色彩
■ 36.加賀美家からの客人

「・・・青藍兄様、お客様が来られましたわ。」
十五夜たちと入れ代わるように、茶羅が姿を見せた。
『お客様?』


「えぇ。千景さんと薫さんのお二人がいらしているわ。深冬が相手をしてくれています。どうやら豪紀様の代理の様ね。橙晴と一緒に来られたの。父上と豪紀様はまだ質問攻めにされているらしいけど。」


『あはは。それは大変だなぁ。あとで父上に何かお礼をしなきゃ。・・・さて、じゃあ、行きますか。多分色々と聞かれるので、安曇様もご一緒に。』
「説明は面倒だ・・・。」


『説明は僕がやりますから。安曇様はそこに居るだけでいいです。菓子を用意するので黙々とそれを消費して頂いて結構です。』
「それなら行こう。」


『あはは。流石安曇様。・・・母上たちはどうしますか?』
青藍はそう言って首を傾げる。
「さっきルキアから連絡があって、どうやら浮竹と京楽が来るらしい。全く彼奴らも心配性だな。私はそっちに居よう。体が空いたら顔を見せてやれ。」
『はい。深冬と一緒に行きましょう。』


「じゃ、俺も。青藍、酒の用意は勿論してくれるんだよな?俺、今日働いたし。」
『ふふ。もちろん。酒も肴も好きなだけ用意してあげよう。じゃあ、師走も連れて行ってくれ。皆の分を用意してもらうよ。』
「よし。じゃあ、今日の説教はなしにしてやる。」
『ありがと。』


「じゃあ、私は兄様と行くわ。深冬も居ることだし。そのうち雪乃も来るでしょう。兄様、覚悟しておくことね。」
『あはは・・・。はぁい。行こうか、茶羅。』
そうしてそれぞれ動き出した。

『・・・お待たせして申し訳ありません。千景先輩も薫先輩もお久しぶりですねぇ。』
「やぁ、青藍。今日は大変だったね。」
「相変わらずのようだな。」
青藍の顔を見て薫と千景は苦笑する。


『あはは・・・。まぁ、あれですよ。仕方ありません。』
「兄様ですものね。」
「そうそう。兄様、何時だって騒ぎの中心にいるからなぁ。深冬も巻き込まれて大変だ。」


「今日は、私が青藍を巻き込んだ気がするが・・・。」
『ふふ。まぁ、お互いがお互いに巻き込んだよね。深冬もよく頑張りました。』
「そうか。深冬は頑張ったのか。偉いぞ。」
安曇はそう言って深冬の頭を撫でる。


「・・・そちらの方は?」
薫は首を傾げる。
『こちらは安曇様。深冬の実のお父上です。訳あって、深冬を加賀美家の養子とされましたが。』


「お初にお目にかかる。安曇だ。今日は我が一族の者が騒がせたようで申し訳ない。」
「いえ。お初にお目にかかります。峰藤薫と申します。」
「茅嶋千景と申します。お初にお目にかかります。」
二人は自己紹介をして安曇に一礼する。


「・・・よし。青藍。私の役目は終わった。早く菓子を出せ。その袖の中から。」
安曇は深冬の隣に座ると、子どもの様に言った。
『はいはい。今日はですね・・・秋なので、さつまいも入りの蒸しケーキだそうです。それからかぼちゃプリン、スイートポテト、きんつばと最中もありますね。』


「全部だ。」
『はい。どうぞ。』
青藍が袖の中からそれらを取り出すと、安曇は嬉々として食べ始める。


「安曇様、相変わらずね・・・。一体その体のどこに入って行くのかしら・・・。」
「僕、たまに安曇様はお菓子で出来ていると思う。」
「私もそう思う。普通の食事を口にするところをほとんど見ないからな・・・。」
次々と菓子を口に入れていく安曇を見て、三人は呆れたように言う。


『あはは・・・。さて、では、先輩方の用件をお聞きしましょうか。今日のことで何か話がおありなようなので。』
それに苦笑して、青藍は本題へと入った。
「あぁ。僕らは豪紀様の代わりに来たんだ。」
「加賀美家からの、というよりは、豪紀様からの伝言だな。」


『伝言?一体何と?』
「「後で事情を話しに来い。」」
『あぁ、なるほど・・・。』


「あの後当主様方への説明で大変でしたからね。僕と恋次さんも大変でした。父上も呪詛を呟いておられましたよ。まぁ、丸投げしましたものね。自分だけ深冬を連れてさっさと逃げ出して。」
橙晴はそう言ってじろりと青藍を見つめる。


『だってあの場に僕が残ったら、もっと騒ぎが大きくなって、加賀美家へのお祝いどころじゃなくなってしまうもの。それに、深冬が頑張ったから、早く邸に帰らないとと思って。』
青藍は拗ねたように言った。


「まぁ、確かにそうですけどね。後で父上に痛い目に遭わされますよ。」
『痛い目に遭わされる前に手を打つに決まっているじゃない。少なくとも明日の父上の書類仕事は引き受けるよ。』
「じゃ、僕の分もよろしくお願いします。」
橙晴はにっこりと微笑む。
『・・・はいはい。解りましたよ。』

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