色彩
■ 45.天職は詐欺師

『でも、何かあった時、助けになるものがあった方が安心でしょ?僕らは死神だから家がなくなっても生きていくことぐらいは出来る。橙晴と雪乃だって同じだ。でも、茶羅は違う。ま、茶羅も死神になろうと思えばなることは出来るけれど。』
「お前もちゃんと兄らしいこと言うんだな・・・。」


『五月蝿いな。我が妹はじゃじゃ馬の撥ねっ返りだからね。心配が絶えなくて大変なのさ。護衛をつけても、護衛を撒いてどこかに行ってしまうんだから。最近は睦月か師走じゃないと茶羅の護衛は務まらないんだもの。』
青藍はやれやれと首を振る。


「・・・ふふ。」
そんな青藍を見て、深冬は小さく笑う。
『あ、笑われた。深冬ったら何を笑っているのさ・・・。』
「ふふ。青藍はやっぱり青藍だと思ったのだ。」
深冬はおかしそうに言った。


『何それ?』
青藍は首を傾げる。
「やっぱり青藍は、嘘つきで計算高くて器用だから、詐欺師にでもなった方がいいと思う。きっと青藍の天職は詐欺師だ。」
『え、酷い。・・・ちょっと加賀美君、何笑っているの。』


「いや、その通りだと思って・・・。」
豪紀は口元を押さえて小さく震える。
「でも・・・。」
『でも?』
「でも、それは、いつも、誰かや何かを守っているからだ。自分のためにそうしているわけではない。」


『そんなことないよ?僕はいつだって自分のためになることしかしない。』
「またそうやって本心を隠す。いつもいつも、そうやって誤魔化す。だから、鬼だの悪魔だの言われるのだ。」
深冬は不満げに言う。
『だってそれは、本当のことだもの。』


「では、何故、朽木家の当主になったのだ。本当に自分のためを思うのならば、そんなことをする必要はない。ずっと、誰も青藍に当主になれと言わなかったのは、皆がそれを解っているからだ。でも青藍はそれを引き受けた。それは、自分のためなどではない。全てを守るためだ。私などよりもずっと未来を見据えて、常に一番いい方法を考えている。私はそれを知っている。だから、私は、青藍のそばに居るのだ。青藍が、本当は、誰よりも、皆を思っていることを、知っている。」
深冬は真っ直ぐに言う。


『そ、れは・・・。』
そんな深冬に気圧されたように青藍は言葉に詰まった。
「だから、守るために無茶をするし、自分を顧みない。この前のように平気で危ないことをする。あの時私は本当に怖かったのだぞ!」
『それは、ごめんなさい。』


「本当は弱いくせにそれを隠すから質が悪い。青藍だって怖かっただろう。あの日、青藍が眠れなかったのを、私は知っている。」
『な!?いや、そんな、ことは・・・。』
「ないといえるのか?」
深冬はじとりと青藍を見る。


『・・・何で知っているのかな。』
「あれだけ人の部屋の前をうろうろされれば、嫌でも気が付く。大方碌でもない夢を見て、私の生存確認にでも来たのだろうが、入るに入れなくて困っていたのだろう。それならそれで声を掛けるぐらいすればいいものを・・・。」
深冬は呆れたようにため息を吐く。


『だって、眠っているのを起こすのは、悪いと思って・・・。』
「それで次の日隈をつくっているなど、阿呆のすることだ。」
『う・・・。』
「私がそれを見抜いていないと思ったのか?ちなみに茶羅や雪乃様もそれに気が付いていたぞ。何故そうなったのかだって、きっと感付いている。それを指摘しないのは二人の優しさだ。」


『うわぁ。何それ。恥ずかしい。』
「青藍が弱いやつで、優しい奴だということはみんな知っているのだ。それなのに、適当な振る舞いをするからみんなに怒られるのだ。だから、やっぱり青藍は青藍で阿呆なのだ。」
『あぁ、うん。そうだね・・・。』


「大体、何かあると眠れなくなるのは昔からそうなのだろう。」
『な!?』
「ルキアさんが言っていた。青藍は誰かが危険な目に遭ったり、病気になったりすると一人で眠れなくなると。浮竹隊長が臥せった時などずっとそばに居たらしいではないか。白哉様や咲夜様が怪我をして面会謝絶にでもなると、ルキアさんの布団に潜り込んできたとか。」


『それ、は、まぁ、そうだった、けど・・・。』
「そういう時にルキアさんが居なければ居ないで、睦月にべったりだ。流石に最近はそんなことはしなくなったようだが。今だって隊士が殉職すると眠れなくなる。それを誤魔化すために舞を舞ったりしているのだろう。それから・・・む?」


『深冬・・・。もう、それ以上言うのは止めて・・・。』
青藍は若干顔を赤くしながら、深冬の口を手で塞ぐ。

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