色彩
■ 46.誑し込む

「・・・く、ははは!!」
二人のやり取りを聞いていた豪紀は、こらえきれなくなったのか、声を上げて笑い出した。
「豪紀様?」
『加賀美君?』
そんな豪紀に二人は目を丸くする。


「はは・・・。あーあ。久しぶりにこんなに笑った。お前、深冬に全部見抜かれてんのな。深冬も深冬でそんなに辛辣だったか?つか、お前普段からは想像できないことしてんのな。」
豪紀はおかしそうに言う。
『五月蝿いな。それに、深冬が僕に対して辛辣なのはいつものことだよ・・・。』
青藍は拗ねたように呟く。


「お前が何故深冬を選んだのか、よく解った。深冬がお前を選んだ理由もな。深冬は守られるばかりだと思っていたが、そうでもないらしい。お前は、本当に強い。」
豪紀はそう言って深冬の頭を撫でた。
深冬はそれに目を丸くする。


「豪紀様?」
「何故俺はお前が怖いと思ったのだろうな。」
豪紀は不思議そうに言う。
『それは君が深冬をちゃんと見なかったからだ。』


「・・・そうだな。もっと早く、こうやって頭を撫でてやればよかったな。」
「豪紀様・・・。」
柔らかく言った豪紀に深冬は泣きそうになる。
「そうしたら、お前は、もっと早く、笑えたかもしれない。お前はいつだって俺の一歩後ろに居た。お前が霊術院で特進クラスに入るのを拒んでいたのはそのせいなのだろう?」


「それ、は・・・。」
「お前の力が俺より上なのは知っていた。・・・もう、遠慮などするな。お前は加賀美家の一員で、俺の妹だ。お前が誰の子どもであるかなど、関係ない。俺は、加賀美家当主は、深冬を家族だと、思っている。」


ぽろ、り。
深冬の瞳から涙が零れ落ちる。
「豪紀様・・・。」
名を呼んで、深冬は豪紀に抱き着いた。
「お?・・・仕方のない妹だな。」
少し驚いたようにしながらも、宥めるように深冬の背を叩く。


『ちょっと、僕の深冬を泣かさないでくれるかな。』
青藍はそれを詰まらなさそうに見つめた。
「何度も言うが、まだ、お前の深冬じゃない。」


『ちぇ。深冬から抱き着いたんじゃ邪魔も出来ない。』
「拗ねるなよ・・・。後半年ぐらい許せ。やっとここまで来たんだ。・・・ずいぶん遅くなってしまったが。」


『本当だよ。加賀美君ってば遠回りし過ぎ。家族になるのに、血の繋がりや、血筋なんか関係ないのに。僕とルキア姉さまだって血の繋がりはない。僕と深冬だってそうだ。でも、ちゃんと家族だ。・・・仕方がないから、半年ぐらい許してあげるよ。その後だって深冬の兄でいさせてあげよう。僕ってば寛大だなぁ。』
青藍は楽しげに言う。


「朽木青藍。」
『うん?』
「・・・礼を言う。」
『ふは。僕は僕のやりたいようにやっただけさ。礼を言われるようなことなど何一つやっていない。』


「・・・また嘘だ。散々ひっかき回したのはこのためだろう。」
青藍の言葉に、深冬は顔を上げる。
「はは。そうだな。深冬の言ったことはどうやら本当らしい。」
「はい。だから、青藍に一度巻き込まれると、離れられなくなってしまうのです。」


「そのようだ。どうやら俺も逃げられないらしい。本当に厄介な奴だ。」
「ふふ。そうですね。」
そう言って豪紀と深冬は笑いあう。


『・・・何さ。何でいきなりそんなに仲良くなっているのさ。そうやって僕は仲間外れだ。早く深冬を返してくれないかな。』
「はいはい。ほら深冬。あの男、拗ねると面倒だから行ってやれ。」
豪紀はそう言って深冬の背中を軽くたたく。
「はい。豪紀兄様。」
深冬はそう言って微笑むと、拗ねている青藍のご機嫌取りに向かったのだった。


「失礼いたします。」
青藍の機嫌が元に戻ったころ、そんな声と共に八重が姿を見せた。
「あら、お客様と聞いたから、誰かと思えば、青藍様じゃない。深冬様もいるのね。」
「青藍様もご挨拶?いや、謝罪かしら。あれだけの騒ぎを起こしたのですから。」
八重の後ろから梨花と実花が顔を見せた。


『やぁ、梨花実花姫。ご機嫌いかが?』
「省略するなら姫をつけなくてもよろしいのよ?青藍様に姫と呼ばれると、馬鹿にされている気分になりますし。」


『あはは。君たちが結婚でもしたらやめてあげるよ。八重殿もご機嫌麗しゅう。お邪魔させて頂いておりますよ。』
「ご足労頂き、誠にありがとうございます。」


『いえ。この間は大変なご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません。本日はそのお詫びとあの件のご報告に参りました。そして、新しき当主へのお祝いに。誠におめでとうございます。彼はきっと良い当主となることでしょう。大変心強い。』
青藍はにっこりと微笑む。


「あら。青藍様にそこまで言っていただけるとは、大変嬉しゅうございます。どうか、今後ともよしなに。」
『えぇ。もちろん。』


「・・・青藍、本当に誑し込んでいるのだな。」
深冬は呆れたように小さく呟く。
『んー?何か言ったかな、深冬?』
そんな深冬の言葉が聞こえたのか、青藍は深冬の頬をつまんだ。
「いひゃいぞ。」
深冬は不満げに言う。


「実際、誑し込んでいるからな。」
『五月蝿いよ、加賀美君。人聞きの悪いことを言わないでくれ。』
青藍は深冬の頬から手を放して、横目でじろりと豪紀を睨む。

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