色彩
■ 32.金と銀の怒り

「お帰り、青藍。事情は白刃と黒刃から聞いた。」
「兄様ったら、何処に行っても大変なのねぇ。」
青藍が邸につくと、咲夜と茶羅が出迎えた。


『あはは。そうみたいだ。お蔭で、加賀美家にご迷惑をお掛けしてしまった。加賀美君、質問攻めにされて、大変だろうなぁ。父上が居るから何とかうまく手伝ってくれると思うけど。・・・母上、茶羅。深冬の着替えをお願いします。』
「解りましたわ。」


「・・・ほら、深冬。おいで。」
咲夜はそう言って青藍の腕から深冬を抱き上げる。
「怖かったな。もう大丈夫だ。よく耐えた。」
「咲夜様・・・。」
優しく言った咲夜に深冬は抱き着いた。
『ふふ。では、僕も着替えてきます。・・・佐奈、着替えをお願い。』
「畏まりました。」


数刻後。
深冬を落ち着かせるようにいつも通りに茶を飲んで寛いでいた青藍たちの元へ、怜悧な雰囲気を醸し出した男が二人やってくる。


「青藍。馬鹿共の所へ案内しろ。」
「全く、余計な仕事を増やさないで欲しいよね。馬鹿に割く時間はないんだよ。」
開口一番そんなことを言い放ったのは、安曇と十五夜である。
あはは・・・。
腹を立てていらっしゃる・・・。
青藍は内心苦笑しながらも、案内のために立ち上がった。


「私も行こう。」
そんな二人を面白そうに見て、咲夜も立ち上がる。
『茶羅は深冬と居てあげなさい。僕らはちょっとお仕事に向かいます。』
「えぇ。ほどほどになさってね。邸の中で死人が出るとか、嫌ですわよ?」
『あはは。大丈夫だよ。ちょっとお話をしてくるだけさ。じゃ、行きましょうか。』


「あら?皆さんお揃いで。」
離れの縁で監視をしていた師走が、やってきた面々を見て目を丸くする。
『やぁ、師走。監視お疲れ様。・・・彼ら、目は覚めているかい?』
「一刻ほど前に起きたぞ。それからずっと睦月が説教しているが。毒が相当危ないものだったみたいだな。少しでも斬られていたら命に関わるぞ。良かったな、青藍。」
そんな物騒なことを師走は欠伸でもしそうな雰囲気で言う。


『あはは。それは大変だ。この後もこのお二人からお叱りがあるというのに。』
言いながら青藍は安曇と十五夜をチラリと見やる。
「ま、自業自得だろ。俺はここに居るからな。」
『僕も出来ればここに残りたいよ・・・。僕も睦月からお説教だ・・・。』


「それも自業自得だ。ほら、後ろの方々がお待ちかねだ。早く入れ。」
『はぁい・・・。』
師走に言われて青藍は渋々部屋の戸を開ける。


「お前ら、自分が何をしたのか解ってんだろうな・・・?あの怖いもの知らずの馬鹿は、大馬鹿者だが、あれでも居ないと困るんだよ。それを利用しようとしたうえに、こんな毒まで使いやがって・・・。あの馬鹿もあの馬鹿だが、お前らはそれ以上の馬鹿だ。霊王宮の奴だからって手加減すると思うなよ・・・?」
両手首を拘束されたまま、正座をさせられて、怒り心頭の睦月に顔を青くしている。


・・・やっぱり睦月、相当怒っている。
青藍は内心でため息を吐いた。
あれに声を掛けるの、嫌だなぁ・・・。


「・・・青藍、大変だな。この後。」
咲夜がぼそりと呟く。
『やっぱりそうですよねぇ・・・。僕だって別に好きで襲われたわけじゃないのに・・・。』
言って青藍はため息を吐く。


『・・・睦月。まぁ、その辺にしてくれ。交代だ。』
「あ?・・・あぁ、解った。」
青藍の声に睦月は不機嫌そうにこちらを向いたが、そこに居る者の顔をみると、部屋の隅に下がった。
男たちは安曇と十五夜を見てさらに顔を青くする。


「・・・最近顔を見せないと思っていたが、こんな形で顔を合わせることになるとはな。」
安曇が冷たく言う。
「君たちが何をしようと勝手だけど、僕にまで迷惑をかけるのは止めてくれないかな。」
続いて十五夜が不機嫌そうに言う。


「貴様らが先代の長の息子であろうと、容赦せぬ。」
「自らの力のなさを棚に上げ、安曇を引きずり降ろそうなどと浅はかだと思わないのか。安曇を引き摺り下ろしたところで、君たちが長になれるとでも思っているのかな。」


「「この、痴れ者が!!!!」」
安曇と十五夜は唸るように言う。


・・・僕、この人たち、怒らせない様にしよう。
伊達に長生きしてないわ。
迫力が山本の爺並み、いや、普段が割とアレな上に容姿が整っている分、それ以上かもしれない。
そう思って、青藍は静かに部屋の隅に移動する。


触らぬ神に祟りなし、だ。
咲夜も同じことを考えたのか、青藍の隣に移動した。
横目でチラリと見つめ合って、小さく苦笑する。
先ほどまで怒り心頭だった睦月も、二人の迫力に目を丸くしていた。


そして、この二人はいつものあの二人なのか、とでもいうように青藍に視線を向ける。
まぁ、普段があれだからね・・・。
たまに霊王宮の住人であることを忘れそうになるくらいだし。
青藍は内心苦笑しながら、それを肯定するように小さく頷く。

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