色彩
■ 31.お叱りは後で

「・・・青藍様。」
一通り指示を出し終えた青藍に、睦月が声を掛ける。
『うん?』
「御身を拝見させていただきます。」
睦月はそう言うと遠慮なく青藍の首元を見る。


「・・・ご無事なようですね。」
無傷なのを確認して、睦月は安堵のため息を吐いた。
『君と一緒に学んだ知識が役に立った。』
「それはようございました。ですが、青藍様にはまだまだ目付けが必要なようですね。毎度毎度このような目に遭われては、目を離すことも出来ません。」
睦月は呆れたように言う。


『私はもう当主になったのだけれどねぇ。』
「では、ご無茶はお控えください。御身がどれほど大切か、自覚なさい。」
・・・睦月、怒っているなぁ。
睨まれながらぴしゃりと言われて、青藍は内心苦笑する。


『善処する。』
「青藍様のそのお言葉、何度聞いたか解りません。本当に解っておいでで?」
睦月はじとりと青藍を見つめる。


「・・・この刃、毒が塗りこまれております。斬られていたら一大事にございました。どんな場であろうと、刃を向けられたら護衛を呼ぶくらいのことはしていただかないと困ります。全く、いつもいつも・・・。」
あぁ、睦月がお叱りモードだ・・・。
橙晴が横で苦笑しているのが分かる。


『・・・睦月、お叱りは後できくから。』
「えぇ、もちろん。後でたっぷりと時間をかけさせていただきます。」
『覚悟しておくよ・・・。とりあえず君は、その危険な刃を持ち帰って解毒してくれ。』
「・・・はぁ。解りました。では、失礼いたします。」
睦月は盛大なため息を吐くと、刃を持って退出していったのだった。


『さて、皆様、お騒がせいたしました。これ以降は慣例通り、お過ごしくださいますよう。』
青藍は微笑みながらそう言って会場内を見回す。
その柔らかい微笑に会場の雰囲気が和らいだ。


『本来ならば、この後、加賀美家にお祝いを申し上げるところですが、私どもは少々やるべきことが出来ました。本日はこれにて失礼させていただきましょう。後日、改めて加賀美家へ新しき当主誕生のお祝いに伺います。申し訳ありませんが、お時間を作って頂きたい。』
青藍はそう言って八重を見る。


「えぇ。もちろん。」
八重は微笑んでそれに頷いた。
この状況で笑ってくれるとは、流石だなぁ。
これでは尻に敷かれるわけだ。
顔を青くしている前加賀美家当主を横目で見ながら、青藍は内心で呟く。


『それから、今回加賀美家を巻き込んでしまったこと、謝罪いたします。この喜ばしい日を騒がせてしまいまして、申し訳ございません。』
「謝罪すべきはこちらの方にございます。警備を怠ったつもりはございませんが、朽木家当主たる青藍様を危険な目に遭わせてしまいました。大変、申し訳ありません。」
八重はそう言って頭を下げる。


『いえ。私のために手を尽くしてくださったこと、聞き及んでおります。その上、加賀美家の邸内に朽木家の護衛を配置させて頂いたこと、大変感謝いたします。ですから、頭を下げて頂く必要はございません。』
「ですが、結果的に青藍様の身に危険が及んでしまいました・・・。」


『ふふ。では、お互い様ということで。』
「それでよろしいのですか?」
『えぇ。加賀美家とは、長い付き合いになりますからね。』
「そのお言葉が何よりも嬉しい祝いの贈り物にございます。」


『・・・では、私どもはこれで。』
青藍はそう言うと顔を青くしている深冬を連れてその場を出ていく。
会場を出ると、青藍は深冬を抱き上げた。
それから瞬歩を使って真っ直ぐに朽木家を目指す。
小さく震えて、指先まで冷たくなっている深冬を温めるように抱きしめる。
『深冬、もう大丈夫だから。』
深冬はそんな青藍にしがみついた。


『・・・あ、父上!!』
途中、白哉とすれ違う。
互いに気付いて足を止めた。
「無事か。」
『えぇ。』
青藍が頷くと、白哉は青藍に抱き上げられている深冬を見る。


『限界を超えたようなので、連れ出してきました。拘束されても声一つ上げず、僕に刃が向けられても、取り乱しませんでした。・・・よく耐えてくれました。』
青藍はそう言って微笑む。
「そうか。良くやった、深冬。」
「・・・びゃくや、さま。」
震えながら深冬は白哉に顔を向ける。
そんな深冬に軽く微笑んで、白哉は深冬の頭を撫でる。


「あとは引き受ける。そなたらは休め。」
「はい・・・。」
『では、僕らは邸に戻ります。』
それに頷いて白哉は加賀美家へと向かっていく。
その背を見送って青藍は朽木家へと向かったのだった。

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