色彩
■ 39.父の帰宅

「ほう?私はそんなに怖いか?」
『!?』
そんな声が聞こえてきて、青藍はびくりと震える。


『あ、はは・・・。いえ。父上はとってもお優しいです。お帰りなさい。お疲れ様でした。父上のお手を煩わせまして申し訳ありません。』
青藍は丁寧に白哉に向かって一礼する。
「本当だ。私は疲れた。」
白哉はそう言って深いため息を吐く。


「そうか。それならばこれを食え。美味いぞ。」
安曇はそう言うと白哉の口にきんつばを突っ込んだ。
「!?」
抵抗する間もなくきんつばが白哉の口の中に入って行く。
「美味いだろう。」
それを確認した安曇は満足そうに頷いた。


それを見た青藍たちはそそくさと部屋の隅に避難する。
あれは駄目だ。
疲れているうえに、甘いものを食べさせたりしてはいけない。
青藍はこの後に起こるであろうことに内心頭を抱える。
橙晴も茶羅も深冬も遠い目をしている。
千景と薫は顔を引き攣らせていた。


白哉は恐ろしいほどの無表情で口の中のものを咀嚼して飲み込んだ。
安曇は暢気にかぼちゃのプリンに手を出している。
白哉はそれを睨みつけながら、青藍の湯呑に残っていたお茶を飲む。
そして、その湯呑を叩きつけるように置いた。


「安曇・・・。」
低く唸るような声で安曇の名を呼ぶ。
「ん?何だ?」
それを聞いても安曇は動じない。
「お礼に美味い物をやる。口を開けろ。」


「こうか?」
白哉に言われて安曇は口を開けた。
「ぐ!?」
白哉はその顎を掴んで固定する。
そして、容赦なく何処からか取り出した七味煎餅を安曇の口の中に放り込んで安曇の口を閉じた。


「む!?」
安曇はそれを驚いたように噛み砕く。
「ん?・・・・んんー!!!!!」
辛いものだと解ったのか、安曇は涙目になる。


『毎度のことながら、父上、容赦がないなぁ・・・。』
「安曇様も毎回やられているのに、学習しませんねぇ。」
「霊王宮の外に出ると、阿呆になるのではないかしら。」
「父様、辛い物を食べると唇が腫れてしまうのに・・・。」
それに見慣れた面々は呆れたように言う。


「四人ともなんでそんなに慣れているの・・・。」
「あれは、日常なのか・・・?安曇様は霊王宮の方なんだよな?朽木隊長、呼び捨てだったが。」
『えぇ。まぁ、いつものことです。あの二人、食べ物の趣味だけ、合わないんです。その他は息ピッタリなのに。』


「それを理解し合えないので、毎回ああなります。」
「白哉様・・・。本当に、毎回父様が申し訳ない・・・。」
「どっちもどっちよねぇ。」


「私は甘いものが好かぬと、何度言えば分るのだ。本当に呆けておるのではあるまいな?若いのは見た目だけか、この糞爺。」
涙目になっている安曇に白哉は怒りを滲ませて言う。


・・・父上、とても口が悪くなっております。
安曇様本人に向かって糞爺などと、恐れ多いことを・・・。
青藍は内心苦笑する。


「びゃ、びゃくやの、あほ!そっちこそ、にゃんかい、いえば、わかりゅのだ!か、かりゃいぞ!わたしは、かりゃいものが、きりゃいにゃのだ!」
安曇はどうやら辛さにやられて呂律が回らないらしい。


「阿呆はどちらだ。毎回痛い目に遭っているくせに学習しないとは。大体、今日の件はそなたが一族を纏める手が緩いから起こったことであろう。何故それで私がこんなに疲れねばならんのだ。その上、青藍と深冬を危険な目に遭わせおって。この阿呆。ついでに浮竹と京楽に咲夜を連れて行かれたではないか。あれらは呑み始めると長いのだぞ。」
白哉は安曇に冷たい視線を向けながら愚痴る。


『八つ当たりだ・・・。』
そんな白哉に青藍はポツリと呟く。
「青藍、何か言ったか・・・?」
それが耳に届いたのか、白哉は青藍を睨みつける。
『いえ、何も。』
「そなたもそなただ。深冬のためとはいえ、この私に丸投げして逃げおって・・・。」
白哉は唸るように言う。


『それは、本当に申し訳ないと思っております。ですので、明日の父上のお仕事は僕が引き受けます。父上はゆっくりとお休みくださいませ。何なら明日は非番にいたしましょう。もちろん、母上もご一緒です。』
そんな白哉に青藍は姿勢を正して早口に言う。
その言葉を吟味するように、白哉は動きを止める。


「・・・ならばよい。私は部屋に下がる。この爺を片付けておけ。」
白哉はそう言って未だ辛さに悶えている安曇を投げ捨てた。
『はい。お預かりいたします。』
そう言った青藍を一瞥して、白哉は去っていく。


『・・・ふぅ。危なかった。』
白哉を見送って、青藍は脱力する。
「兄様、余計なこと言うのやめません?」
「私たちの寿命まで縮んでしまいますわ。」


『あはは。いやぁ、お見苦しいところをお見せいたしました、先輩方。・・・大丈夫ですか?』
青藍は未だ固まっている様子の二人を覗き込む。
「・・・あぁ。」
「朽木隊長、相当不機嫌だったね・・・。」
『あはは。まぁ、明日になれば元に戻りますよ。』

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