色彩
■ 42.腫れた両頬

翌日。
「痛い・・・。」
そんなことを呟きながら、睦月は六番隊にて仕事をしていた。
いや、青藍から仕事を押し付けられていた、という方が正しいが。


睦月の両頬は真っ赤に腫れ上がっている。
朝目が覚めた睦月に咲夜が容赦のない往復ビンタをくらわせたためだ。
その上、治療することを禁止されたので、睦月は自分で治療することも出来ないのだ。


『自業自得でしょ。あれは。』
「そうだね。本当にあの場に父上が居なくて良かったよ。」
そんな睦月に呆れたように言いながら、青藍と橙晴は書類を捌く。


『父上が居たら、睦月、今頃塵になっていたよね。』
「そうそう。」
「・・・俺、もうヤダ・・・。」
睦月はポツリと呟く。


『まぁ、気持ちは分からなくもないけれど。』
「まぁ、僕もそう思いますけど。」
橙晴は同意するように頷いた。
「いや、誤解すんなよ?俺は別に、何でもないからな?」


「いい加減認めないと、掻っ攫われるよ?」
「だから、俺はそれでいいんだって!」
『何それ。好きなら好きでいいんじゃないの?』
首を傾げた青藍に、睦月は複雑な顔をする。


「好きは好きだが、なんつーか、こう、俺は、それよりも、今ここに居る方が、大事なんだよ。・・・まぁ、お前らには解らんだろうが。」
「うん。解らない。」
『とりあえず朽木家が大好き、でいい?』
「・・・・・・まぁ、そうだな。」


『というか、あれで記憶が残っているとか、可哀そうに・・・。』
青藍は気の毒そうに言う。
「普通は記憶をなくして何で怒られているのか解らないものですけどねぇ。」


「俺、酔って正体なくしても、記憶はなくさないんだよ・・・。青藍を押し倒したこともばっちり覚えてるわ・・・。何やってんだよ、俺・・・。いっそのこと全部忘れてしまいたい・・・。」
睦月はそう言って頭を抱える。


『その上、朽木家当主たる僕を踏みつけたもんね。全く、誰が主か本当に解っているのかな?』
「いや、それは、解ってる。解っているから、こうして反省の意を表してんだろうが。だが、押し倒したのは不可抗力だろ・・・。つか、あれは診察だ。」


『あのねぇ・・・。だからって、何で僕が深冬の前で睦月に押し倒されて診察されなきゃならないの。信じられない。鬼。悪魔。いじめだよ、あれは・・・。深冬も酷いよ。助けてくれたっていいじゃないか。皆と一緒に楽しく見物しちゃってさぁ・・・。』
青藍は拗ねたように言う。


「あはは。兄様、深冬に憐みの視線を向けられていましたもんね。」
『睦月じゃなかったら、僕が切り刻んでいるところだよ・・・。』
青藍はそう言って睦月を睨みつける。
「いや、悪い。昨日は調子に乗って呑みすぎたんだ。あの二人を相手に、薬を飲まずに呑み比べなんかするんじゃなかった・・・。」


「・・・で?美味しかったの?」
橙晴は楽しげに聞く。
「・・・黙秘権を行使する。」
『へぇ。美味しかったんだ。』


「血が出るほど噛むとか、睦月、そう言う趣味なの?」
「まさか。誰が好き好んで血を流すんだよ・・・。俺は医者だぞ。」
『まぁ、そうだよねぇ。あれの前に、あと何回怪我を治せばいいんだ、って泣きそうな顔で言っていたものね。』


「それなのに自分が怪我させてどうするのさ。・・・あーあ。僕も食べたいなぁ。」
橙晴は羨ましそうに言う。
『僕も早く食べたいなぁ。』
青藍も睦月をからかうように言う。
そんな二人に、睦月は気まずい雰囲気を醸し出す。


「・・・あの、三席?」
そんな三人の会話が耳に入ったのか、四席が恐る恐る聞いてくる。
『うん?何?』
「一体、何のお話で?」


『「「白玉の話。」」』
「白玉?」
三人の答えに四席は首を傾げる。


『そうそう。昨日、酔った睦月が、白玉を食べたいがゆえに、僕を押し倒して、ついでにそのまま僕に怪我がないことを確認したと思ったら、その僕を踏みつけて・・・。大変だったんだよ。大体、この僕を踏みつけるとか、信じられないよね。』
「その上噛みついたものだから、流血沙汰でまぁ、大変。睦月は酔っても医者だってことがよく解ったけどさ。」


「・・・それは、大変ですねぇ。だから、睦月さん、そんな顔なんですか?」
四席は気の毒そうに睦月の顔をチラリとみる。
『そうそう。朝から制裁が加えられたのさ。そしてついでに僕らの仕事も手伝ってもらっているってわけ。まぁ、昨日あれだけ迷惑をかけたのだから、当然だよね、睦月?』


「そうそう。父上に黙ってあげているだけでも、僕ら、十分優しいよね?」
『父上が知ったら、睦月、死んじゃうもの。』
「そうですね。容赦なく命を狙われるよ。」
二人は楽しげに睦月に言う。
父上に黙っていてあげるから仕事を任せてもいいよね?
そんな副音声が睦月には聞こえてきた。


「一生懸命、頑張らせて頂きます・・・。」
そして睦月は怯えたようにそう言ったのだった。

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