色彩
■ 28.愛し子と禁忌の子

『・・・随分なご挨拶のようですが、私に何かご用でしょうか。』
そのまま青藍は静かに問う。
心の中で橙晴たちに連絡するように黒刃に呼び掛けた。


「大人しくしていろ。私の言うことを聞けば危害は加えない。」
男の声だ。
チラリと横目で見ると、頭巾を被っているために表情は窺えない。
男はそう言いながらも青藍の両手首に拘束具を取り付ける。
どうやら霊圧制御装置でもあるようだ。


『・・・とりあえず、話を聞かせて頂きましょう。』
動揺を見せない青藍に、会場内もまた静かになる。
「・・・胆の据わったことだ。流石愛し子といったところか。あの方々が気に入るのも頷ける。」


その言葉に青藍は確信する。
この人は霊王宮の者だ。
先ほどの現れ方も、十五夜様や安曇様と同じだったし。
そして、霊王宮の中でも霊妃様の存在を知る者。
「あの方々」と言っているのがその証拠だ。
霊妃様から話を聞いた限り、霊妃様の存在を知っているのは霊王宮の中でも一部の者だけなのだ。


霊妃様を知らぬのならば、僕のことを「あの方」の愛し子というはず。
つまりこの男は霊妃様の存在を知る者。
あの方の存在を知るのは、十五夜様に、その秘書官であり霊妃の右腕である響鬼。
霊妃様の一族の者。
そして霊王様。
・・・深冬の存在が霊妃の一族に漏れたと考えるのが妥当かな。
そう考えて、青藍は内心でため息を吐く。


『騒いだところで、どうにもならないと思っているだけですよ。それに、この手のことは初めてではありませんので。』
青藍の言葉に相手は詰まらなさそうな雰囲気を醸し出す。
「まぁ、いい。・・・あの娘とともに、我らに下れ。」
見ると、深冬も拘束されているようだった。
刃を突きつけられてはいないが。


『嫌だと言ったら?』
「その命を奪う。」
淡々と答えられて青藍は内心苦笑する。
『それは困りますねぇ。』
「では、我らに下れ。」
『それは難しいかと。』
青藍はきっぱりという。
「何故に?」


『私は、朽木家の当主にございます。その役目を放り出せとおっしゃるのですか?貴方方が朽木家の役目をご存じないとは思えませんが。そして、あの娘はその朽木家の当主である私の妻となる者です。そう簡単には、貴方方に下ることなどできません。』
青藍は貴族然として言う。


「そなたが居らずとも、そなたには朽木橙晴という弟が居る。あれが当主となれば問題ない。見たところ、あれも当主となることが出来る器であろう。」
『それも難しいですねぇ。私が朽木家の当主となったように、あの者にはあの者の役目がございます故。』


「では、断ると?」
その問いに青藍は小さく笑う。
『さて、どう致しましょうか。』
笑ってそう言った青藍に相手はイラついたようだった。
しばらくその場に沈黙が落ちる。


『・・・こちらから質問しても?』
「・・・いいだろう。」
『私どもをどうするおつもりで?』
「そなたらを使って我ら一族を率いる者を引き摺り下ろす。」
『私どもにそんな力があると?』
「愛し子と禁忌の子。この二つが揃って、その程度のことが出来ないとでも?」


・・・やはり、深冬が誰だか知っている。
蹴落としたいのは安曇様か。
深冬を使って安曇様の醜聞とし、僕を使って霊妃様が自分たちを選んだ、とでも言うつもりだろう。
権力争いは余所でやってくれ、と思うのは僕だけだろうか。


『可能か不可能かで言えば、可能でしょうね。・・・して、その目的が達せられた後は?』
「その後も我らと共に。そなたにはそれだけの利用価値がある。」
『ふふ・・・。』
男の答えに青藍は思わず笑う。


「・・・何がおかしい?」
『いえ・・・。質の悪い冗談だと思いまして。』
そんなことをすれば、僕の心臓は貫かれる。
どうやら、僕らと漣家の契約のことは知らぬらしい。
青藍はわざとくすくすと笑う。


笑って体が揺れているついでに両手首の拘束具の解除に取り掛かるためだ。
僕だって、無駄に睦月と一緒に十二番隊に出入りしていた訳じゃない。
霊圧制御装置の組み込まれた拘束具のおおよその仕組みは理解している。
もっとも、それは死神になる前の話だが。
阿近さんは質問すれば面倒そうにしながらも丁寧に説明してくれた。
それでも同じ説明を二度はしてくれなかったので、必死で一回で覚えた記憶がある。

[ prev / next ]
top
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -