色彩
■ 41.白玉が食べたい

『・・・痛いよ、睦月。そして重いよ。睦月?聞いているの?』
睦月に乗られた青藍は苦しげに言う。
「ん。」
言われて睦月は体を起こすが、青藍の上から退く気配が無い。
そして唐突に青藍の両腕を片手で拘束すると、もう一方の手で青藍の袂を広げた。


『何!?何なの!?僕に押し倒される趣味はないよ!!!睦月も何をやっているの!?僕も君も男だよ!?ちょっと、誰か助けて!!!!!』
青藍は焦ったようにじたばたともがくが、睦月が体重をかけているために、動けないらしい。


その場に居る者は楽しげに事の成り行きを見守ることにしたようだ。
誰一人として青藍を助けようと動く者はいない。
肌蹴た青藍を、睦月はまじまじと見る。
「んー?・・・怪我は・・・ないな?」
『いや、ないよ!!!今ちょっとぶつけた頭が痛い上に手首が痛いけど!!』


「あたま?青藍の頭の悪さは俺には治せないぞ・・・?」
睦月は首を傾げる。
睦月の言葉に皆が吹き出すように笑う。
『いやいや、そうじゃなくてだね・・・。』


「お前は、いつも怪我ばかりだ・・・。俺はあと何回お前の怪我を治せばいい・・・。お前だけじゃないぞ。白哉さんも、咲夜さんも、橙晴も、茶羅も、ルキアも・・・ルキア?」
そんなことを言いながら、何かに気が付いたらしい。


「私がどうしたのだ?」
ルキアは首を傾げる。
その声に気が付いたように、睦月はルキアを見つめた。


「な、何だ・・・?」
見つめられて、ルキアは戸惑っている様子だ。
「ルキアだ・・・。」
『ぐえ!?』
睦月はそう言うと青藍を踏みつけながら、ふらふらとルキアの方へ向かった。
ルキアの前まで来ると、その顔をまじまじと見つめる。


『睦月!僕を踏みつけるとか、酷くない!?』
青藍がそう騒ぐが、睦月には聞こえていないらしい。
そんな青藍に皆は気の毒そうな視線を向ける。
しかし、事の成り行きが気になるのか、すぐにルキアと睦月に視線を移した。
そんな皆にじとりとした視線を向けながらも、青藍も気になるのか、起き上がって着物を直しながら二人を見た。


「ど、うしたのだ、睦月?近いぞ?」
「・・・・・・白玉?」
『「「「「「「「は?」」」」」」」』
睦月の謎の発言に一同は呆けた声を出す。
「白玉は、美味いよなぁ・・・。」
「そ、そうだな・・・?」


「・・・食べる。」
「うん?今、私は持っていないぞ?」
ルキアは睦月の言葉に首を傾げる。
「・・・いただきます。」


「な!?む、睦月!?・・・い!?」
睦月はそう言って口を開けると、ルキアの首筋に噛みついた。
そしてそのまま力尽きたようにルキアを巻き添えにして倒れこんだのだった。


「・・・・・・寝たな。」
一瞬の沈黙の後、睦月の呼吸がゆっくりとしたものであることを見て取って、咲夜が呟く。
「寝たな・・・。」
それに応えるように浮竹が呟いた。


「今何か、信じられないものを見たような・・・。」
「私も。私、そんなに酔っていたかしら。」
「私は素面ですわ。」
橙晴、雪乃、茶羅がポツリと呟く。


『・・・とりあえず、この場に父上が居なくて良かった。』
「そうだな・・・。」
「そうですね・・・。」


『あの、ルキア姉さま・・・?大丈夫ですか・・・?』
青藍は睦月の下敷きになったまま微動だにしないルキアに声を掛ける。
「・・・。」
それでもルキアは動かない。


『姉さま?おーい。』
ルキアに近付いて青藍はルキアの目の前で手を振る。
するとルキアはプルプルと震えだした。
「・・・む。」
『む?』


「・・・睦月の阿呆!!!!!」
そんな声とともに、ルキアは睦月を蹴飛ばして脱出する。
「阿呆か、貴様!!!何をしてくれておるのだ!!!」
顔を赤くして涙目になりながら噛まれた首元を手で押さえ、ルキアは睦月に叫ぶ。
しかし、睦月はすやすやと眠っている。


「誰が白玉だ!食べるとは何だ、食べるとは!!!私は食べ物ではないぞ!!!思い切り噛みおって!!!見ろ、血が出ている!!!痛いではないか!!」
首元に当てた手を見て、その手に血が付いていることを確認すると、ルキアは叫ぶ。
しかし、それでも睦月が起きる気配はない。


『あはは・・・。』
それに青藍は苦笑するしかない。
「・・・まぁ、ルキア。傷を見せなさい。私が治してやろう。」
涙目のルキアを気の毒そうに見て、咲夜は言った。


「ね、姉さまぁ・・・。」
ルキアはそう言って泣き出した。
「あー、よしよし。泣くなルキア。すぐに治してやるからな。」
それをあやすようにしながら咲夜は治療を始めた。


「あー、なんつうか、弟が、すまん・・・。」
師走は気まずそうにルキアに謝る。
「う、うぅ・・・。」
『睦月、ちょっと本音が出ちゃったよね。』
「そうですね。食べたいのは白玉ではありませんけど。」
「だからって、物理的にルキア姉さまを食べるなんて・・・。」


「何故白玉なのだ・・・?」
『姉さまの好物が白玉だからじゃない?』
「血が出るほど噛むとはな・・・。」
「睦月さん、そんな趣味が・・・?」
「それは・・・大変だねぇ。」
口々にそんなことを言う。


「そうだな。ルキアを泣かせるとは。後で私が直々に再教育してやる。」
そんな咲夜の物騒な言葉が聞こえてきて、一同は睦月に憐みの視線を送ったのだった。

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