上げた男。
その飄々とした姿を思い浮かべて、真子はげんなりとする。
あの手の男とはそりが合わない。


刀を振るうことなどないくせに、笛の音を聞けば、こちらの全てを見抜かれているようで。
周防家の宴に参加した際、その笛の音に、お前は無力だ、とでも言われているような気分になったのを覚えていた。


あれは、サクの舞とは同じやけど違う・・・そんな感じの笛やった。
十三番隊の宴で聞いた漣弥彦の笛は、心も体も自分のものではなくなるような感覚があって、もっと性質が悪かったが。


「・・・嫌やなァ。あかんで。あの男は、あかん。お前、何であれを義父に選んだんや?」
面倒そうに問われて、内心苦笑する。
「慶一殿を義父に選んだ、というよりは、実花を選んだら慶一殿が義父になる、というのが正しいです。」


「同じことやんけ。」
「違いますよ。・・・まぁでも、朽木隊長が俺の義父になるよりは、現実的であったのは事実ですね。」
「何で嫌なん?朽木隊長が義父になるいうことは、サクが義母やで?お母様と甘えられるんやで?」


「それを見た朽木隊長が黙っている訳がないじゃないですか・・・。俺なんか塵にされますよ・・・。」
呆れたように言った豪紀に、真子はため息を吐く。


「せやなぁ。それに、一番手強いのは、サク自身や。昔から朽木家のことばっかりや。口を開けば、銀嶺お爺様、蒼純様、白哉、や。朽木家って何なんや。それに・・・漣家ってなんやねん。」
ぽつり、と付け足された言葉に、豪紀は目の前の男の聞きたいことを悟る。


・・・俺から聞き出そうとしているのだろうか。
そうだとしたら厄介だ、と、豪紀は何度目かのため息を内心で吐く。


「俺もよくは知りません。朽木青藍は口が堅いもので。その上、本心を見せない。彼奴を本当に理解できる者など、居ないと思いますよ。深冬でさえ、彼奴の全ては知らない。十五夜様や安曇様は全て知っておられるのかもしれないが、知っているからと言って、彼奴の孤独は救えない。俺に解るのは、それだけです。」


「・・・そうかァ。お前も大概口が堅いのう。ま、嘘は吐いとらんみたいやから、今日はこの辺にしといたるわ。ほんなら、オレは昼休憩や。桃が帰ってきたら、椅子に座らせて茶でも飲ませといたれ。」


「解りました。休憩をとるように言っておきます。」
「頼んだで。彼奴なんであないに馬車馬やねん。オレがこき使ってるみたいやんけ・・・。」


・・・怖い人。
なにやらぶつぶつと言いながら去っていく真子を見送って、豪紀はため息を吐く。
でも、凄い人だ。
隊士全てとはいかないのだろうが、少なくとも席官たちが休憩を取っているかどうかは把握しているのだから。


六席を見ていたのは、昼食も摂らずに仕事をしている六席を心配していたから。
俺に話しかけてきたのは、俺が書類を片手に昼食を摂っているから。
雛森副隊長に休憩を取らせろと言ったのは、隊長の言う通り、副隊長は馬車馬の如く働くから。
それを指摘すれば、そんなんどこの隊長もやっとるわ、とでも言われるのだろうが。


見ていないようで、見ている。
だからこそ、怖い人で、凄いのだ。
たまにこの人が隊長で本当に大丈夫なのか、と疑うこともあるが、それでもあの人は隊長なのだ。


良い上司の元で働けているな、俺は。
豪紀は内心で呟いて、持っていた書類を机の上に置くと、食べかけだった昼食に手を伸ばす。
その後、豪紀は書類を片手に食事をすることをやめたのだった。



2016.10.24
平子さんと豪紀の会話は淡々と、でも、テンポよく進みそうです。
豪紀は平子さんのことを尊敬していて、平子さんも豪紀のことは認めています。
ちなみに玲奈が私が行くことに意味がある、と言っていたのは、蓮に想いを寄せる自分以外の存在に気付いているから。
実家で商売をやっているせいか誰が相手でも丁寧に対応する蓮に、玲奈は気が気ではありません。
五番隊の平和な昼休みは、きっといつもこんな感じです。


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