色彩
■ 44.現実的

「言っておくが、向こうから話が来たんだからな。」
『慶一殿が?実花姫もそれでいいと?』
「そうらしい。俺を選んだというより、俺の母親で選んだと言った方がまぁ正しいが。」
『八重殿?』
「あぁ。妙に気が合ってな・・・。それで、俺に見合いの話が来たらしい。」


『・・・そうか。それは、大変だねぇ。』
青藍は苦笑する。
「実花さまは・・・大変ですね・・・。」
深冬もまた苦笑する。


「大変なんだよ・・・。あれは、俺の手に負えるのか・・・?」
豪紀は疲れたように言う。
『あはは・・・。さて、どうだろう。この僕を完全に騙した姫だからなぁ。手強いよ。』
「そうだろうな・・・。」


「でも、実花さまは悪い方ではありません。私の友人です。」
『そうそう。それで茶羅と雪乃の友人でもある。彼女らが友人として選んだのだから、良い女性だろう。それは保障するよ。』
「お前が言うならそうなんだろうな・・・。いや、加賀美家としてはこの上ない良縁だが。」


『あはは。当主の鑑だね。でも周防家は確かに良い家だと思うよ。慶一殿がちょっと人で遊ぶことが好きな人だから、大変だけど。そして次期当主であろう梨花姫も最近は中々頑張っているらしい。』
青藍は楽しげだ。


「お前がそれをけしかけたんだろう。お蔭でお前の株が母親の中でどんどん上がっている。人の母親を誑し込むなよ・・・。」
『ふふ。深冬を貰うためなら、八重殿を誑し込むぐらいするさ。』
「青藍、一体八重様に何をしたのだ・・・?」
深冬は怪しむように青藍を見る。


『深冬が欲しいなぁ、っておねだりしただけだよ?だから、八重殿、僕らを引き離すようなことはしなくなったでしょ?』
「完全に誑し込んでるじゃねぇか・・・。」


「そうですね。申し訳ありません、豪紀様。」
呆れたように言った豪紀に、深冬は軽く頭を下げる。
「お前が謝ることじゃない。こっちこそ、お前を上手く守れなくて悪かった。もう少し、待ってくれ。そうしたら、母様もお前と向き合えるだろうから。」


「はい。私も、いつかは向き合わなければなりません。そして、お礼をしなければ。何であろうと、八重様は私を加賀美家から追い出そうとはしませんでした。だから私は路頭に迷うことなく、今、ここに居ることが出来ます。もちろん、豪紀様たちのお蔭でもあります。ありがとうございます。」
真っ直ぐそう言った深冬に、豪紀は眩しそうに目を細める。


『ふふ。深冬、強くなったでしょ?頭を撫でるくらいなら、許可するよ?』
そんな二人を見て青藍は楽しげに言う。
「五月蝿いぞ。兄が妹の頭を撫でるのに、なんでお前の許可が必要なんだよ。」
豪紀は呆れたように言う。


『だって、深冬は僕のものだもん。』
「まだ、加賀美家の者だろうが。お前が深冬を貰うことが出来るのは後半年も先だろ。その先だってずっと俺の妹だっつうの。」
『うわ、加賀美君ってば、実は深冬のことすっごく可愛いよね。深冬が可愛いのは事実だけれども。』
「五月蝿いぞ、お前。」


『はいはい。・・・あ、ひとつ聞きたいことがあったんだ。』
何かを思い出したように青藍はいう。
「何だ?」


『深冬の白無垢をどうしようかと。加賀美家で何かあるならそれを着てもらってもいいけど。祝言を挙げるにあたって何か、伝統というか、慣習というか、そういう縛りは何かある?』
「いや、特には。母様の白無垢があるにはあるが。」


『うん。うちにも母上の白無垢がある。父上が母上のために生地から吟味した凄いのが。それに、深冬の白無垢を僕が作るというのも魅力的だ。母上の白無垢はルキア姉さまや茶羅や雪乃も着ることが出来るし、家から送り出すときの餞別にしてもいい。経済的に困った時、あれを売れば邸が数軒建つ。それだけあれば、それを元手にして何かをなすことも出来る。母上も好きにしていいと言っていたしね。』


「お前・・・現実的だな。」
豪紀は意外そうに言う。
『あはは。朽木家に居る間は守ってあげられるけど、家を出たらそれも中々難しいでしょ?朽木家の力を使うことは簡単だけれど、簡単だから、簡単に使ってはいけない。』
「まぁ、そうだな。」


『ルキア姉さまは・・・まぁ、大丈夫だと思うけど。』
「あぁ。それに、ルキアさんは私たち十三番隊の副隊長だ。」
自慢げに言った深冬に、青藍は微笑む。


『うん。問題は茶羅だよ。あの子は、邸の中に閉じ込められる子じゃない。それを許してくれる相手ならいいけれど、そう言う相手が居たとしても、今と同じ水準の生活をさせてもらえるとは限らない。まぁ、茶羅はそう言うことをあまり気にしない子ではあるけれど。薬草を求めて、その辺の山に一週間寝泊りするくらいだから。』
青藍は困ったように言う。

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