色彩
■ 38.事情説明A

『それで、今回何故これが起こったかというと、まぁ、一族の中での権力争いといいますか・・・。』


「あの馬鹿など敵ではない。そもそも私は早々に引退したいのに後継が出来ないから引退することも出来ないのだぞ。能力があれば長の地位など幾らでもくれてやるわ。掟を変えてまで深冬を霊王宮に入れる必要がなくなったというのに・・・。」
安曇はそう言い捨てる。


『流石安曇様です。・・・まぁ、簡単に言うと、安曇様を引き摺り下ろすために、深冬と僕を利用しようとしたのです。深冬を安曇様の醜聞にしようとしたのだろうと思われます。』
それを聞いて深冬は顔を曇らせる。


「深冬がそんな顔をする必要はない。そなたは私の醜聞になどなり得ないのだ。」
そんな深冬を安曇は撫でる。
「私のせいで、父様が狙われることはないのか?」
「狙われたところでそう簡単にやられる私ではない。安心してよいのだ。いざとなれば青藍に頼ればいいのだからな。朽木家に逃げ込めば安全だ。」
『それは責任重大ですねぇ。』


「青藍。深冬さんが狙われた理由は解った。だが、それでは青藍が狙われた理由が解らない。」
「そうだね。他にも何かあるのだろう?」
二人に指摘されて青藍は苦笑する。
やっぱり、そこに気が付きますよね・・・。


『えぇ。・・・あの二人は、僕のことを愛し子と呼んでいたでしょう?』
「確かにそうだな。」
「前から青藍の噂の中に霊王の愛し子という噂があるけれど。」
『愛し子というのは事実です。・・・以前、母上が拘束されたことを覚えておいでですか?』


「そんなこともあったね。」
「青藍が咲夜さんを止めたんだよな、確か。」
『えぇ。そしてその後、母上が壊れた瀞霊廷をあっという間に元に戻してしまったでしょう?』


「そうらしいな。俺は隊舎内に居たから見てはいないが。舞だけで修復してしまったとか。」
「僕は遠くから見ていたよ。何事もなかったように壊れた建物が元に戻って行った。信じられない光景だった・・・。」
二人は思い出すように言う。


『・・・僕、やろうと思えばあれが出来るのです。母上と同じ力を僕も使うことが出来る。でも僕は漣の巫女ではないので、それで、愛し子と呼ばれています。』
「それはつまり・・・。」
「漣家の力が使えるということ?」


『そうです。まぁ、母上が漣の巫女なので仕方ないですね。先ほど確認したところ、一部ならば橙晴や茶羅も使えるそうです。橙晴は朽木家の血が濃いので少し難しいようですが。』
「それは初耳ですねぇ。」
「私も使えるとは知りませんでしたわ。」


『うん。僕もさっき知ったからね。・・・それでその漣家の力を利用しようと僕が狙われました。実は昨日の夜、加賀美家に僕を狙うといった趣旨の脅迫状が届いていました。お蔭で加賀美家には大変なご迷惑をお掛けしたのですが。僕を狙うなら最初から朽木家に来ていただければ、丁重にお相手いたしますのに。』
青藍は困ったように言った。


「なるほど。豪紀様たちのあの緊張感はそう言うことだったのか。」
「青藍の席が変わっていたのもそのせいなのかい?」
『えぇ。護衛を増やすには時間がなかったので、せめて誰からも見える位置に、と。そうすれば誰かしら気が付きますからね。・・・それにしても、あの時先輩方が動いてくださって助かりました。お蔭で二人を捕えることが出来ましたし。』


「あの時、最初に動いたのは豪紀様だった。俺はそれを見て、漸く体が動いたよ。」
「ふふ。僕も。皆、青藍の気迫に呑まれていたからね。あの場に死神の方もいたけれど、皆動けなかったと言っていた。あの場で動けるとは、豪紀様も胆が据わった方だ。」
二人は苦笑する。


『ふふ。加賀美君は当主に相応しい器ですよ。きっと、僕などよりも。』
「そうか?青藍、前よりも怖くなっているよな・・・。」
「そうだね。あの状況で笑える青藍が凄いよ・・・。周りの方が顔を青くしていたよ。」
『ふふ。まぁ、ああいう目に遭うのは初めてではありませんから。』
青藍は楽しげに微笑む。


『深冬が取り乱していないのに、僕が取り乱すわけにはいかないですし。それに、僕は朽木家の当主ですから。あの程度のことで取り乱したら、父上にボロボロにされます。そちらの方がよっぽど怖い。』

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