色彩
■ 30.冷たい瞳

「貴様、何故!!!」
男はそう言って拘束から逃れようともがく。
しかし三人がかりで取り押さえられているためにそれは叶わなかった。


『さて。その拘束具に不具合でもあったのではありませんか?ご自分で確かめられるのがいいでしょう。それをその方につけて差し上げなさい。』
青藍が言うと千景は落ちている拘束具を拾い上げて男の手首に取り付けた。
ついでに青藍も気絶している方に深冬を拘束していた物を取り付ける。


「貴様!!!!何様のつもりだ!!!!」
『おやおや、先ほどまでとは打って変わって騒がしいですねぇ。私は先ほど、見縊られては困ると申し上げた。それを聞いていたのにこの様とは。』
青藍はやれやれと首を振る。


「無礼者!!私にこんな仕打ちをして、許されるはずがない!!!」
『無礼はどちらです。この新しい当主が誕生するという日に、このような暴挙に出るとは。貴方がどんな身分の方であろうと、この場を乱していいはずがない。そして・・・貴方は、この私に刃を向けた。命があるだけましだと思いなさい。』


喚く男に青藍はぴしゃりと言い放つ。
その覇気にその場に居る者たちは自然と身震いする。
男は悔しげに奥歯を噛みしめて、青藍を睨みつける。


「・・・何が愛し子だ。穢れた禁忌の子を妻に選ぶなど底が知れる。」
吐き捨てるようにそう言った男に、青藍は無言で霊圧を当てながら男に近寄る。
男は苦しげに呻いた。
豪紀たちもまた、青藍の霊圧に当てられないように霊圧を上げる。


『・・・それ以上言えば、私どもへの侮辱と受け取って、この私が直々に貴方の首を撥ねます。貴方程度の首を落とすのに、斬魄刀は不要です。』
男の首に手刀を当てながらそう言った青藍の目は、刺すように冷たい。


「私を殺すことも躊躇わぬと言うのか。分を弁えぬか、小僧。」
呻くように言う男に青藍は冷たい視線を向ける。
『この私に、分を弁えろと申しますか・・・。今この場で名乗ることすら出来ない者が。』
青藍の言葉に男は悔しげに奥歯を噛みしめる。


『この場で名乗れば、自分たちの愚かさを露呈することになりますから。名乗ったところで、貴方の身分がどうであろうと、私はそうすることを躊躇いませんが。貴方方が誰であろうと、この私には関係ありませんので。貴方がご自分で私を「愛し子」と言ったことをお忘れなきよう。私を害せば、あの方が黙ってはおられない。』
青藍の冷たい瞳と言葉に男は軽く悲鳴を上げたようだった。
それを一瞥して、青藍は男の首元から手を離す。


『漸く大人しくなりましたか。ご自分の立場を理解して頂けたようで何より。』
冷たい微笑みでそう言うと、青藍は豪紀に視線を向ける。
『加賀美家の新しき当主にお伺いする。この場に他の者を入れても構わないだろうか?』
問われて豪紀は逡巡する。


「・・・構わない。当主引き継ぎの儀は既に終えている。」
『加賀美家の敷地内で起こったことであるため、加賀美家にて身柄を拘束することが妥当であるのは承知しているが、この者たちの身柄を朽木家に任せて頂けないだろうか?この者たちの処遇もこちらに任せて頂きたいのだが。』


「話を聞いていた限りでは、我が加賀美家では手に負えないようだ。私どもが手を出していい事柄ではないらしい故、朽木家にお任せする。」
『では・・・阿散井副隊長、橙晴、睦月、師走。それから白刃、黒刃。ここへ。』
青藍が言うと音もなく四人と二人がその場に現れる。


『師走と黒刃はこの者たちを連れていきなさい。邸の離れに隔離するように。監視は君と白刃、黒刃に任せる。白刃は先に邸に戻り、邸の者に事情説明を。・・・一応丁重に扱いなさい。後で客人に会わせなければならない。』


「「「畏まりました。」」」
言われてすぐに師走たちは動き出す。
喚いていた方の男に師走が容赦なく手刀を入れて、気絶させた。
流石師走だ。
それを見て貴族たちからざわめきが起こったが、まぁ、それは気にしない。


『阿散井副隊長は至急この事態を朽木隊長へ報告してください。すぐにこちらへお出でになることでしょう。それから、この後も加賀美邸の警護をよろしくお願いいたします。』
「はい・・・。」
恋次さんが、どこか怯えた様子なのも、気にしないぞ、僕は。


『この場は加賀美家にお任せしてもいいだろうか?』
「あぁ。」
問われて豪紀は頷く。
「茅嶋、峰藤両家の方も、お手伝いいただきたい。」
「「畏まりました。」」
豪紀に言われて千景と薫は軽く頭を下げる。


『では、橙晴はこの場に残り加賀美家当主の補佐をなさい。すぐに朽木隊長がいらっしゃる。事後処理は朽木隊長にお任せします。あの方が適任でしょうから。』
そして、青藍は橙晴に近付いて耳打ちする。


『父上が来たら、君は漣家に行って霊王宮に連絡をしてもらいなさい。』
「そのように。・・・では、こちらをお返ししておきます。」
橙晴はそう言って鳴神を差し出し、青藍は頷いてそれを受け取った。

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